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1鏡崩し編〜壱〜






子供達は見知らぬ山で探検ごっこをしました。
子供達は初めて見る山、川、森に夢中になり楽しそうに遊んでいます。
それを、山の精霊は微笑ましく見守り続けます。
子供たちはそんな山の精霊を見つけ仲間にさそいました。



Frederica Bernkastel









「………。……っ」
誰だろう……?誰かが呼んでる気がする。
その声はとても物悲しくて…、聞いた人はすぐにでも慰めてあげたくなるような、そんな声……。でもボクは声もだすことができなくて、どうしてもその人を慰めることができない。
だからその声の主は安心することができず、ますます悲しい声をあげつづけるのだろう。泣きながら切なそうに……
それがあまりに悲しくて……切なくて、何もできないボクはせめて心の中で慰める。
大丈夫、ボクはここにいますですよ……。だから…そんなに悲しまないで……

……そうしてるうちにボクの意識が少しずつ明瞭になってゆき、声も耳に聞こえるようになってきた。聞いたことある声…?
「…梨…花……梨……花ぁ……」
この声は………羽入?
そう認識したとき、また眠気がもどってくるのがわかる。
しばらく放っといても羽入なら大丈夫ではないか、そう甘え心が芽生えるものだから眠気と相まってより起きたくなくなってしまうのだ。
羽入は友人であり姉妹であり母でもあるボクの大切な存在で、このぐらいのわがまま聞いてくれるに違いない。
…でもならば、この声をいつまでもそのままにして置くのか、そう問われるとすぐにでも起きなければならないような妙な使命感にかられるのだった。
……そうしてしばらく迷ったあと、結局、起きることにした。

ゆっくりと目を開けると、羽入が泣きそうな顔でじっと覗きこんでるのが見えた。いや本当に泣いていたのかもしれない、目の下がほんわかと赤く、眉は少し八の字になっている。

たまにボクがイジワルしたりすると羽入は時々こんな顔をする、でもこういう顔した羽入もなかなか可愛くて、だからついこの顔が見たくてイジワルしてしまったりもするのだけど……
……今日はまだイジワルした覚えはないのです。
そうしてじっと顔を見ていると、すぐに羽入と目があった。

「梨花ぁ!よかった!梨花ぁーよかったのですよかった…でも僕のせいなのです。ごめんなさいごめんなさい……」

羽入はボクの顔をみるなり、本当に泣き始めた。
朝から泣いている羽入を見るのはそんなに悪い気分ではないけど、それでも泣いている理由は気になる。

羽入が泣く理由は考えれば分かる時も多い、だから聞く前に、まずは考えてみることにした。

……羽入の泣く理由は大ざっぱに分けるとほぼ二つに分けられる。大したことのない理由か、それなりな理由の二つだ。どちらの場合も謝るか慰めるか、最悪シュークリームをあげれば機嫌がなおってしまう。

多分、ボク以外は誰も羽入と関われないから、傷つく機会も深さもほとんどないのがその原因だと思う。その証拠に泣くときはほぼボク絡みで、ボクが辛いものを食べた。とか、ボクと喧嘩した。とか、そんな感じだ。
その分深刻にならなくていいから、安心して泣き顔を楽しめるのが魅力ではあるけど、今回の場合は珍しくボクが関わっていない点でいつもと違ってはいる。
こういうことはあんまりないから、泣く理由を想像するのは難しい。
しばらく考えたあと、ボクは考えるのをやめ、素直に聞いてみることにした。

「みー…羽入何で泣いてるのですか?ボクは何もした覚えないのです」
「ぁぅぁぅ……違うのです…そうじゃないのです…ごめんなさいごめんなさいなのです………」

泣いてるせいか声も震えていて、正直何が言いたいのかよくわからない。だから落ち着くのを待って再度たずねた。

「羽入。ちゃんと言わないとボクにはわかりませんですよ…?」
「ぁぅ……梨花。ごめんなさいなのです…僕も混乱していて…自分でもよくわからなくなっていますです」
「みー…?」
「だから、もう少しだけ待って欲しいのです……僕も梨花に何と説明したらいいか。正直まだ迷っているのですよ」

いつものパターンにはない提案にちょっと驚く、羽入には珍しく何か深刻な理由があるのだろうか……?
嘘かどうかじっと目を見てみたけど、羽入の目は揺らめいていて、確かに迷いの色があるように見えた。

「…みー、わかりましたのです。……そのかわり必ずゆうのですよ。言わないのはだめなのですよ?」

「はい、梨花、ありがとうなのです……」

羽入は涙を拭き、すぐにあうあう考え始めた、何に迷ってるのかは興味があるけど……こうなると羽入は長い。しばらくほうっておくことにする。

そういえば起きてから羽入の顔しかみてない…今日は学校もあるからあんまりのんびりはしてられないし
今何時だっけ…?
時計を見る、……よかった、学校にはまだまだ余裕がある。

……時間は知れたのに、何かいつもと違う気がして時計から目が離せなくなる…あ…時計の形がいつもとちがう…?
天井が目に入る。…天井には木製の梁が敷かれていて中央に明かりがぶら下がっている……古手家のボクの部屋の天井……?
……ということは、ここは古手本家?
ボクは昨日本家で寝た……?

…………?
……でも確か昨日は、沙都子と一緒に倉庫を改良した部屋で眠ったはずじゃなかったっけ。
それに父母が死んでからは本家には近寄っていないから、本家で寝ることはまずありえない。

そう確信してるはずなのに、そうだという自信がない…不思議なことに…昨日古手本家で眠った記憶もうっすらと蘇ってくる。
記憶がふたつある……?
一つは実感の伴なうちゃんとした記憶、もう一つは実感の伴わない記憶だ。

でも普通は二つもあるわけない……。
頭でもぶつけて記憶が交ざった…?でもそんなことはない…ない…と思う。
それならば羽入がボクになにかしてしまって、だから泣きながら謝ってる……?
それなら何となく納得できた。
それもきっとボクに怒られるようなことで、だから羽入はボクにいいづらい…?それとも……………ぁぅ……
……だめだ…朝から頭がぼんやりしてて考えが上手くまとまらない。今は考えるのをやめよう。
そういえば沙都子は……?沙都子はどこ?
辺りを見渡す、どうやら沙都子はこの部屋では寝てないらしい、先に起きたのか、それともやっぱり倉庫部屋の方で寝ているのだろうか……

その時、声が聞こえた。とたんに心臓がはねあがる。それはもう二度と聞けないと思ってた…
本当に本当に聞きたかった声!
「梨ー花!早く起きなさい!遅刻するわよ」
「みーみー!!」
死んでしまったお母さんの声だ!
ボクはすぐに布団をはねあげると、母の声の聞こえた場所。
台所へと走りだす、羽入が何か言っていた気がするけど今は聞こえないふりをする。


走るとすぐに台所の前の戸に着いた。

開けようとして、その手がためらう。
なぜためらったのか、一瞬自分でもわからなかったけど、少し考えて理解する。………聞きまちがえだったのかもしれないと急に思ったからだ。
……むしろその方が自然だ。
だってお母さんは二年前に死んでいるのだから、死んだ人間は生き返らない。
そんな話があるのは映画や本の中だけ…………?
心に何かが引っ掛かった。
えっと、今なんて言ったっけ、映画や本の……違うここじゃない、その前は……
確か……死んだ人間は生き返えらない。
きっとこれだ。これが引っ掛かたんだ。
ん…でも何でここが引っ掛かったんだろう。
少し呼吸を整えて、考えてみる。死んだ人は生き返らない。
変なところは特に無いように思える……死んだ人は生き返らない……死んだ人は……
あ、もしかして……
ということは逆転すると…死んでなければ生き返るってことになる…?
……つまり母は死んでないから生きてるということ。
そう言葉に直すと、なんだかありえるように感じられた。
……そもそもボクはなぜお母さんが死んだと思ってたんだっけ。
記憶を掘り返してみる。
遺言…そう二年前の遺言だ、祟りを鎮めるため鬼が淵沼に身を投げますって書いてあって、最初は信じられなかったけど、お母さんがいつまでもいつまでも帰って来なくて、最後にはそれを信じた。
…でもあの時、遺言は残ってたけど確か死体はまだ見つかってなかったんじゃ…?
そうだ。……沼に飛び込んだはずなのに、沼を警察があんなに探しても母は見つからなかった。沼の底の底まで、あんなに!普通は必ず見つかる。死体が消えでもしないと絶対に。
じゃあ生きてる可能性もある?お母さんは本当は生きてた?
ボクは期待をこめて戸にそっと耳をつける。
中からはトントントンっと包丁の音が聞こえる。そして……かすかな鼻歌の音……
母が機嫌のいい時に歌う。とても懐かしい音色…自然に戸を開く、中には長い黒髪の女の人がいて……気づいたらボクは抱きついていた。
「お母さんっ!」
「…ッ、ちょっと梨花、驚かさないで」
お母さんの声だ……
「お母さん!お母さんお母さん……!」
しんじられなくて、目を閉じて自分に言い聞かせる。これは夢……きっとこれはボクがみた夢……だから目をあけてはダメ、夢が醒めてしまうから、
でも……抱きついたときのこの暖かさはなに…?ただよってくるこの甘い香りは?…まるで夢じゃないみたい、だからボクはゆっくりゆっくり目をあける…夢なら醒めないように…消えないように…
「梨花……どうしたの?怖い夢でも見たの?」
お母さんはしゃがんでボクを抱くと、背中をゆっくりとさすってくれる。
「ううん……いい夢……やっぱりお母さんだ……お母さん…っ……」
そのあとボクは嬉しくて信じられなくて泣きつづけた。
母はそんなボクが落ち着くまで背中をさすってくれていた…………






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あきゅろす。
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