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「…やっと落ち着いたわね」
ボクが落ち着いたのを確認すると、抱き締めるのをやめて、ゆっくりと微笑む。
「本当にねぇ、梨花はいつまでたっても甘えん坊なんだから」
ぁぅぁぅ………そう指摘されると自然に顔が火照るのがわかる。でも二年間もほうっておいた母のほうもわるい…それも死んだとウソまでついてだ。思いだすとなんだか怒りがわいた。
「ボクだって泣きたくて泣いたわけじゃないのです……お母さんがいけないのですよ」
「私が……?」
母はまるで心あたりがないような、そんな顔をした。
……今さら惚けようとしているらしい、でもそれはボクの怒りに油を注いぐことにしかならなかった。感情が熱くなる。自然言葉にも怒りがこもる。
「…みー、二年間もほうっておいて、よくいうのです。連絡くらいよこして欲しかったのですよ」
「二年間…?何言ってるの梨花?毎日梨花と一緒にいたじゃない」

まだ惚ける気なの、いい加減にして…ボクは言葉に火をくべる。惚けられないように、今度はもっと強く。

「そんなはずないのです!お母さんは二年前から帰って来なかったのです!……だから…ボクは…」
ボフッ、ん!?んーんー……急にお母さんにぎゅっと抱き締められて、続きを言えなくなる………急になに…全然言いたりない。口を逃がそうとしたけど顔を抑えられてうごかせないから、手を振りほどこうと力をこめる。
「もう言わないで。そうゆう夢を見たのね。」
ちがう…ちがう、夢なんかじゃない。手を振りほどこうとして振りほどこうとして…
振りほどけなかった……
…母は決して強い力で抱きしめてるわけじゃない。
でも、抜け出せない………不思議に思って感覚を抵抗する以外にむけてみると
…母がボクの背中をゆっくりと叩いているのに気づく……トントントントン。
……トントントントントン…なんとなくこの音を聞くと力が入らない感じがする、抜け出してはいけないような不思議な感覚…
トントントン……毒気を抜かれるような、怒ることがバカらしくなるような変な気分………トントン…そうだ……そういえば昔泣いたときにもこうしてもらってたから…………トントントン……………
………トントン…トントン…トントン…
…トントン……気づけば、抵抗もなにもやめていたらしい…
母は落ち着いたのがわかったのか叩くのをやめ…ボクに優しくかたりかける…
「ねぇ梨花、どんな夢を見たのかはお母さん詳しく聞かないけど…、お母さんはここにいるわ、梨花を置いていなくなったりしない…だからね…安心して」
言葉だけでなくお母さんの胸元からトクトクと音が響いてくる、その2つの音で……さっきまでの怒りの炎が不思議と……鎮まろうとする。
お母さんはずるい……そうゆって抱き締めればボクが二年間ほうっておいたことを忘れると思ってる……夢で片付けて…それで許して貰えると思っている…
なのに…抗えない…抗うことができない…二年ぶりの母の手が言葉がこんなにも暖かくて、ボクに怒りを持たさせないようにする……だから許さないという気持ちがどうしても持てない。
…それどころか、つい、もっともっとこうしていたいとまで思ってしまう……詰め寄りたいのに、二年間もひどいと怒りたいのに
…こんなのずるい…ずるいずるい…
唐突に母が抱き締めるのをやめる。手が優しく去る。
…もう終わり…?…一瞬そう考え…慌てて打ち消す……怒らないと…せっかく手がどいたから…でもどんなに頑張っても怒りがわかなかった…

母はそんなボクの頭を撫でてくれて…ボクはくすぐったくてつい笑みを浮かべる。
……やっぱりずるい、……だけど、それでいいのかもしれない…あの二年間は母が話してくれるまで夢にしておこう。…だってお母さんはちゃんと帰ってきてくれたのだから、……少し甘いかな…とも思ったけど、胸のポカポカに免じて、それでいいことにする…
母はその気持ちを読みとったのか、撫でるのをやめてゆっくりと立ち上がる。
「いい子ね、さ、それじゃあ早く学校に行く準備をしなさい」
「みー、今日は学校には行きたくないのです……」
せっかく死んだはずの母に会えたのに、学校になんか行きたくない。……ボクじゃなくてもきっとそう思う。
でもお母さんには通じないようだった。
「わがままを言わないで梨花。この前休んだばっかりでしょう。ご飯が出来るまでに行く用意をしなさい」

たしかに、ボクは4日前に風邪で休んだ。だけど何で知ってるんだろう…?
4日前にはもう帰ってきてた…?
それなら早く言ってくれれば、すぐにでも会いに行ったのに。
……でも、それで久しぶりの再会なのに、母がやや淡白な理由がわかる。向こうはもう勝手に感動の再会を終えて少なくとも4日以上たっているから、最初の感動も薄まってきてるのだろう。
……それでも少しはこちらの気持ちも汲んでほしいと思うのは、やっぱりわがままなのかな……
その気持ちを目に込めて…母の目をじっとみる。
「梨花!」

あ……まずい…
唐突に思い出す。こうみえてお母さんは気が短い。これ以上ぐずぐずしてたら…絶対に怒る…そして学校に行くというまでボクを叱るのだろう。
喧嘩をしたいのではないし、仕方なく粘るのをやめる。

ボクは母に、うん、と答え、台所をでてから、顔と手を洗いにいく。
今日の水は冷たくて、火照った体にはとても気持ちよく感じられた。
ふと…母が生きてたことが、また夢みたいに思えてくる…全部夢で急に目が覚めてしまうのではないか…朝おきたらまた母はいなくなってるのではないか。
でもその心配は杞憂だったみたいで。
顔にかかる水の冷たさが、夢じゃないよと教えてくれる…それがとても嬉しい。
だからますます体が暖かくなって、ますます水の冷たさが気持ちよく思える……そんなとてもいい循環…
…そうだ…羽入にも教えよう。


タオルで顔と手を拭くと、さっそく部屋にいき羽入に声をかける。
「羽入!すごいのです!すごいのですよ!お母さんが…」
…あれ…羽入がいない…
「…羽入?いないのですか。」
羽入はすでにどこかに行ってしまったのか、答えてはくれない…部屋の中にいないみたいだ…せっかくお母さんが生きてたこと伝えたかったのに。
いないならしょうがない…布団をたたみ、身だしなみを整え始める。
鏡に自分の姿を映すと、まだパジャマだったことに気づく、この格好で泣いてたのか…母にでも恥ずかしい…早く着替えなきゃ。
急いでタンスから着替えをだしパジャマを脱いでいく。

そうして着替えていると、何となく鏡に映る自分の背が縮んでるようにみえた。
…前はもう少し高かった気がする…、それに服もいつもより小さい…?……そこまで考えて、少し可笑しくなる…1日で小さくなるわけないじゃない。
人が縮むわけもないから、きっと気のせい、………あ…それとも羽入のせいかな……
何だかそんな気もする……もしそうなら羽入はなんて謝るのだろう。羽入の泣きそうなときの可愛い顔が浮かんできて、少し楽しい、あぅあぅ…、なでなで、みーみー☆

そうしてる内に着替えが終わって、ボクはすぐに学校の用意を始めた、少しでも早くお母さんの場所に戻りたくて、いつもよりもてきぱきと手を動かす。
………でもすぐに学校の準備ができないことに気づいた。理由は簡単。
教科書がないからだ。
……といってもすべてない訳ではない、小学二年の教科書はある。
ただ、ボクは今六年生で、小学二年は四年前に卒業しているから使えない、もっていったらきっと知恵が怒る、そういう知恵も見てるぶんには楽しいが、自分が怒られるとなるとべつだ。
もっとよく探そうとして……やめる。
きっと沙都子と住んでる家に置いてあるのだろう……それなら学校に行くときに入れられるから、とりあえず用意は終わり…ボクは部屋を出て、台所へとむかう…心なしか足が軽い。


台所に着くともう朝ご飯がならんでいた。
久しぶりにお母さんの手料理が食べれると思うと、何だか嬉しい。
お母さんは料理に使ったまな板とかを洗っていたが、ボクが来たのを見ると、今日は先に食べていいよと合図をくれる。
だからボクはお母さんに少しでもこの嬉しい気持ちを届けるため、大きな声でいただきますと言うことにした。
「いただきますです。にぱー☆」
お母さんの料理は、火を通すものだと焼きすぎてあんまり美味しくない、だけど今日みたいにおひたしとかお漬物とかになると、なかなか悪くない味になる。
だから、久々の母の手料理はとても美味しく感じられた。
いや…今のボクにはお母さんの作ったものなら、炭になったハンバーグだろうとなんだろうと美味しく感じられるにちがいない。
それだけ母が帰ってきたことが、嬉しいし楽しい。
だから少しでも、この時間を味わいたくて、ご飯をできるだけゆっくり食べる。
そうしている内に母がきた。
「今日は機嫌がいいのね、朝はあんなに泣いてたのに」
そういうお母さんも機嫌はいいみたいだ。顔が笑っていて、ボクも笑顔で答える。
「みー☆母は何でもお見通しなのです」
「誰でもわかるわよ、だってさっきから、みーみーってとても嬉しそうに鳴いてるもの」
「してましたですか?」
え…記憶にない。
「言ってたわよ、お行儀がわるいから注意するかどうか考えるくらいに」
そう苦笑しつつ母はテーブルについた。
この様子だと相当鳴いていたみたいだ…目は口ほどに物をいうとゆうけど、ボクの場合、口もくせ者で勝手に感情を教えてしまうらしい。
「みぃボクの体は正直者すぎるのです。困ってしまうのですよ」
「そうね、でも梨花はまだ子供だからそのぐらいで丁度いいの」
「みー?」
「ううん、何でもないわ、それじゃ、いただきます」
「みー☆いただきますなのですよ」
そういって手を合わせると、母も朝ごはんをたべはじめる、母の料理だけでも嬉しかったけど、やっぱり本人がいると全然ちがう。

友達の話や、学校や近所の人の話…エトセトラエトセトラ
そんな色々な話しに花を咲かせていると、食卓が綺麗に色どられていくように感じられる。
ただボクとしては母のいない二年間の話もしたい、でも母はその二年は夢ということにしてほしいらしいから、なるべく気にしないように2年間の情報はそうと悟られない程度にまぜこむ。
…たぶん気づいてると思うけど…それでも少しずつ混ぜていく…お母さんもそれを笑顔で聞いていてくれた。

この二年間ボクは父や母の顔を忘れることはなかった、でも決して思い出そうともしなかった。思い出そうとすると自然と涙が出たし、もう会えないということがより感じられて悲しいから、むしろ逆に忘れようとまでした気がする。
だからボクはお母さんとの食卓がこんなにも嬉しいものだと、すっかり忘れていたのかもしれない。
それほどに母と話しながらの食事は穏やかな暖かさに満ちていて、嬉しい気持ちが溢れてくるものだった。







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