15
「体調はわるくないのです……ただ……」
「……?」
いい淀むボクを、入江は不思議そうに見る、続きを促すシンとした圧力……みー…もう一か八か言うしかないのです。
「とても……大事な話があるのです」
「大事な話…?……あぁ!そうい……」
入江は一瞬嬉しそうな声を上げかけ……ボクの真剣な様子を見て慌ててそれを引っ込める……メイドスイッチでも入りかけたのかもしれない。
入江は冷静な顔に戻ると、とりあえず座ってくださいと、ボクに着席を促す。
頭の中を整理しながら、少し歩いて入江の勧めてくれた丸椅子に腰かける。入江のほぼ真正面……ちょっと緊張する。
「それで、どうしました?何か悩みごとでも?」
入江は優しい声で微笑み、先を促してくれる……ボクが話し易いようにしてくれた?少しだけ言い易い雰囲気……でも、どう切り出そう……
ボクの迷いを察したのか、羽入が耳元に顔を近づける。
「梨花、とりあえず素直に頼めばいいと思いますですよ。自分より上の相手に駆け引きをしても上手く行かないことが多いのです」
「みー」
……それがどのくらい正しいのかボクにはわからないけど、羽入の言うことなら……ボクは覚悟を決める。
「入江……その…」
入江は口を挟まずに耳を傾けている……真剣だけど優しい表情…
それでも入江の目を見ながらだと言いにくくて、ボクは目を瞑って一息に言葉を乗せる。
「さとこに雛見沢症候群のことを伝えないであげてほしいのですっ」
「は……?」
すっとんきょうな声……ちゃんと伝わらなかった…?今度は目を見てしっかりと想いを乗せる。
「みー雛見沢症候群のことを沙都子には伝えないでくださいです……入江、お願いしますです…」
入江は鳩に豆でっぽうを当てたような……意外そうな戸惑ったような表情を浮かべる。
「はあ……?」
すぐに、その表情を引っ込めると、ボクを安心させるように微笑む。
「ええ、もちろん言いませんよ。私たちには守秘義務がありますし、沙都子ちゃんに伝えることはありません」
「みー」
……あっさり了承してくれたけど……何となく違和感を感じる……暖簾に腕押しというより、根本的に認識が食い違ってるような……
そんな微妙な違和感……つい不安になって確かめたくなる。
「入江……本当の本当に言いませんですか……?絶対絶対約束なのですよ…?」
「約束ですか……?……沙都子ちゃんに何か心配なことが…?」
ボクの様子に違和感を覚えたのか、微笑むのをやめ目の奥により真剣な光を宿す。
……入江は何故沙都子に言ってはいけないのか、やっぱりよくわかってないみたい、だからさっきはあんなにあっさりしていた…?
……それならここは、何でダメか印象づけるところ……
「沙都子は自分が発症してることを知ったら、後でとても苦しみますです。ボクには沙都子が苦しむ理由はわかりません、でも、昼は再発に怯え、夜にうなされる姿をボクは二度と見たくないのです……」
「ぁぅ…梨花、それはまだ……」
隣から羽入の心配そうな声が聞こえる。あ……そうか、この世界ではまだ起きてはいない出来事だから、今のは……
案の定入江が戸惑った声をあげる。
「待ってください。私には梨花ちゃんが何を言っているのか……」
「と、とにかく、沙都子が苦しむから発症のことは内緒にしてほしいのです!!それだけなのですっ」
「ああ落ち着いて下さい。いえいえ、そうではなく、沙都子ちゃんが発症……?それが私にはさっぱり……何か兆候でもあったんですか?」
「みー、兆候も何も……」
……入江の反応がよくわからない、入江はまだ沙都子の発症を知らない……?それとも、この世界の沙都子は発症していない?
「入江は、沙都子の発症を知らないのですか……?」
「ええ、初耳です。逆に聞きますが、何故沙都子ちゃんが発症していると……?」
「それは……」
そう言われると、ちょっと困ってしまう……前の世界でそうだったから何て言えないし……つい隣の羽入に小声で助けを求める。
「……はにゅう…どうすれば…」
「ぁぅ…前の世界のことは話す訳にはいきませんし……今日の沙都子の様子なら……」
……お見舞いの様子…みーもうそれでいくのです。
「みー……今日お見舞いしたとき、沙都子はボクを警戒していましたです。その……とても」
「警戒…もう少し詳しくお願いできますか?」
「とてもなのです。ボクが動くとチラリと視線を向けたり、とにかく辛かったのです」
「ふ〜〜む……視線ですか……」
入江は考え込んで口を閉ざしてしまう……あんまり納得してくれたようには見えない。
「梨花ぁ……これぽっち」
み?これぽっち…?羽入のセリフについ羽入の方を振り向いてしまう。
羽入は涙を堪えて指をちょっぴり開いていた。一センチあるかないかの幅……
「あぅあぅあぅっあんな説得じゃ、これっぽっちの説得力もないのですよ、絵に描いた餅以下なのです。見て下さい!あの入江の表情をっ!」
入江の表情……?羽入の言葉に誘われるまま入江の顔を確認する……さっきまでと同じ腕を組んで、眉根を寄せている。
「一応…考えてくれているようにボクには見えるのです…」
「あうあうあうあうあうっ梨花は何てお気楽な……どう見ても困ってるようにしか見えないのです!あんな説明では到底納得してくれないのですよ……きっと今入江は、梨花がどうしたら安心するのか考えていると思いますです」
「みぃ、羽入は暗く考えすぎなのです。入江はそんな人じゃないのですよ。……確かにボクの説明が少しヘタかもしれないのですが…でも…入江ならきっとわかってくれるはずなのです」
「あうぅ根拠がわからないのです…それならせめて、沙都子を撫でようとしたら怯えたとか、その位は伝えた方が……」
あ…忘れてた……確かにそれの方が説得力はでる。
ボクは羽入に頷き返して、口を開こうとした時……入江の声が先に聞こえる。
「梨花ちゃんの心配はわかりました。沙都子ちゃんが発症してるのではないかと不安なんですね?」
「みー」
……ちょっと違うけど…一応頷いておく。
「確かに、L3などでは周りの人に気づかせないことがあるのも事実です。梨花ちゃんの心配はよくわかります。そこでどうでしょう?」
「み?」
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