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「…………という訳なのですよ」

羽入は聞きおえたボクの反応が気になるのか、チラチラとこちらを見てる。

今の羽入の話を整理するとこういうことになる、ボクは1度死んでしまって、慌てた羽入がボクを4年前に戻した。本来なら5年とか6年前とかにも戻れるらしいけど、慌ててたためか今回は4年前。
……なるほど、だから2年生の教科書がいるのか、ちょっと納得する。でも4年前か…確か4年前っていうと、ダムでバラバラ殺人があった年かな。今が7月だとすると、国からダム建設中止が発表され、表立ったダムの反対運動は終わって、喜一郎やお魎が詰めの交渉に入っている頃。
……反対運動はしてないし、御三家が終息宣言を出して、村が戦勝ムードに沸くのは一年以上先のことだから、一番中途半端な時期だ。朝、お母さんの言っていた会合はそれ関係にちがいない。

……ただ、ここからがボクには少し分かりづらい。
羽入が言うには、四年前は前でも時間を巻き戻したわけではなく、ボクの記憶?をどうやら別の世界で生きてるボクに上書きするように戻したらしい。
だから、記憶が2つあるし、時間が戻ったわけじゃないから、ボクの記憶も残ってる。
カケラがどうとかいってたけど、パラレルワールドを渡りあるく……みたいなものと思えばいいのか。
それでこの世界のボクの記憶が、ボクの2つある記憶の内の実感のないほうの記憶にあたるとのこと。

その辺りがちょっと曖昧でよくわからないから、簡単に今の状況を要約してみる。四年前に時間がもどったけど、歩みが違うから、細部が微妙に違う……その微妙に違う部分は、もう一個の記憶をみれば分かるから、覚えるように……こんなかんじ……?

正直死んだことだけは、記憶がないせいで半信半疑だけど、それ以外は朝のことですんなり理解できた。まだあんまり実感はわかないけど理解は出来る。
それにしても一つ言いたいことは……

「どうしてもっと早く教えてくれなかったのですかっ!?言ってくれなかったから、お母さんに頭が…へ、変になったって思われてしまったのですよ……」

そう……今ならわかる。朝の母の諭すような口調……
昨日まで普通だったにもかかわらず、朝起きたら急に子供が、やれお父さんが二年前に死んだだの、お母さんは二年間帰ってこなかっただのといいはじめたら誰だって驚く、最初は夢とか、何か冗談で言ってるくらいにしか思わなかったとしても、本気で言ってることが分かれば、一体この子に何があったのか、さぞかし心配だったに違いない。
……少なくとも病院に連れていきたくなるくらいには……、会合を休んででも連れていかれなかったことは幸運と呼ぶべきか。
今日のやりとりを思い出すだけで顔から火がでそうになる。帰ったらお母さんになんて言えばいいの……?
そんなボクの心情を知ってか知らずか羽入がおずおずと口を開いた。
羽入のおどおどした態度をみるぶんに、やっぱり悪いことしたとは思ってるらしい。

「あぅ……ごめんなさいなのです。梨花がどうしたらすぐに理解してくれるか考えに考えたのですが……梨花に戸惑いを覚えさせるくらいしか思いつきませんでした」

「それでも、もう少し早く言えなかったのですか……?」

……もう少し前、例えばお母さんに会ってから一度部屋に戻ったときにでも言ってくれれば、今ほどじゃないにせよ、それなりにすんなり理解出来そうな気もする、なのに、どうしてそこで教えてくれなかったのだろう。
それなら、間に合ったのに。
羽入は困ったような笑顔を浮かべる。

「あぅあぅ……僕も梨花がお母さんに会ったらすぐに言うつもりだったのですが……ちょっとした心がわりがあったのです……」

「みぃ?心がわり……?」

「そうなのです。梨花には言えないそれはそれは大変な葛藤があったのですよ。決して梨花がお母さんに会ったときの甘えっぷり……いえ…心和む瞬間をまた見たかったわけじゃないのです」

「み……………?」

言葉とは裏腹になんとなく羽入に元気がなく感じられる。
セリフを考えると、ボクが食いついてあげた方がいいのかもしれないけど、羽入の雰囲気がそれを拒む。
顔は笑顔なのに、なぜか泣いてるような印象をうけた。

「……みー?どうしましたのですか羽入?元気がないのです」

「そんなことないのですよ……ただ少しだけ思うところがあっただけなのです……」

「みぃ?」

「あぅ、梨花…本当にごめんなさいです」
そういってペコリと頭をさげる。羽入はもう笑顔ではなくなっていた。とりあえず羽入なりに反省してるのかもしれない。
それなら、この辺りで矛を納めることにする。こういう雰囲気はあまり好きじゃないし。

「ちゃんと謝ったから許してあげますです。だから羽入も笑ってほしいのですよ。にぱー☆」

「梨花……」

ボクはもう許したのにもかかわらず、羽入の顔には陰りがあった。
そんなに落ちこまなくてもいいのに……
でも、ボクから元気出してと言うのも変な気もするから、この話には触れないようにする。
ちょうど学校の校門が見えてきた。

「みー☆羽入!学校なのです。校門に入ったら下駄箱まで走って、知恵に急いできたことをアピールしますのですよ」

「……そうしますのです」

「羽入がそんなに暗い顔してると……ボクにまで移って、知恵に大いに心配されてしまうのですよ。だから、そんなときには笑うといいのです。知ってましたですか?笑えば自然と心も笑うのですよ。魅ぃ直伝の方法なのです」

羽入は、頷くとすぐに笑顔を作ろうと頑張りはじめる。自分で叩いたり引っ張ったりしてみるけど
それでもなかなか笑顔にはならない。

「みー☆羽入その調子なのですよ、でも上手くいかないのは別に羽入のせいではないのです」
「あうぅぅぅ、どうしてなのです?」

「実は教えた魅ぃ自身ぜんぜん実践出来てないのです。魅ぃは落ち込むと、自分からどんどんどんどん心に重りをのっけて、笑うどころか涙のスパイラルに落ち込んでしまうのです」

「あぅあぅ!確かに魅音にはそんなところがありますです」
ちょっと羽入が笑顔になる。

「みー、そんな魅ぃの教えた方法だから、その効果はオヤシロ様に祈るくらいに薄っぺらいものなのですよ。にぱー☆」

「……さりげなく梨花にバカにされた気がするのです」

「みー☆バカになんかしてないのです。ボクはただ事実を言っただけなのですよ」
「あうあうあうー!いかに梨花とはいえその言葉はあんまりなのです、温厚な僕でも怒りますのですよ」
「みー、羽入が怒っても全然怖くないのです。では、校門についたから下駄箱まで競争するのです」
怒る羽入をほっといて、ボクは下駄箱に向かって先に駆け出す。

「…ああっ!梨花ずるい」
羽入もすぐに追ってきて、二人でドタバタと下駄箱に駆け込んで行く。羽入の顔は笑顔になっていて、それなりに安心する。
まだちょっとだけ陰りが残ってたけど、ここまで笑えればきっと大丈夫。





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