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■SS
■いつもだったら
「タマキ、今日飲んで帰らないか?」
「いいよ。」
意を決しての誘いに拍子抜けするくらいあっけなくOKされて。
「なんだったら他の奴も誘うか?」
この言葉にも、いつもだったら「そ、そうだな」とかいい人ぶって相槌を打って後悔して。
けれど、今日は。
「・・・二人は、いやか?」
「全然。カゲミツがそれがいいなら。そういやカゲミツと二人で飲むのも久しぶりだし、二人もいいかもな」
と、これまたアッサリ二人で飲むことになって嬉しいやら楽しいやら。
こんなに仕事終わりが待ち遠しいと思ったことなんてなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そう、

いつもだったら。

いつもだったらこんな飲み方はしない。
こんな酔い方はしない。

カゲミツは酒に強い方だし、無茶な飲み方はしない。
タマキを介抱したことはあるが、自分が介抱されたことは今までない。

けれど今日はタマキと二人で飲める、ということでタガが外れたのかピッチが早すぎた。
途中でタマキもそのハイペースさに気がつき何度か「大丈夫か?」と聞いていた。
その度に「全然大丈夫!」と浮かれて答えていたが・・・、この後カゲミツの記憶はプッツリと途絶えることになる。

「タマキ!俺ね、本当にタマキが好きだ!」
梅酒ロックを一気に飲み干すとカゲミツが言った。いや、叫んだと言う方が正しいか。
「カゲミツ、大丈夫か?・・・もうやめておいた方が・・・」
「いや全然平気。マスター、同じのお代わり!」
バンプアップのマスターもタマキと顔を見合わせ「これで最後にしとけ」とグラスを差し出すが、カゲミツの耳には当然届いていない。
「マジで好きだ!このまま外に出て叫べるくらい!」
勢いよく立ち上がったカゲミツを慌てて押さえる。
「とりあえず、とりあえず座れって!」
「俺!!ほんっとーにタマキが好きだ!!」
「わかった・・・わかったから・・・」
「マスター、俺ね、本当にタマキが好きなんだ!」
「やめろ!!」
マスターにまで切々とタマキが好きだと訴え出すカゲミツをタマキは慌てて制する。


そんなカゲミツの動きがピタッと止まり、口元を手で押さえる。
「気持ち悪い・・・」
「ちょ・・・ッ大丈夫か!?ここで吐くなよ!?」
トイレに駆け込むカゲミツを見て、マスターは冷たい水を用意してくれた。
だが、当のカゲミツは出てくると、
「あ〜スッキリした!マスター、ビールね!」
「もうやめとけ!」
マスターとタマキは声を合わせて叫んだ。


これ以上はさすがにもうダメだと、店から出ようとカゲミツを促すが、
「いやだ!飲む!だってタマキ帰っちゃうだろ!?」
と、抱きついてきた。
「カゲミツ、もうこれ以上飲んだら体に悪いよ」
優しく背中を撫でるとカゲミツは「もっと一緒にいたいんだ・・・」と呟いた。
「十分一緒にいるだろ?」
「だってカナエやアラタばっかりタマキと一緒にいて、あいつらズルイんだ!」
何でここでカナエやアラタの名前が出てくるのか、タマキにはわからなかったがマスターにも迷惑がかかるし、と駐車場へと連れ出した。
「いやだー帰りたくないーッもっとタマキと一緒にいたいー!」
叫ぶカゲミツを引きずるようにして地下駐車場へと急ぐ。

「ヒカル!開けて!!」
ワゴン車のドアをガンガン叩くと何事かと言う顔をしたヒカルが顔をのぞかせた。
「どうしたんだよ?」
「どうしたもこうしたも・・・」
カゲミツはタマキの肩にもたれかかるように抱きついている。
「カゲミツ、酔ってるのか?」
「酔ってない。タマキが好きなだけ!」
「・・・大体の事情は飲み込めた」
両脇から抱えるように二人でカゲミツを支え促すが、タマキに抱きついたまま動こうとしない。
「ほら、カゲミツ入れって」
「いやだ!入らない!!タマキ帰らないでー!」
ヒカルは、犬が散歩途中に「もう一歩も動きません!」と踏ん張っている姿を思い出した。
「仕方ないからタマキも泊まっていったら?」
ギューッとタマキにしがみついているカゲミツを見てヒカルが溜息をついた。
「まあ・・・俺は別にいいけど、狭いだろ?」
「俺、ミーティングルームで寝るよ」
ヒカルは一度車に入ると毛布を取り、そう言った。
「それは悪いよ!」
「平気だって。それよりカゲミツのこと頼むな」
酔っ払いの相手は面倒くさい・・・とばかりに体よくヒカルは逃げて行った。
仕方ないな・・・とタマキは呟くと、カゲミツの肩を抱いて車の中に乗り込んだ。
幸いなのは、明日は休みだと言うことだ。
「カゲミツ、少し離れろって。俺も泊まっていくから」
「本当に?帰らない?」
「帰らないよ」
苦笑して答えるとカゲミツは嬉しそうに笑った。
その笑顔になぜかドキッとするが、カゲミツが「よし、じゃあ飲もうタマキ!」と車備え付けの小さな冷蔵庫からビールを取り出したのを見て肩を落とした。
「もう飲まない!もうやめとけって!」
ビールを取り上げるとカゲミツはひとしきり文句を言ったがやがて大人しくなった。

顔を伏せてしまったので眠ってしまったのかと肩に手を置くと、その手にカゲミツの手が重ねられた。
「タマキ・・・、俺・・・」
カゲミツは真剣な眼差しでタマキを見つめ、そのままタマキを引き寄せた。
「カゲミツ・・・?」
背中に腕を回され強く抱きしめられる。
首筋にカゲミツの息がかかり、思わず身を震わせるが、そのままカゲミツの体重がタマキにかかってきた。
「・・・ッ、カゲミツ・・・!・・・カゲミツ?」
そのまま押し倒されるのかという勢いだったが、様子がおかしいことに気付き抱きついたままのカゲミツの顔を覗き込んでみると、カゲミツは安らかな寝息を立てていた。
この日、タマキは幾度目かわからない溜息をついた。


今日で何回「好きだ」と言われたことか。
がっちりとホールドされ下手に動けないので、そのままタマキはカゲミツに寄り添うように横になった。
すぐそばにカゲミツの顔。
見れば見るほど端正な顔立ちをしている。以前も王子様みたいだと思ったが…。
その「王子様」が叫び、喚いていた様を思い出し、タマキは少し可笑しくなった。
そっと手を伸ばし、髪の毛を優しく梳くとカゲミツの唇が微かに動いた。
「・・・・・・タマキ・・・」
起きたのかと思ったが違うようだ。
「寝言までかよ・・・」
クスッと口元を綻ばせたが、タマキはその笑みをすぐに引っ込めた。
「・・・・・・・・・、」
おそるおそる手を伸ばし、カゲミツの唇をなぞる。
この時の気持ちを、どう表現したらいいのかわからない。
タマキは、自身の唇をカゲミツのそれにそっと合わせた。
触れるか触れないかだったが、タマキは自分の行動に驚き慌てて顔を離した。

そのままカゲミツの胸に顔を埋める様に目を瞑った。

心臓の鼓動が早い。

自分も、多少酔っ払っているのかもしれない。
いや、きっとそうだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

次の日。

目を覚ましたカゲミツはぼんやりとした頭でここがいつものワゴン車であることをまず理解した。
いつ帰ってきたんだっけ?と眠い目をこすろうと腕を上げようとして気がついた。
腕の中にタマキがいることを。
「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」
思いっきり叫びそうになって慌ててもう片方の手で口を塞いだ。
なんだこの状況は?え?まさか…いや違うだろうお互い服は着たままみたいだし言葉がぐるぐると渦巻くが、残念ながら頭の中はまったく回転しない。
「ん・・・、」
もぞ、と腕の中でタマキが身じろぎ目を開けた。
「あ・・・おはよう、カゲミツ」
「お・・・おはよう」
タマキは起き上がると大きな欠伸をした。
「カゲミツ、大丈夫か?気分悪くない?」
蒼白になっているカゲミツを見て、タマキは二日酔いの心配をしたようだ。
「あの・・・タマキ・・・も泊まってってくれた、のか?」
「覚えてないのか!?」
「今・・・記憶を総動員してるんですが・・・、正直バンプアップにいた辺りからまったく・・・」
動揺のあまり、敬語になっていることにも気がつかないようだ。
「お前、すんごい酔っちゃってさ〜、途中で吐くし、」
「吐いた!?俺が!?」
「その後も帰らないでくれって叫ぶし、抱きついたまま離さないから俺も泊まっていったんだよ」
タマキの言葉にカゲミツは頭を抱えた。
「そういえば、ヒカルは!?」
「ああ、ミーティングルームで休んだんだよ。ヒカルにはちゃんと謝っておけよ」
撃沈。
「あの・・・俺、なんてお詫びしたらいいのか・・・」
「いいよ、別に。カゲミツがあんなに酔っ払うなんて珍しいな」
タマキはにっこりと笑うと、ミーティングルームにヒカルを迎えに行こうとカゲミツを促した。


ミーティングルームに入ると丁度ヒカルが毛布をたたんでるところだった。
「おはよう」
タマキの後ろからどんよりとした表情のカゲミツが姿を見せる。
「おう、タマキに謝ったかー?」
ニヤニヤと笑いながら「ついでに俺にも謝れ。っつか土下座しろ」と言うと、カゲミツはすかさず言われたとおりに土下座した。
「マジすんませんっした!!」
「おもしれ〜」
ヒカルはくくっと喉を鳴らして笑った。
「大丈夫だったか、タマキ?」
「なにが?」
「こいつに変なことされなかった?」
冗談のつもりで軽口を叩いたが、瞬間的にタマキの顔が赤くなったのをヒカルは見逃さなかった。
「俺、他にも何かした!?」
「何もされてないよ!」
笑ってタマキは答えるが・・・、やはり頬は赤くなっているようで。


「死にてぇ・・・」
項垂れるカゲミツの背中をヒカルはポンポンと叩き慰めた。
「絶対タマキに嫌われた・・・どうしよう・・・」
涙目になるカゲミツを見てヒカルは、
「・・・案外、そうでもないかも」
と呟いた。その声はカゲミツには届いていないようだが。

むしろ、逆?

ヒカルはそっとタマキを盗み見た。

もしかしたら、これがいいきっかけになるかも?

とは、ヒカルだけが感じたコト。

・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。

酔っ払いカゲミツが書きたかったので(笑)
まあ、酔うと本音が出ますしね・・・って、私はお酒が飲めないのですが。
ヒカルはいい子ですよね〜。心底カゲミツのことを応援してるし、案じてると思います。

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あきゅろす。
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