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■SS
■美味しい時間
その日のカゲミツは朝からずっと集中していた。
何やら新しいプログラムを思いついたとか、組むとか・・・ノートパソコンを前に手を休めることがない。
朝のミーティングを済ませると、カゲミツはソファに陣取りただひたすらに手を動かしていた。



昼を回ってもカゲミツが休憩する様子はなかった。
「タマキちゃん、一緒にお昼食べに行かない?」
アラタが声をかける。
「ああ、そうだな。・・・カゲミツ、」
タマキはノートパソコンを睨んでいるカゲミツに近づくと、
「もう12時過ぎたぞ」
と声をかけた。
「俺たち、外に食べに行くけど一緒に行かないか?」
その声に、ようやくカゲミツは顔を上げ、時計を確認した。
「・・・あ〜、俺、時間ずらして休憩取らせてもらうわ。悪いな」
「そう・・・か。あまり根つめるなよ」
普通ならばタマキの誘いなら喜んで受けそうなものなのに・・・とは口には出さず、アラタはタマキの腕に自身の腕を絡みつかせ早く行こうと急かした。

結局、カゲミツは昼食を取ることもせず作業に没頭していた。
「カゲミツ、少し休んだら?」
再度タマキが声をかけたのは16時をまわった頃だった。
「ああ・・・、もう少ししたら・・・」
タマキの方を見ることもせずPCの一点を見つめている。
「じゃあ、コーヒーでも飲むか?」
「ん・・・。いや・・・いい・・・」
「・・・カゲミツ!」
まともな返答がないことに苛立ち、タマキの口調が荒くなるが、
「タマキ」
ヒカルが見かねて声をかけた。
「放っておけよ」
「ヒカル・・・」
「集中してやりたいっつってんだから、放っておけばいいじゃん。腹がすけば自分でも気がつくだろ」
「でも、体に悪い、」
「だとしても、一日食わないくらいで人間死にはしないよ」
四六時中一緒にいるヒカルは、カゲミツのことをよく心得ている。
集中している時は何を言っても無駄なのだ。
とは言え、タマキがこんなにカゲミツのことをかまうのも実は意外だった。
タマキはと言うと、放っておけと言われたことに少し不服そうにしていたが、ヒカルの言うことにも納得したようでその場を離れた。

18時を過ぎると、仕事にケリをつけようとする者、残業覚悟の者・・・それぞれペースが変わってくる。
タマキはと言うと、今日はそれほど立て込んではいない。
いや、それを言うなら全員忙しくはないのだ。
だからこそカゲミツも思いついたプログラムに取り組んでいるのだろう。
タマキは自分の仕事をあらかた終えると、カゲミツを見て、
「俺、やっぱりコンビニで何か買ってくる」
と、部屋を出て行った。

コンビニの袋を提げて戻ってきたタマキはカゲミツの隣に腰を下ろした。
相変わらずカゲミツはノートパソコン相手に休まず手を動かしている。
タマキが隣に座っても気がつかないようだ。
「カゲミツ、おなかすかないのか?」
「・・・ん〜、」
画面から目を離すことなく生返事だ。
タマキは袋から買ってきたおむずびを取り出すとビニールを破き、カゲミツの口元に持っていった。
カゲミツは差し出されたおむすびを(おそらく無意識に)一口食べた。
だが、流石に食べにくいと感じたのか、そのままタマキの手からおむすびを取り片手で器用に食べ始めた。
その様子をタマキは嬉しそうに見ていた。
「・・・なんかさぁ、拾ってきた犬がご飯を食べるのを見て喜んでる人みたい」
「アラタ、それタマキ君に対しても失礼だよ」
タマキがカゲミツをかまうのを快く思わないのが二人。
アラタもカナエも、放っておけばいいのに・・・と顔に書いてある。
タマキは続いて温めてもらったドリアを取り出すと袋を破り、スプーンと一緒に差し出した。
「カゲミツ、ドリアも食べるか?」
「・・・ん・・・。置いといて」
言われたとおりテーブルに置いておくが、一向に手を伸ばす様子がないのでタマキはムッとした様子でドリアを一匙すくうとカゲミツの口元に持っていった。
「ちょ・・・ッ、タマキ君それは・・・!」
カナエが慌てるのも無理はない。
状況はどうあれ「はい、あーん」状態なのだから。
憮然とした表情のまま、タマキはスプーンをカゲミツの口元(というより鼻先)から動かさない。
カゲミツは相変わらず視線はそのままに、少しだけ首を動かしタマキの持つスプーンからドリアを食べた。
たまきは満足げな表情だが、それを見つめる面々は複雑な面持ちだ。
「もう一口食べるか?」
視線をドリアに落としすくおうとすると、急にカゲミツの手の動きが早くなった。
ダダダッとタイピングすると、
「・・・できたぁ!!」
カゲミツは背中を反らして天井を仰いだ。
は〜ッと脱力し目を瞑っている。
「お疲れ様、終わったのか?」
すぐ横で聞こえるタマキの声に我に返り、ビクッと身を震わせる。
「・・・タマキ?」
と、口の中に残るチーズの味に気付き、横に座るタマキと、タマキの持っているドリアと・・・を交互に見る。
「もしかして・・・食べさせてくれてたのか!?」
「集中するのも程々にしないと、体に悪いだろ。朝から何にも食べてないんだぞ?」
「あ、ああ・・・」
そういえば、すごくおなかがすいている。
食べる時間がもったいないというか、何も考えていなかったがタマキに心配をかけてしまったのだろうか?
しかも、食べさせてくれたことを一切覚えていない!

カゲミツは手を握り締め、勇気を振り絞った。
「あ、あの、タマキ!」
「ん?」
「あの・・・、できた・・・んだけど、まだ手を加えるところがあるって言うか・・・ッその・・・おなかはすいてるんだけど、サポートしてくれたらなぁ・・・って・・・」
まだ食べさせて欲しい、と言う意図を伝えようとするが、いかんせんしどろもどろ過ぎる。
「あ、あの・・・だから・・・、」
タマキはキョトンとした目でカゲミツを見ていたが、ニッコリ笑うとスプーンを持ち直した。
「仕方ないなぁ、カゲミツは!」
そう言うと、ドリアをすくいカゲミツへとスプーンを差し出した。
「はい」
という飛び切りの笑顔つきで。
カゲミツは真っ赤になりつつ、タマキの手からドリアを食べた。
「うまいか?」
「自分自身に録画機能があればいいのに」
「は?」
「いや、何でもない」
モグモグと口を動かしながらカゲミツは幸せの余韻に浸った。
「あ〜あ、幸せそうな顔しちゃって」
ヒカルが苦笑しながら呟くと、すぐ隣でメキッという嫌な音がした。
悪寒を感じ隣を見ると、カナエが飲み終えた缶コーヒーを握りつぶしていた。
アラタも苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、流石子供は利に聡い。
思いついたように席を立つと、小走りにソファに近寄り、
「カゲミツ君、お疲れ様!」
「わっ!」
言いながらカゲミツに後ろから抱きついた。
「タマキちゃん、それ美味しそう!僕も一口食べたいな〜」
無邪気に甘えつつ自分も・・・とおねだりをする。
同じスプーンを使えばカゲミツと間接キスになるのだが、そんなことはこの際どうでもいい。
タマキの手ずから、ということが重要なのだ。
「ははッ、アラタも食いしん坊だな」
タマキは笑いながらアラタにもドリアを差し出した。
「美味しいね、カゲミツ君!」
ニコニコと無邪気に笑い、アラタはドリアをほおばる。
「ああ・・・、」
対して邪魔をされたカゲミツは引きつり気味だが・・・。

カゲミツの首に抱きついたまま、アラタは小さく笑った。
今日のタマキちゃんてば、カゲミツ君のことばかり気にしてたんだよね・・・。
最も、それを教えるほど親切ではないけれど。

まだまだ。
まだ、気付かれては困る。

タマキちゃんにも。
カゲミツ君にも。

・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。

ダブクロ2の13話・・・?かなんかで似たシーンがありました。
ナイツの情報引き出す時にタマキがカゲミツの汗を拭いてあげるシーン。
普通何とも思ってない奴にやらねぇよッと思いましたが。
たった一日でプログラムが組めるのかとか言う突っ込みはナシの方向で。

ちなみに女性がよく言う「どんなに忙しくてもメールの一つもできるでしょ!」というアレ。男性は一度仕事モードになると簡単に彼女の存在を忘れます。なので「彼女にメールをしよう」というのも無理。カゲミツも集中したらきちんと(?)タマキのことは後回しになると思います(笑)

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あきゅろす。
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