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気にするな……そうは言っても、気にするなと言う方が無理に決まっている。

「羽入は他人事だからそんなことが言えるのですよ……ボクは沙都子を助けられたのに……」

「いいえ、梨花……もし梨花が事前に悟史や沙都子に教えていたとしても、きっと何も変わらなかったと思います、だから気にすることはないのですよ」

羽入は慰めるために、そう言ってくれてるのだろうけど、正直気休めにもならない、ボクは助けようともしなかったのだから、それは見捨てるのと同じことだ。
沙都子たちは崖の淵に掴まって助けを求めていたのに、ボクはそれを見捨てた。今回はきっと落ちないと高をくくって、ジッと沙都子たちが落ちるのを見物していた!
そんなことしてる間に手を掴んであげれば、容易く助けられたのに…今頃崖の上で笑い合えてたはずなのに…ボクはそれをしなかった。
……何でしなかったんだろう…こうなることをボクだけはわかっていたのに。
後悔が胸に広がって、思わず胸元を押さえる。でも少しも効果はなくて、心は苦しいまま、罪の意識がチクチクとボクを苛む。

……せめて明日悟史に謝ろう…あっでも悟史はそのことを知らない訳だから、謝られても戸惑ってしまうだろう……それに謝ったくらいじゃ、とても罪を償えない、取り返せない……
心がますます苦しくなる、その胸の苦しさを和らげたくて、つい羽入に助けを求める。

「羽入……ボクはどうしたら、罪を償うことが出来るのですか…」

「……ぁぅ………」

「………そんな方法はないのでしょうか……」

「あぅ、とりあえず、明日悟史に聞いてみればいいのですよ。悩むのはそれから、それから」

聞くって何を……?
そう聞こうと思って羽入を見たけど、その表情から、ボクを明るくしようとしているだけだとわかって聞くのをやめる。
多分羽入も償う方法なんてわからないにちがいない……
ただ、ボクの悩みを和らげようとしてるだけで、特に根拠はないのだろう。

そんな言葉じゃ胸の苦しみは消えなくて、沙都子たちへの罪悪感に、後悔や苦しみがますます心を締め付ける。
ボクはその胸の苦しさに自然としゃがみこんでしまう、でも今度は苦しさを消そうとなんて思わない。
……罪を償うことが出来ないなら、ボクはもっともっと苦しまないとダメ、沙都子たちはもっともっと苦しいのだから……
沙都子たちは心だけじゃない、叔母に虐められて体も痛いんだ。
ボクは電話の置いてある台の角の部分を拳で叩く、トンッ!トンッ!トンッ!!

「あぅあぅあぅっ!!梨花!何をしているのですかっ!?」

手が痛くて赤くなる…でもまだ足りない、痛くても力を込めて叩く、何度も何度も!
トンッ!トンッ!トンッ!!!

もっともっと、痛くしないといけないのですっ!トンットンットンッ!
「梨花!やめてくださいです!」

自分では力を入れてるはずなのに、どんなに叩いても血の一滴も流れない……沙都子はこんな苦しみじゃないのに…!
ボクの体が痛いのを嫌がって、力を途中で抜いてしまう!もっともっと痛くしないと苦しくしないとダメ!目を瞑って痛さに耐えながら力を込める。
トンットンットンットンットンッ!!!

「あぅあぅあぅあぅ!!梨花ぁ」

「梨花!何の音なの?うるさくするのはやめなさい」

お母さんの居間からの声にボクは叩くのをやめ、目にたまった涙を拭いてから、お母さんに声を返す。
「別に何でもないのですよ……今戻りますです」

改めて自分の手を見ても赤くなってるだけで、血の一滴、皮の一枚も剥けてなかった。自分の情けなさに切なくなる。
同じ苦しみを味わう勇気もないなんて……じゃあボクは沙都子や悟史になにをしてあげられるというの……?
結局何もしてあげられない、今のままじゃなにも……今日は悩むだけ悩んで、明日学校で悟史に会ってどうするか決めよう…………………
ボクは心でそう決めると、居間へと戻った。




次の日、教室に入ると、ボクはすぐに自分の机に向かう……自分の席の付近に目を向けると、悟史はもう席にいた、だけど、その隣の席……沙都子の席は空いたままだ。
入院したのは知っているとはいえ、やっぱり直接見ると気持ちが落ち込んでしまう……みー……昨日1日悩んだけど、罪を償う方法なんて考えつかなかった。せいぜい、沙都子たちのために力になってあげることくらい……前と何も変わらない方法だけ……

その時、教室の教卓の付近から、2つの人影がバッと目の前に躍り出てきた!突然の事でビクッと心臓が跳ねる。

「みっ!?」

「やぁ、古手、お、おはよう」
「おはよう古手さん」

出てきたのはクラスの男の子、富田と岡村……でも何で教卓から…?

「みー☆おはようございますです。富田、岡村」

ボクは表情を笑顔に変えて挨拶する。
別に意識して変えたのではなく、反射的なものにすぎない。
……ボクの場合、富田や岡村だけではなく、沙都子に対してすらも本心を隠してしまう部分があって、心を許していても思わず感情や表情を隠してしまう、本心を全く隠してないのは羽入に対してくらいのものだ。
これは別に悪気があるわけではなくて、自分では変えたいと思っていても、直すことができないだけ……心が自然と壁を立ててしまうから、意識しても変えられないのだ。
だからこそ、感情を素のままに見せる沙都子が羨ましいとも思うし、憧れてもしまう。
……でもそれはともかく、富田と岡村は何で待ち伏せなんて…?ボクとしては、早く悟史の場所に行きたいのに……ボクは笑顔をやめ、首を傾げながら、先を促してみる……これはワザと……

「それで何かご用なのですか?前を塞がれては席に行けないのです」

「あっ…ご、ごめん」
岡村は謝りつつ、ボクの前を開けてくれる、……ただボクを驚かせたかっただけなのか、そう思って歩きだそうとしたとき。
富田が呆れたように、岡村を諫める。

「いや岡村、まだ何も頼んでないんだけど…」

「みー?頼みごとなのですか?」

ボクの問いかけに岡村はまたボクの前を塞ぐと、慌てたように答える。忙しい岡村なのです……

「う、うん、今日小テストあるだろ…だ、だからさ……その…………」

「みぃ?」
どんどん岡村の声は小さくなっていって、ちょっとよくわからない。そんな相方をほっといて富田が口を開いた。

「えっと、とりあえず僕が言うけど、岡村は撫でてほしいんだって、ほら古手に撫でてもらうと点数が上がるっていうから……」

「みー、いいのですよ」

そういえばこの頃女子の間でボクになでてもらうと点数が上がるって、おまじないが流行っていたっけ、……もちろんボクにはそんな力はないのだけど、ボクの点数の良さと、オヤシロ様の生まれ代わりであると事実が相まって意外な信憑性で信じられていた。
一度そういう噂が広まると不思議なもので、点数が上がった人は言うに及ばず、点数の下がった人ですら、『全然自信なかったのに、撫でてもらったからこのくらいですんだ』と、おまじないの信憑性を上げる方に回ってしまい、ますます噂は広がることになるのだった。面白いからボクがほっといている面もあるけど……

……とはいってもそれは女子の間の話、男子で撫でてもらいたいと言ってきたのは岡村が初めて。
違う日なら、撫でるのは楽しいし、初めて男子が来てくれて嬉しく思うけど、今は沙都子のことが気になるから別、早く撫でてあげて、悟史のところに行くことにする。

「では岡村、頭を出してほしいのですよ」

「う、うん」

ボクの言葉に岡村はしゃがんで素直に頭を差し出した。
ボクは手を伸ばして、そっと岡村の頭をなでる……ちょっとなでただけなのに、岡村の顔が少し赤くなった、やっぱり男の子にとって女の子になでられるのは恥ずかしいことなのかもしれない。
その表情が何だか可愛くって、ついついイジワルして、いつもより長めになでてしまう。案の定、岡村はますます赤くなって、トマトみたいになる。みぃーー♪なでなで、みーー☆

まだ撫でようとして、はっと我に返る……まだ少し撫でたりなかったけど、急いでいることだし、この辺でやめることにする。
ボクはそっと岡村の頭から手を離す。

「終わりましたのですよ。にぱ〜〜☆」

「あ…ありがとう…古手」
岡村は自分の頭を触りながらおずおずとお礼をしてくれる。効果の程を確認しているのかもしれない。

「きっと効果がありますですよ。オヤシロ様のありがたいおまじないなのです」

岡村はボクの言葉にコクコク頷くと、その場から離れていってしまう、富田も古手さんありがとうと言って、岡村の後を追っていく、ボクはそんな二人を見送りつつ、自分の席に向かう。

「あぅ梨花ぁ……僕はそんなおまじないした覚えないのです」

羽入だ……今は話す気になれないから、とりあえず静かにさせることにする。

「そんなことより、沙都子の方が気になるので、今は静かにしていてほしいのですよ」

「あぅ…そうしますです」

シュンとした羽入眺めつつ、ちょっと歩くとすぐに自分の席についた。






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あきゅろす。
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