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しばらく問題を解きつつ羽入の帰りを待つ。沙都子はボクの不正を暴こうと必死になってこっちを見ている。
でも魅ぃと違ってボクはそもそも不正はしてないから、いくら探しても分かるわけない。そんな沙都子の行動もそろそろ見納めだ。
羽入の結果次第ではすぐにでも勝負はおわる。

羽入がうれしそうな顔で戻ってきた。ボクは勝利を確信する。

「梨花の言った通りだったのです!」

「みー☆それでやっぱり右腕近くなのですか?」

「はい、右腕の真ん中よりやや魅音よりのところです。方法としては腕をのっけて直接隠すのではなく、服の袖で隠すギリギリの位置に書くことで、魅音は腕を動かすことなく答えを見ていたのです」

「みー?悟史や羽入に見つからない理由がよくわからないのです」
腕で直接隠してないなら、羽入は色んな方向から見ているし、すぐにわかりそうな気もする。
羽入もその質問は予想していたようだった。
首を左右に振ると、ボクの方を興奮した表情で見据える。

「そこが、魅音のすごいところなのです。なんと40問分の漢字すべて合わせて単3電池一本分くらいのサイズに納めてしまったのですよ!」

「みー!?」
……乾電池一本分!?ボクじゃ二文字かけるかどうか……
羽入はさらに勢いこんで机の上に手を乗せ、身を乗り出す。

「それだけじゃないのです!
書いた位置も悟史から死角になっているだけじゃなく、腕の作る影と、薄く書いた字により、他の場所から見ても、あると思ってみないと気づかないのです!」

羽入はもう一度手を机に叩きつける!もし触れられればバンッという音が聞けただろう
「その上更に!漢字を見るときも考えられていて、
顔を動かさずに、一瞬右に目を動かす動作で済ませることで、誰しもがただ目を動かしただけだと思ってしまうのです。
あれは一朝一夕で出来るものではありません!
字!腕!視線!すべてが自然に見せることを目指し完成されている!
魅音はこういうときのために、修練を繰り返していたにちがいないのですよ」

羽入は最後にパッと両手を広げフィナーレを迎える。自分の演説に満足したのか、満面の笑みを浮かべて、あちこちに手を振ってる。もしかしたら、ボク以外の観客でも見えているのかもしれない……楽しいみたいだし、ほっておこう。

でもこの修練をつんだって、カンニングくらいしか使う機会がないような……
今度魅ぃの点数が急に上がったら知恵に教えてあげないと。それにしても……
「きっとその時間を勉強に回してたら、今頃県内1位以上は間違いないのです。本当に末恐ろしいやつなのですよ……みぃー」

いない観客に手を振るのに飽きたのか、羽入がボクに訊ねる。
「ところで梨花、魅音の反則を見つけたのはいいのですが……その後はどうするのです?」

「みー?」

「だからその後です。まさか何も考えてなかったのですか?」

「みー!失礼な羽入なのです。ちゃんと考えてありますですよ」

「どんな手をーですかー?」

何となく癪にさわる言い方だ……さっさと教えて口を閉じさせてやるのです。
「簡単なことなのです。沙都子に言えばいいのですよ」

羽入は大きくため息をつく、みー……さっきからバカにされてる気がするのです。
「あうぅぅやっぱりそんなことだろうと思いましたです。梨花はあまあまなのです」

「みーー!!あまあまっ!」

「あぅあぅ……試しに沙都子に言ってみるといいのですよ」

そう言って羽入はちょっと離れる。目の前には心配顔の沙都子がいた。

「あの……梨花?さっきから誰と話してますの?」

……ちょっと声を大きくし過ぎたみたいだ。知恵に聞かれてないか周りを見る。
よかった知恵は遠くで他の子を教えてる
「みー、実は沙都子の後ろに話し相手が居たのですよ」

「わ、わたくしを驚かせようとしても……無駄ですわよ」

キョロキョロと辺りを見渡す沙都子、本当は怖いにちがいない。
それにしても、人のことをあまあまとは……沙都子に言えばすぐに終わるのに……羽入にはわからないらしい。

「沙都子、魅ぃの不正が分かったのですよ」

「魅音さんの?どんな不正ですの?」

沙都子はボクの不正が見つからないからか、ちょっと疲れたような表情をしていた。

「簡単なのです。机の上に答えを書いて、それを見ているのです」

「机の上はにーにーが見てますのよ、幾らにーにーでもそれくらいわかりますわぁっ」
「声が大きいのです…っ」
思わず沙都子の口を塞ぐ、知恵は一瞬こちらを見たあと、シーッと手の指を一本立て、また他の子を教え始める…よかった…沙都子の口元から手をどけると、沙都子の目が潤み始める。

「うぅやっぱりわたくしをバカにしてますのね…っバカにするならもう審判なんてやめる、見てるだけで退屈だもん、楽しくないもん」

何で急に…!?慌てて理由を考えてみる。沙都子はさっきバカにされたと思ってて…口を塞いだから…それとも注意がいけなかった…?みーよくわからないのですっ、でもさすがに審判が居なくなるのはまずい…宥めるように沙都子に答える。

「バ、バカになんかしてないのです。ちゃんと見つけたから言っているのですよ。魅ぃは悟史からは見えないように巧妙に隠しているのですっ。あの右腕辺りに」

沙都子は魅ぃの方を見て、右腕らへんに目を凝らしている。
見えなかったのが悔しいのか、顔をクシャッと歪めてボクの方に向き直る。

「バカにするのもいい加減にしてくださいまし、わたくしでも見えなかったのに、梨花が見えたなんてっわたくしの目は悪くありませんわ…それともっ、梨花の目がいいといいますの?」

余計に沙都子の目が潤む…まずい、このままだと泣いちゃう…沙都子の世話がここまで大変なんて…少し頭が混乱して慌てて言葉を紡ぐ。

「しょ、証拠がありますです」

「しょうこ?」

「それは羽入が見て……」

「羽入なんていませんわぁ…わたくしにはわからないと思ってまたウソをぉ…っ」

「ま、間違えただけなのです」

そうだった、羽入はボクにしか見えないから、証拠にはならないのか。証拠……証拠はない……どうしよう。沙都子が更に涙を……みぃいぃぃーーーっまずい、まずいのですっ、授業中に泣かれたら勝負どころじゃない、早くなんとかしないと…!

「ご、ごめんなさいです。沙都子…実はボクも見てないのです。ついそんな気がして、そう言っちゃったのです」

ピタッと沙都子が止まる。
「そうですの?見てないですの?」

「みぃ」

「なんだ…やっぱりそうですのね…梨花が見つけてるわけないですわよ」

嬉しそうに涙拭く沙都子……泣かれないで済んだけど…結局何も説明出来なかった…はぁー。

「そうなのです…見つけてなんかないのですよ」

「…でもその、梨花がそこまで言うなら、授業が終わったら見に行ってさしあげますけど」

おずおずと言う沙都子、どうやらボクのことを気にしてくれたらしい、そういうところはあまり変わらなくて、可愛く感じる。でも授業のあと、それじゃ間に合わない。魅ぃは試合が終わった時点ですぐに消してしまうだろう。
乾電池一本分のサイズなら簡単に消える……沙都子が行ったときにはもう何も残っていないにちがいなかった。説明するのも大変だし、断ることにする。
「みー……行かなくていいのです」

「いいんですの?遠慮はしないでいいですのよ…?」

「みぃ」

時計を見ると残りは五分、考えごとで時間をとられてもすでに11問は解いていた。時間内に終わらせるのは難しくない。
それに、羽入の力を借りて魅ぃの不正も見破った……もう勝つための道は出来たはずなのに、まだ道は険しいらしい。

「あぅあぅ、分かりましたか?不正は審判に証明して始めて不正になるのですよ。見つけるだけじゃ不正にはならないのです」

「ボクがあまあまだったのですよ。みぃ……」

「あうあう☆分かればいいのです」

「みー、でも沙都子がダメでも悟史がいますです。羽入は悟史でもダメだと思いますか?」







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