12
ボクがベットに近付いた時には、悟史の説明は終わっていて、黄色い紙袋が壁に立て掛けられていた。悟史はボクを見ると椅子を差し出してくれる。
「沙都子、他の入院に必要なものは、梨花ちゃんが用意してくれたんだよ」
悟史は、ボクを見た後、沙都子に微笑みかける。沙都子は少し驚いたような顔をした。
「梨花が…?」
「みぃー、これなのです」
ボクは肩に掛けていた布製の手提げカバンを下ろす。色は薄い桃色で、ミシン目がたくさんの四角形をつくって、所々に雪うさぎのように体を丸くする白いウサギさんと葉っぱの付いた赤い実がプリントされていた。
小さい頃から使っている、ちょっとしたお気に入りの品。
沙都子は手提げを受けとり中を覗くと、決まりが悪そうに呟いた。
「何だか悪いですわね」
「みー遠慮しないでいいのですよ。それで中に小さい黄色の箱があるのが分かりますですか?」
「黄色い箱ですの…?そんなのありましたっけ…」
沙都子は手提げの中をあらためて確認する、悟史も興味深そうに身を乗り出し手提げの中を覗こうとする、でも距離が届かず椅子に戻る……ややあて、沙都子は黄色い小箱を見つけそれを取りだした。
「これですの…?」
ボクはみーと一度頷く。
「では、それを開けてみてくださいです。ボクが何のために入院セットを用意したか、きっと分かりますのですよ」
「用意した理由………?」
「みぃー」
沙都子は、何でございますかしら…とパカッとフタを開ける。
その瞬間…!
びょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!
沙都子の目の前で、パッチリおめめ、舌を出した丸い顔が赤っぽいバネの力でビヨビヨと楽しげに揺れる!
「ひゃうっ!?」沙都子は驚いてそのビヨビヨを天井に向けて放り投げた!
ピュ〜〜〜〜〜ブニャッ!!
天井に頭からぶつかったビヨビヨは、悲しげな悲鳴をあげ、ベットの上に舞い戻りピクリとも動かなくなる……可哀想なビックリ箱
「みぃ〜〜〜☆作戦成功なのです。」
「り、り、梨花ぁっ!!な、何をするんですのっ!?」
「みー?ビックリ箱のビヨくんなのですよ。初めましてなのです」
「そんなこと聞いてるんじゃありませんわ!!黄色い箱には用意した理由が……あ、まさか…」
「みぃ〜〜きっとそのまさかなのです」
ボクが笑顔を向けると、沙都子は顔を真っ赤にして、震える指でビヨくんを指差す。ビヨくんは舌を出したまま、ベットの上に仰向けに倒れていた。また注目してもらえて少し満足そうだ。
「信じられませんわ、たかがこんなことのために用意したってゆうんですの!?」
「こんなこととは心外なのです。沙都子を驚かせることは、ボクにとっては生き甲斐そのものなのですよ。にぱ〜〜〜☆」
「い、生き甲斐ってわたくしは梨花のオモチャじゃありませんわぁ」
「み〜?そうだったのですか?とても楽しいから、てっきりオモチャだと思っていたのですよ」
「あっははははは!!」
隣で悟史が急に笑い始める。ボクと沙都子は思わず悟史の方を見る。
「にーにー、急にどうしたんですの?」
「ごめんごめん、ついね。……でも沙都子、ちゃんと梨花ちゃんにお礼を言わないと駄目だよ。用意してきてくれたんだから、ね?」
沙都子が、ちょっとムッとしたように目を尖らせ、悟史を見る。とたんにしどろもどろにになる悟史。
「あ……えっと…………むぅ」
「まぁ、……にーにーがそう言うなら、しょうがありませんわね」
「みー」
「ありがとうございますわ、梨花」
「みぃ〜〜☆」
しぶしぶながらも、お礼を言ってくれる沙都子、やっぱり発症している様には見えない……でも羽入の見立てが確かなら、沙都子の心の中では、今も黒々とした猜疑心が渦巻いているはずなのだ。
拭っても拭いきれない疑いの雲が……今の沙都子にとってボクはどんな風に見えているのだろう…?
信用に足る友達…?悩みを打ち明けたい親友…?それとも……命を狙う疑いの対象なのか……
考えると心が暗くなりそうだから、考えるのをやめる。
「沙都子がちゃんとお礼を言えたから、ほめてあげるのです」
ボクは暗くなるのを振り払おうと、椅子から立ち上がって沙都子の頭に手を伸ばす……撫でるために
「………!」
沙都子はその手を見て、一瞬怯えたように身を竦ませると、掛け布団を肩口まで引っ張り上げる。
それは、本当に唐突だったから、ボクも固まってしまう、悟史が不思議そうに沙都子に声を掛ける。
「どうしたの?梨花ちゃんは撫でようとしてくれてるだけだよ?」
「そ、そうですの…?にーにー、梨花は、なにも持っていないですのね…?」
「うん…そうだよ?」
悟史の言葉を聞いても、沙都子は怯えたようにボクの手を見つめている。
……みー疑われているのです…
ボクは無理に笑顔を作って、手を引っ込め椅子に座る、沙都子はそれでホッとしたのか、体の硬直を解いた。悟史は不思議そうにボクたちの様子を見る。
「悟史、きっと沙都子はボクと同じで撫でられるのがイヤになったのですよ」
「そうなんですのよ、梨花。わたくし撫でられると子供扱いされた気になりますの。まっぴらごめんですわぁ!」
殊更に明るい声を出す沙都子…それで悟史も納得したらしく、そうなんだ、と相槌をうつ。
「むぅ、やっぱり僕も人を撫でるのはやめた方がいいのかな…」
「み〜当たり前なのです。悟史」
「あら、当たり前でございましてよ。にーにー」
「むぅ、そう同時に言われると……二人は本当に仲がいいんだからなぁ」
「みぃ〜〜☆」
「おっほっほ、当然ですわぁ」
仲がいい……その言葉が悲しく心に響く、今沙都子は口ではそう言っているけど、心の中はボクに対する猜疑心でいっぱいなのだろう。
だから、さっきボクが撫でようと近付いたときあんなに怯えたにちがいない。もしかしたらボクが凶器でも持っているように見えたのかもしれない……
でもさっきの沙都子の反応を見る分に、そんな状態でも悟史は信じているのは分かった……それが余計に悲しい…ボクは悟史の様には信用して貰えてない……沙都子は悟史は信用できても、ボクは信じられないんだ……
雛見沢症候群のせいだと頭では理解できたけど、こう悟史との信頼のちがいを見せられてしまうと、友達じゃないと言われてるみたいで悲しくなる。
「梨花ちゃん、どうしたの?元気ないよ」
「みぃ、何でもないのです」
「そう?ならいいんだけど、それでね沙都…」
悲しさを我慢しながら、あらためて沙都子を見てみると、さっきまでは気づかなかった、色々なことが分かる。
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