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山の精霊と子供達は探検ごっこをしました。

山の精霊は楽しそうに子供達に山のことを教えています。
子供達は楽しくなさそうに山のことを聞かされています。
知ってしまえば探検にはならないのです。子供達はすぐに耳をふさぎました。



Frederica Bernkastel









「それで、一体どういうことなのですか?」
ボクと羽入はランドセルを取ったあと、学校へ向かって歩いていた、今は境内にある階段を降りているところ。

「あぅあぅ……いざ説明するとなると、ちょっと困ってしまうのですよ」

さっきまでの威勢はどこへやら、急にまたいつもの羽入にもどる。
すぐにでも問いつめたいところだけど、羽入が口ごもった時は、なぜか待ってあげた方が早く教えてもらえる。慌ててしまうからなのか、それとも別の理由があるのかはわからないけど、そういうものではある。

「みー、しょうがないので、しばらく待ってますのです」

ここはちょうど林道の中に入るところで、この林道を越えると商店街に着く。
普段なら景色は気にせずに歩いていくところだけど、
今はもう遅刻が確定してるし、羽入が言うのを待たないといけないから、景色を見ながらのんびりと歩くことにする。

今日は風はあまり吹いてない、だけど、木々の間をすり抜ける風が、ひんやりとした空気を運んできてくれて、とても気持ちいい。
木々たちもそんな涼やかな風が嬉しいのか、さわさわと揺れる。
ボクには見慣れた光景。でも今日は霧が少しだけかかっていて、いつもよりも新鮮に感じられた。
木々の間に目を凝らすとちらほらと鳥の姿が見える。いる場所は枝の先や巣の上、はたまた誰か子供の作った巣箱の中までさまざまだ、至るところに居すわって、朝の挨拶を交わしあっていた。
今日はいい天気ね、とか、あちらにいい木の実がありますよ、とか、そういうことを楽しそうに話してるのかもしれない。そう思うと少し楽しい。
気の早い何羽かはもう元気に飛び回っていて、森の空気をにぎやかにしてくれていた。

でも上にばかりも気をとめてはいられない。地面には蟻とかよくわからない小さな虫が草の影で何だか忙しそうに働いていて、足の踏み場もないくらい。のんびりと出来るボクは、彼らの仕事を邪魔しないように気をつけて歩いていく。
そんななか、たまに腕くらいある大きなミミズもはっていたりするから、そういうのは怖いから大回りしてよける。
時々跳ねるし、逃げたくなるけど……その気持ちには蓋をするのがコツ。

そうして、木々の中をゆっくりと歩いていくと、木々のさわさわとしたざわめきとひぐらしの声が聞こえてきて、朝からの出来事で熱を持ったボクの心を鎮めてくれた。

羽入の様子をチラっと見るとまだまだ考え中のようだった。
…………………………みー………

「……みー、羽入、信じるからやっぱりすぐに教えてほしいのです」

……結局待てなかった。ボクはあまり我慢強くないのかも……

「あぅあぅあぅあぅ、お、教えたいのもやまやまなのですが、……そう急に聞かれると心の準備が…」

羽入はやはりというかなんというか、とてもあわてている。慌てすぎたのか、手をブンブン振ってよくわからない言い訳を並べたてはじめた。

「あぅあぅあぅ、そうなのです僕は今鋭意整理中なのです。出来れば時間いっぱい夢いっぱいに待っていてほしいのですよ。今の梨花にはこんな言葉を送ります。急ぐな回れ、待てば海路の日和あり……なのです」

「みぃ?ランドセルの時言った『時間は待ってはくれないのです』はどこへ行ってしまったのですか?」

「あぅ!…じ、時間は普通は待ってはくれませんですが……そうなのです。今日は珍しく時間が待ってくれてるのです。梨花はとってもラッキーなのですよ。その証拠に…………あ、ほら、梨花周り、周りを見てほしいのです!」

周り……?
言われるままに周りを見渡す。
ここはまだ林道の中で、ひぐらしや鳥がにぎやかに鳴いている他は、木が沢山あるだけだ。
一応地面にも視線を走らせたけど、羽入の言う証拠になりそうなものは特になかった。多分適当に言っただけなのだろう。
だから、ボクはとびきりの笑顔で言ってあげる。

「羽入?残念ながら特に何もないのですよ。にぱー☆」

「ふっふっふー、ないと思って見ると見えなくなるのですよ。あそこを見るといいのです!」

羽入は何故か勝ち誇った顔ではるか遠くの木の下をビシリッと指差す。
ちょっと遠くてよく見えない、木の根元らへんみたいだけど、
……あの木の根っこが証拠?
さすがにそれはないか……他には……やっぱり根っこや草だけ……

ボクがなかなか見つけないのに焦れたのか、羽入はさっき指差した辺りに行くと、必死にここです!ここなのです!といいはじめる。

その様子が何だか可愛くて、ついつい、しばらく探すフリをしながら羽入の様子を見学してしまう。羽入はその間も必死にボクに声をかけ続けていた。

「みー☆やっぱり何もみつからないのですよー」
遠くから羽入の声が聞こえる。
あぅぅ……ここなのです……こ、ここにちゃんとあるのです……信じてほしいのですよ。

羽入の声が何だか涙声だ。いつのまにか顔も真っ赤になっている。
イジメすぎたみたいだ、さすがにこれ以上はイジワルするのをやめて、素直に羽入の立ってる場所に行って探してあげることにする。

さっきは遠すぎたからよくわからなかったけど、近づくとすぐにわかった。何だか丸い物が落ちている。
縁とかは銀でできている丸い外観の時計、えーと、こういうのなんて言ったっけ。
そうだ、懐中時計だ。
拾ってみると、どうやら蓋や鎖はもともとついてないタイプらしい、鎖がないから、懐から落としてしまったのだろう、残念なことに時間は止まっていて時計の機能は果たしてないようだった。

時間が止まる……あ、まさか。
ゆっくりと羽入に顔を向けると、えっへんとか言いそうなくらい誇らしげにたっている。

「どうですか梨花?これこそが時間が待っている証拠なのです。時計は時を表すもの。それが止まっているということは、すなわち今は時間が動いてないのです!時間も休養中なのですよ!」

「みー☆本当に止まっているのです。時間さんの休日までわかるなんて羽入はとてもとてもすごいのですよ」

自信満々の羽入に向かってそう笑顔でいいながら、時計を後ろ手にもち、手探りで懐中時計の筐体をなぞる。
たぶんこのへんにゼンマイがあるはず……あ、あった……カチカチ…

「えっへんなのです。さぁ梨花、時間は止まってるからボクはめいいっぱい考えるのです。だから、梨花は急かさずゆっくりのんびりと待っていてくださいなのです」

羽入の妄言を聞き流しながら、ボクは時計を目の前に持ってくると、わざとらしく驚いてみせる。

「みー!?時計さんがまた動きだしてしまったのです。羽入…これは時間さんの休養がおわったということなのですか?」

「あぅあぅ…?そんなはずないのです。時間は休養中なのです」

そう言いながら羽入はボクのもってる時計を覗きこむ、羽入の目にもきっと見えたにちがいない、ゼンマイが巻かれ、再び元気に動きだす時計の姿が!

「あぅあぅあぅ!?こんなはずないのです!さっきまでちゃんと止まっていたはずなのです」
羽入の反応に思わずにやけそうになる。でもそれをグッと我慢して、ボクはわざと困ったような顔を作り言ってあげる。

「みぃ……ボクも待ちたいのはやまやまなのですが……」
「あぅあぅあぅ」

「残念なことに、時間さんは待ってくれないみたいなのです」
「あぅあぅあぅあぅあぅ」

「だから、もう待つことは出来ないのですよ」
「あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ」

「こんなに急に言うことになって、本当にかわいそかわいそなのです。にぱー☆」
「あううぅぅうぅぅぅぅ!」

羽入は涙目になりながら座り込んでしまった。ほんわかと赤くなった顔がとってもキュートだ。
ボクはそんな羽入の頭を撫でてあげる、もちろん触れないからフリだけだけど、それでも十分に楽しい。

ボクは十分楽しめたのだから、これ以上急かすのをやめ、あとは羽入が自分から言うのを待つことにする。
ひぐらしが穏やかにないている。カナカナカナカナ……そんな声に身を預けていると、待つのは全く苦にならなかった。

しばらくして羽入はスクッと立つと、すべて聞くまで口を挟まないでほしいのですと前置きしつつ、歩きながら話はじめた。ボクも羽入の隣で一緒に歩きながら、話が終わるまで静かに耳を傾けることにした…………






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