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悟史は、袖を引っ張るボクの肩に手を掛け柔らかく押し留める。

「心配しないでいいよ、慣れてるから」

「みぃー……でも……」

「こういう時冷たくあしらうと後々大変なんだ。だから悪いけど、梨花ちゃんも笑顔で挨拶してほしいかな…心証を少しでも良くしたいし」

悟史は微笑むと、もう一度ボクに、ね?お願いと頼んだ。
……そういうもの…?納得はできないけど、悟史にそう言われたら、断ることはできない……
しぶしぶと、トメさんたちの方に向きを変え……悟史みたいに深々と一礼する……笑顔にはなれなかったけど……

「……こんにちはなのです」

それを見て、ウメ、トメ、ヨネ、イナバの四人は嬉しそうに声をあげる。

「あんれまぁ〜丁寧に、梨花ちゃまはお利口さんだねぇ」

「ほんなこつ、あったりまえでねぇ、オヤシロ様の依代さまよ…ウメさんとこのわんばくぼんずとはくらべらんね」

「そりゃなぁ〜っくらべられんね!んで梨花ちゃまは具合でもわるいんかいね…?いつもは、日曜日に来るでねぇか」

「みー何処も悪くはないのです。用事があるだけなのですよ…急いでいるので、失礼しますのです」

「あぁ〜そうね、こん……」

そこで聞くのをやめ悟史の袖を引き、さっさと待ち合い室から続く廊下に向かう。
今度は悟史も軽くウメさんたちに会釈をしたあと、素直についてきてくれた。
すぐに待ち合い室からでる。

「今ので、よかったのですか…?」

「うん、ありがとう梨花ちゃん」

「みー、あんなやつら無視してもよかったのですよ」

悟史は苦笑し、そのままボクの髪を撫でようと、手を伸ばして……寸前でとめ、手を引っ込める。
ちゃんと学習したみたいだ。

「その話は置いて、とりあえず沙都子に会ってこよう。多分待ちくたびれてるはずだから」
悟史は困ったように廊下の奥にある階段を指差す、沙都子の病室は違う階ということか。

「みー」

さっきのことは悟史にとって本当に日常茶飯事なのだろう、あまり話したい話題ではないらしい、仕方ないからボクも素直に頷く。

悟史とボクは診療室のドアを開け、入江から面会の許可を貰ったあと、沙都子の病室に向かう。
悟史、ボクの順に病室に入ると、沙都子はベットの上で退屈そうに窓の外を眺めていた。
ドアの開く音に気づいたらしく、ボクたちの方に顔を向ける。

「にーにー遅すぎますわ、待ちくたびれましたわよ。あら?梨花も来たんですの?」

ボクを見て一瞬意外そうに目を見開き、すぐに相好を崩し口を開いた。

「見ての通り何もない病室ですもの、梨花が居る間は退屈しないで済みますわ、ま、梨花は退屈するでしょうけど」

「みー、見舞いにきたボクが退屈するということは沙都子はもっともっと退屈してるはずなのです。これを持ってきて大正解なのですよ」

ボクは明るく言って、魅ぃから借りた青と白のスポーツバックをスカートの前でちょっと持ち上げる。

「何ですの?そのバックは?」

「今は教えてあげないのです。あとのお楽しみなのですよ。にぱ〜〜☆」

「あんまり期待しない方が良さそうですわね、むしろ変なものが入れてありそうで、ちょっと恐いですわ」

沙都子は不安そうにバックを見る。
ボクは、みぃー、と鳴いて沙都子の視線をいなした後、軽く室内を見渡す。
沙都子の部屋は個室らしく、窓際の沙都子の寝台の他にベットは見あたらない、室内は清潔に整えられてはいたものの、よくわからない機材と棚の他には特に何もなくて、無機質な印象をうけた。
……お花くらい持ってきてあげればよかったかな。
その間に悟史は沙都子のベットの近くに移動していた。悟史は着替えの黄色い袋を開くと、中身の説明を始める。
ボクもバックを持って行こうとして…その足が止まる、後ろから怨嗟の声が聞こえたのだ。

「梨花ぁ〜僕が苦しげに倒れて呻いているのに、ほったらかしにするなんて!まさに鬼!鬼畜!悪魔の所業なのです。ひどすぎるのですよ……」

羽入だ…やっと立ち直って追いかけてきたらしい、ボクは振り向いて首を傾げてあげる。

「みー、なぜか心が痛まないのです。きっと羽入に育てられたせいで、いつの間にか悪い心に染められてしまったのですよ。治すには心が痛むまで辛いのを食べ、羽入ののたうち回るさまを見物するしかないのです……」

「あぅあぅあぅっ!そんな変な理由で食べてはダメなのです!!ますます悪の心に染まってしまうのですよっ辛いものを捨て良心を取り戻すのです!梨花ぁ」

羽入はさっきの辛さを思い出したらしく、また口元を抑えあぅあぅ呻き始める……タバスコだけでここまではしゃげるなんて、羽入はなかなか不思議な生態をしている、味覚が発達しすぎてるのかな?ボクはちょっと苦笑したあと、話を変えることにする。

「そんなことより羽入……」

「ぁぅ…そんなこと……それで何ですか?梨花?」

「沙都子は本当に発症しているのですか?こうして見ていても、そんな風には見えないのですよ」

沙都子は、悟史の説明に憎まれ口を叩きながらも、素直に耳を傾けている。
普段の沙都子と違うところは見受けられない羽入は、おどおどと上目遣いにボクを見ながら口を開いた。

「その…あぅ…これは今まで隠していたのですが…」

「みー?」

「実は僕は入江たちの言うL4以上の発症者のことを感知することができるのです……」

レベル4以上の発症者を感知……それは初耳だった。今さら羽入の生態には驚かないけど、そんな大事なことを隠して置くなんて、気分は良くない……でも、それで悟る、羽入の感覚では沙都子は発症しているのだ。それもレベル4以上で……
ついため息をつく。

「羽入の言いたいことは分かりましたのです。沙都子は……」

「あぅ……発症しているのです。」

「みぃー……」

発症……とても悲しい気持ちが胸を覆う、前の世界だったら泣いていたかもしれない、でも、ボクにとっては2度目のこと、それに今回は少しでも沙都子を幸せにすることが出来る……入江に頼んで、発症を知らせないようにすることが……
ボクは涙を堪えると、笑顔を作って気持ちを奮い起たせる。

「梨〜花ぁ〜、そこに何か面白いものでもありますの〜、そんなに遠くちゃお話し出来ませんわ」

沙都子の呼ぶ声……

「みぃー、何でもないのです。今行きますです」





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