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「大丈夫、言うとお仕置きされそうなので、これ以上は言わないのです。あぁでも今回は見られないのかと思うと……はぅあぅ〜残念極まりないのです。また見たいのですよ梨花ぁ」

羽入はどことなく期待の眼差しを向けてくる……みー、もう二度とごめんなのです。

「頼まれたってやってあげないのです。ボクだって好きであんなことしたわけではないのですよ……」

ボクの言葉に、羽入は顔を輝かせ目を閉じ、自分の胸元に両手を持っていき、何かを思い出しながら声をだした。

「気にしないでも、外から見る分には胸がキュンっキュンっしてとーっても」
「だめだめーーっ!ダメなのですっとにかくっそれ以上言ったら、羽入の来世をトウガラシに変えてやりますのです」

「あう!……トウガラシ…ぁぅぁぅぁぅ………ぁぅぁぅ…」

羽入は来世の自分の姿を想像してしまったらしく、ちょっと顔をしかめて、トウガラシにはなりたくないのです……と口を萎める。
……とりあえず、これでひと安心かな……まだ油断はできないけど……


羽入から目を離し、辺りを見渡すと既に入江診療所の前についていた。もう100メートルほど歩けば、入口にたどり着く距離だ。悟史が隣で心配そうにぼやく。

「3時に…って監督は言ってたから、沙都子怒ってるかな」

「20分くらいで怒る沙都子じゃないのです。きっと憎まれ口くらいですむので安心していいのですよ」

「むぅ、できればそれも遠慮したいよ、梨花ちゃんにはともかく僕には容赦ないんだ。沙都子の場合」

「みー、それが悟史を信頼している証なのです。ボクから見たらうらやましいことなのですよ?」

お見舞いの時の沙都子の様子を思い出す……ボクは信じられなくても、悟史は信じていた……それが、ボクにはうらやましい、悟史を信じているから、憎まれ口も遠慮せずに言えるのだろう。

「そう?あんまりそうは思えないんだけど……」

悟史の態度を見る分に、悟史は沙都子の信頼をまだ本当の意味ではわかっていない気がする……だから、前の世界では沙都子を置いてどこかに行ってしまったのかもしれない……叔母を殺してしまい警察から逃げるためとは言え、犯人が捕まったあとなら悟史は帰ってくることもできたはずだから……ボクは未来が変わることを願い、静かに訴えかける。

「沙都子には悟史しかいないのです……沙都子にとって悟史は兄であり保護者や父にもあたる存在なのです。その信頼は他の人……みー…ボクでは代わりになれません。だからどこかに行ったりせず、ずっと雛見沢でにーにーをしていてほしいのですよ……」

「……むぅ」

悟史はボクの言葉に笑顔ではなく、辛そうな苦しそうな表情をする……でもそれは一瞬のことで、すぐに微笑みを作ると、「わかったよ」と請け負ってくれる……でも何であんなに苦しそうな顔を……?ちょっと考えて羽入に聞いてみる。

「羽入……ボクの目には悟史が雛見沢から出たいように見えたのですよ」

「あぅ、まだそこまではいっていないと思うのですが……負担を感じているのは確かかと……」

「……みー負担…あまりよくない兆候なのです」

少しショックだけど、悟史が居なくなるのはまだまだ先の話……とりあえずそれを頭の隅においやり、前を見ると、診療所の入口にたどり着いていた。

「沙都子はいないみたいだけど、まだ病室かな」

先に診療所のガラス扉を開けた悟史がそう呟いた。
ボクも続けて中に入る……悟史の言うように入ってすぐの待合室には誰もいない、ただ蛍光灯の明かりの下、長椅子が並んでいるだけ……

ボクたちはとりあえず、監督を探すことにし、診療室のドアを開けようと手を伸ばした。その時階段の方から快活な声が聞こえる。

「やっと終わりましたわ、お待たせしてわるうございましてよ」

「いやぁすみませんね、3時と言っていたんですが、少々時間が掛かってしまいまして」

沙都子と入江の声にボクが振り向くと廊下から、二人が連れ立って歩いて来ていた。
入江はいつも通りの白衣で肩に魅ぃのスポーツバック、片手にボクのお気に入りの手提げを持ち、沙都子は学校の制服、そして、両手に黒と黄の二種類の紙袋を持っていた。
久しぶりに見る沙都子に自然と胸が高鳴る。
でもボクはそれをそっと抑え、自分が駆け寄るのを留める。
前の世界だったらきっと抑えようもなかったけど……今回は二回目だし、治ることも知っていたし上手く抑えられた。

その間に隣の悟史が、入江たちに向かって「いえ、僕たちも…」と声をあげ始める、多分素直に、今着いたところです。とでも言おうとしているのだろう……ボクは笑顔で悟史の袖を引き、首を軽く振って発言を止める。

「え?何?梨花ちゃん」

不思議そうに問い返す悟史を無視して、ボクは廊下を進む沙都子たちに声を掛ける……まだ少し距離があるから、自然と声も大きめだ。

「入江も沙都子も遅すぎるのですよーー!ボクたちは、時間ぴったりに来て待ちぼうけだったのです。時間を返してほしいのですよっ」

入江は困ったような表情をしたけど、沙都子は嬉しそうにボクに返事をする。

「あらぁ梨花ー!時間ぴったりに来た割りに一度も病室に来なかったのはどういうわけでございますのー?普通は探しに来るはずでしてよ〜〜」

どうやら沙都子は、ボクが時間ぴったりに来たのを疑ってるらしい、実際にウソなのだけど、時間ぴったりに来ていた方が立ち位置は有利だから、このままウソを押し通すことにする……悟史は苦笑いしてるけど……

「みぃーーっ待合室で待つのが退院の醍醐味なのです。ボクは病院歴が長いので、そういうシチュエーションを大事にしているのです」

「こんなに遅くなっても?」

沙都子が不思議そうに首を傾げる、もう沙都子との距離は6メートルくらいになっていて不思議そうな表情までバッチリ見える……信じてくれたかな?
念のためだめ押しすることにする。

「みぃ〜〜☆そうなのです。もっともっと遅くなっても、きっと待合室で待ち続けてたのですよ。ボクにとってシチュエーションはそれほど大事なものなのです」

沙都子は、首を傾げるのをやめ高らかに笑う…み?

「あらぁそうですのだから梨花は待合室でずっと待っててくれたんですの、20分以上も待合室で」

「みーそうなのです」
ちょっとイヤな予感…でも一応頷いておく……

「それはそれはありがとうございますわぁ、なんて言うと思いまして?をっほっほっ、今回はボロを出すのが思いのほか早くございましたわね」

「みー!?ボロなんて……」

一瞬思考が止まる、沙都子はその間にボクの目の前に来ると、ボクの左横に視線を向けニヤリと笑う。ボクも慌ててその方向を見る。

「では梨花?今梨花はどこにいますのかしら?」







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あきゅろす。
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