[携帯モード] [URL送信]



時間は楽しければ楽しいほど早くたつものらしい、そうして話に花を咲かせていると時間がたつのを忘れてしまっていた。
「梨花、そろそろ学校に行く時間よ」
…あ、そうか、今日学校行かなきゃいけないんだ……
今からでも休めないかと、チラッと母を見る。
「梨ー花」
そのひとことで悟る、やっぱりダメか。
……こういうとき母の厳しさが少し恨めしい、仕方なく手を合わせ席を立つ。
「みー…ごちそうさま」
「食器は片付けておくから、くれぐれも遅刻しないようにね」
「…はいなのです。すぐに行きますです」
そうは言ったものの、お母さんの心がわりを期待して、ボクはできるだけゆっくりと歩く。
肩は少しだけ下げ、顔もうつむき加減にし、とぼとぼと…という表現がぴったりな歩き方。
見た人は思わず言うことを聞いてあげたくなるような、そんな雰囲気をまとわせてみる。

……だけど、後ろからは食器を片付けるカチャカチャという音だけが響いてきて、あっという間に戸の前に着いてしまう。
……はー…
「あ、梨花」
みー!思わず頭があがる。
「みーどうしましたですか?」
「今日お父さんとお母さんは出かけるから、帰るのが少し遅くなるわ」
………なんだそんなことか、あげた頭がまた萎れる。
「……みぃー」
「大丈夫よ、夕御飯までには帰ってくるから」
「…………」
「一人でお留守番出来る?」
「…うん」
…2年間も自炊してて、留守番できないわけないではないか、いつまでも子供扱いしないでほしい。
…だけど結局休めないのか………
戸を開けて出ていこうとして、ふと気づく。
今…お父さんって言わなかった?
お父さんとお母さんは出かけるって…
慌てて振り返る。
「お、お父さんもなのですか?」
慌てたためか声がうわずってしまったけど、母は逆に落ち着いていて、食器を台所に持っていきながらのんびりと答えてくれる。
「そうよ、今日はお父さんに会合があって、お母さんも行くことになったのよ」

み……?みぃ……?
なんで…なんで…?…なんで…?

お父さんは死んだんじゃなかったっけ…?
2年前の綿流しの日に心臓マヒかなにかで…
別人というわけはないと思う。
運ばれたところは皆見てるし、ボクも死んだお父さんの顔を何度も確認した、今でもはっきり思い出せる。
…とても苦しそうな顔だったから、見ているのが辛くて、まっすぐには見れなかったけれど…
でもずっと見てきた顔だ、見間違うわけないあれはお父さんだった。
…となれば、もしかしたら、母は父が死んだことを知らないのかもしれない…
同じ日にいなくなったのだから、父の死は見ていない可能性も低いとはいえある。
母はきっと知らないから、父さんが生きてること前提で話をするのだろう。
父の死…それを母になんて伝えれば…

「お母さん、お父さんは…」

あれ…でも…………一緒に会合に行くって言わなかった…?
………今の母の口振りだと、今日お父さんと会って約束したような意味に取れる。
……うん、どう考えてもそうとしか取れない、…でも父が死んでるのは確かだ。
それならなに…?お母さんは夢をみてそれで勘違いをしたというの…?それともただ言いまちがえただけ…?
…ないとはいえないけど、なんとなくハズレなような気がする。
…じゃあなに何なの?…まさか本当に会ったとか…
いくら何でもそれはありえない、だって人は生き返らないから…
…ふと羽入の顔がうかぶ。
あの、あぅあぅ神ならひょっとすると摂理くらいは……
…試しに推理してみよう。
…羽入はボクになにもいわずに急に隠していた力をつかいたくなって、……それでお父さんは今日生き返って……朝、たまたま二年ぶりに帰ってきた母に会って会合に行くと約束した……
………………。
………やっぱり無理、こんな偶然ありえるわけない。
そもそも羽入の神様っぽくなさは筋金入りだ、ボク以外と話せないことと、触れないこと以外は普通の人と何もかわらないし。
だいいち、キムチ一口で涙目になるのに人を生き返らせられるなんてとても信じられない。
それに今日まで生き返らせない点も謎だ。母が帰って来るまで待ったというわけないだろうし…
…ああもう、羽入のばか、羽入のせいにできないじゃない。
……思考がぐるぐる回る、ボクとしてはなにか父がいる理由がほしい、あれば信じられる…でも現実的には母の気のせいが一番ありえるし…
…あ、でもそもそも会合だと、他所の人と約束してたってことで…母か父が誰かと電話とかで会う約束したということになる。
だけど、よく考えるとそれは少し変だ。
…なんでその人は誰にも話さなかったのだろう? 突然死んだ人から電話がきたらまずは驚き、訝しく思う。…でも話てる内に本当だとわかれば、それはとても嬉しいニュースだ、すぐにでも誰かに話してしまいたくなる。家族にでも知り合いにでも。
一度話せば、そのあとは一瞬、どの村人も喜んで話してまわり、今頃は村じゅうの人がこの家に見に来ているはず……
…なのに、朝から誰も来ない、電話すらも……やっぱり母の話は間違いなのか、だけど嘘をついてる感じではないし…
「梨花?お父さんがどうしたの?」
ボクが言葉を続けないのを変に思ったのか先を促す、母は台所に食器をつけてるため、背は向けたままだ。
……それを聞きたいのはボクなのです。
頭が答えを探してこんがらがる、わからないまま口が勝手に開いた。
「みー…そのお父さんは本当にボクのお父さんだったのですか?今日本当に会合の約束をしたのですか?」
「梨花!」
母は手をとめこちらに振り返る、なぜか顔が怒りの形相で、ボクは反射的に身を竦めてしまう。
その間に近づいてきて、ボクを見下ろす格好になる…少し怖い。
「一体誰にそう言われたの!」
「だ、誰からも聞いてないのです」
「ウソおっしゃい!梨花が1人でそんなこと考えるわけないでしょう!」
「みー!お母さんがなぜ怒るかわからないのです!」
「黙りなさい!聞かれたことに答えればいいの!」
母は見下ろす形のままボクに顔を近づける、目の奥には怒りがあり、息もかかる距離だから、心に恐れが生まれる。
でもそれ以上に、戸惑いを覚える、母が怒る理由がまったく見えてこない。
理由もなにもわからないまま怒られると、
それが理不尽に思えてついボクの口調も激しくなる。
「ボクは誰に聞いたわけじゃないのです!自分でそう思っただけなのです」
「ウソいわないで!じゃあ何でそう思ったか説明できるの!?」
「できますです!」
母の顔が余計に怒りに歪む、その口が開きかけて、また閉じる。
怒りすぎてがとっさに言葉が出てこないのだろう。
だから、ボクが先に口を開いた。
「だってお父さんは死んでしまったのです!お母さんは誰と会ったのですかっ!?」





[*前へ][次へ#]

3/62ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!