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「みー話とゆうのは……」
ちょっと言葉を切る……よく考えたら、悟史はまだ魅ぃに沙都子の入院のことを話してない、ボクから言っていいのかな……
うーんでも、隠すようなことじゃないし、確か前の世界では、知恵が朝ホームルームで言ったはずだから……やっぱり言うことにする。魅ぃを見るとボクが言葉を止めたことを疑問に思ったのか、よくわからなさそうな、訝しげな顔でボクを見ていた。
「で、何?梨花ちゃん?」
「実は……昨日、沙都子が入院したのです」
「え?そうなの?」
「みぃ」
きょとんとしたような魅ぃの問いに、ボクは一つ頷く、ふーん入院ね〜と魅ぃは頭の後ろで手を組みちょっと意味を咀嚼したあと、慌てて、手をほどき身を乗り出した。
「入院!?もしかして誰かに叩かれたとか…?それとも事故!?病気!?」
「沙都子は全然重い病気なんかじゃないのです。ただのストレスなのですよ……」
いいながらつい気持ちが沈んでしまう、その気持ちを顔には出さないように頑張ったけど、その努力は無駄なようだった。魅ぃの表情も少し翳る。
「そっか、ストレスね……あんまり人ごとじゃないな……」
「みー?」
「ううん、こっちの話、それで沙都子の入院のことでおじさんに頼みがあるんだよね…?」
疑問というより、確認するような口調……ボクはそのまま頼むことにする。
「はいなのです。沙都子が入院中退屈しないように、魅ぃのマンガ本を貸してほしいのですよ」
魅ぃはホッとしたように息を吐くと、ボクにカラカラと笑いかける。
「なんだそんなこと〜?梨花ちゃんが深刻そうな顔するから、もっと大変な頼みかと思ったよ」
「みぃ、それで貸してくれるのですか?」
「そりゃあ当たり前でしょ、聞くまでもないって!それでいつ貸せばいい?」
「出来れば…今日お願いしますのです」
「オッケー、じゃ学校終わったら、ウチの家に寄ってってよ、反対方向で悪いけどさ」
よかった、貸してもらえるみたいだ。放課後ボクの家に戻る前に、魅ぃの家に寄ってマンガを借りてから帰ることにする、沙都子に持っていくものの準備はそのあとでいい。
「みぃ〜〜☆ありがとうなのです」
放課後、学校が終わるとすぐに魅ぃと一緒に園崎本家に向かう……
ちなみに今は、田園地帯の畦道を魅ぃと二人で歩いてるところ。(もちろん羽入もいるけど)悟史には漫画を借り終わったら、電話する約束になっていた。
まだ昼ごろなため、田畑には野良仕事をしている人が結構いて、ボクたちに手を振ってくれたり、話をしに来たり、数珠を揉んでみたり、多種多様だ。
いつもなら長く話をしたりもするけど、今は用事があるから、簡単に挨拶だけして、魅ぃの家に向かう。
「ふーん岡村がねぇ…」
「みぃー」
「で、どうなの?梨花ちゃんに撫でられると本当に頭よくなるの?」
「さて…?ボクは撫でられたことがないからわからないのですよ。みぃ〜☆」
ボクが曖昧にぼかしてみせると、魅ぃは畦道の縁をバランスをとりつつ歩きながら、唇を尖らせる。あと右に足一つうごいたら、田んぼの中にまっ逆さまだ……ちょっと押してみたくなる。
「ちぇ〜、秘密主義なんだからな〜、ケチケチしないで教えてよ。誰にも言わないからさ」
「魅ぃ、百聞は一見にしかずですよ?撫でてあげますから、自分で効果の程を計ってくださいです」
「あーパスパス、私もう自分のテストなんか見ないことにしてるから」
「みー?点数を見てないのですか?」
魅ぃは、畦道の縁からボクに視線を移し、とても嬉しそうな顔をする。周りの畦道に生える小さな草たちも魅ぃに合わせ楽しげに揺れた。……バランスをくずして、田んぼに落ちたらすぐ慰めてあげるのです。みぃ〜〜☆
「そーそー、どうせ低いって分かってるし見るだけ損だからね。梨花ちゃんもわかるでしょ?点数が悪いときのあの衝撃!そんなの……おっとと、危ない…」
魅ぃは縁から足を踏み外すも、咄嗟に右足の体重を左足に移し、ギリギリで落ちるのを免れる。その後ちょっとふらついたけど、また無事に畦道の縁に帰還した。
「みぃー、粘りやがったのです」
「えっ?何か言った?」
「何でもないのですよ。にぱ〜☆」
「そう?それならいいんだけど、それでさー…」
また話始めた魅ぃを後目に、羽入はそっと嘆息する。
「あぅあぅあぅ…昼間なのに梨花が黒く見えるのです」
「みー?アゥアゥアゥ……ここでも羽入が鳴いているのです。でもボクは鳴き声で判別ができないのですよ。この羽入はどんな種類なのですか?」
「あぅ…種類って、僕は一種類しかいないのですよ?」
「みー?アゥ…シュルイ……やっぱり初めてきく鳴き声なのです。きっと新種にちがいないのですよ。帰ったら事典で調べてやるのです」
「あうぅっ!新種もなにも、僕は一人しかいないのですっ」
羽入の声は無視して魅ぃに問いかける。
「魅ぃ、それならテストの点数をみてしまった時はどうするのですか?」
「えっ?それはね、ビリビリに破いてパーッと捨てちゃうのさ、むしゃくしゃをテストにぶつけながらね。これがまぁスカッとするんだよねー」
「みぃー☆魅ぃらしい野蛮な方法なのですよ」
「や、野蛮って…梨花ちゃんおじさんのことを何だと思ってるわけー!?もしかし……」
そんなふうに羽入を無視して、魅ぃの話に相槌をうっていると、つい入院してる沙都子のことに思いを馳せてしまう。
沙都子は今ボクがこうしてる間も、診療所で辛い時間を過ごしていて、死んでしまった両親のことや、虐める叔母夫婦のことを思い出し、ため息でもついてるのかもしれない。
それは救わなかったボクのせいにちがいなく、こんな入院の用意をするくらいじゃとてもじゃないけど返せないこと。
……それなら、ボクは沙都子たちに何をしてあげればいいんだろう……?
今ボクにできることなんて、ほとんどない………
叔母たちの虐めをなくしてあげることはできないし、死んだ両親を生き返らせることだってできない。
出来ることは、慰めたり、ボクに出来る小さなことをすることくらい……
そこまで考えて、唐突に思いつく。
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