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「あら、にーにーはおかしく思いませんの?魅音さんは1試合目は4点でしたのよ、急に19点も取れるわけないではありませんか」

沙都子は、今なら会話に入っていいと勝手に判断したのだろう。嬉しそうに悟史に訊ねる、まだ質問したいんだけど…沙都子の笑顔につい言い損ねてしまう。仕方なく沙都子の言葉に重ねる。

「みー、そうなのです。魅ぃが急に勉強出来るようになったら、きっと明日には隕石でも落ちてくるのですよ」

ボクたちがそう言うと、悟史は、ボクに困ったような目を向ける。
「うーん、それはそうなんだけど、僕からみたら梨花ちゃんの方が不思議に思えるんだ」

「みー?ボクがですか?」

「何でですの?」

「だって、梨花ちゃんは昨日まで沙都子と同じくらいの学力だったんだよ?二年生の算数ドリルでも十分驚いたけど、そもそも五年生のドリルも持ってない梨花ちゃんが、五年生の漢字を覚えてるなんて僕にはちょっと信じられないよ。それならまだ魅音の4点から19点の方が現実味があると思ったんだけど、沙都子は違う?」

「わ…わたくしだって気づいてたもん。でもにーにーが、先に…」
「そ?よかった同じ意見なんだね。沙都子に聞かないと不安で…」
「んー」

「あ…やっぱり僕の意見は間違ってたかな…」

「そうですわね。にーにーの意見は正しいと思いますのよ。
……そういえば、梨花はどうして漢字を知ってますの?」

……悟史は何だか大変そうだけど、いつの間にか議題が、魅ぃの裏道探しから、ボクへの尋問にかわっていた。
何て言おう……いっそ本当のことを言ってみようか。信じてくれるなら、その方が楽。

「みー☆実はボクは別世界で六年生だったのですよ」

「そ、そんなの信じられませんわ。ごまかそうとしても無駄ですわよ」

「みー本……」

「あうあう梨花!」

気づくと羽入が手でおっきくバツを作っている。……なんだろう?

「梨花!焦りすぎなのです!本当のこと言っても、朝のお母さんみたいに頭がおかしくなったと思われるのがオチなのですよー!慎重にっ慎重にっ」

……朝の光景が脳裏をよぎる。
でも沙都子なら信じてくれそうな気もする。
……そもそもお母さんが信じてくれなかったのだって、羽入から本当のことを聞く前で、お母さんに事実を伝えられなかったのが原因だ……
本当のことを伝えてればお母さんだってきっと信じてくれたはず。

そこまで考えてふと恐怖がわく
……だけどもしその予想がハズレていたら?結局本当のこと伝えても信じてもらえなかったら?
それは朝の光景の再現……考えるだけでとてもとても嫌だった。
それに、羽入はボクよりも長い年月を生きている……ボクよりもずっとずっと色んなものを見てきているのだ。
その羽入があんなに止めるなら、今はまだやめておいた方がいいのかもしれない。

「本……?なんですの?」

「みー、実は昨日そういう本を読んで勉強したのです。それが勉強のコツなのですよ。沙都子もするといいのです。にぱー☆」

「梨花はわたくしをバ、バカにしてますのね。よーっく分かりました」

羽入はほっとしてたけど、沙都子は拗ねたみたいだ。悟史はボクと沙都子の方を見ると微笑む。

「うん、沙都子も梨花ちゃんもわかってくれたかな。でも不思議と僕には梨花ちゃんが反則してるとも思えないんだ。だから魅音も信じてあげないとって思った」

「みー?どうしてボクがしてないと思うのですか?」

「なんとなくかな……」

……理由もなく信じるのは、正直なのか八方美人なのか。はたまた優しさゆえか……
そういうところが悟史らしくてボクは好きだけど、
それと勝負とは別、このままだと魅ぃの監視が外れかねない。

「ボクを信じてくれてありがとうです。でもそれでも悟史には魅ぃの監視をして貰いたいのですよ」

「むぅ、なんで?」

「みーなんとなくなのです」

「むー」

あまりに身もふたもない答えに悟史は考えこんでるみたいだ
「にーにーは魅音さんの監視に行ってくださいまし、わたくしは梨・花・の監視をしますわ。魅音さんも梨花もどちらも不正してるに決まってますもの」

そう言って沙都子はボクをキッと見据える。多分さっきの一件でよほど腹を立てたのだろう。沙都子は喜怒哀楽がコロコロ変わるから、見ていてとても楽しい。
悟史は魅ぃのところに行くことにしたらしく、しぶしぶ頷いてる。
それにしても、どちらも信じる兄とどちらも疑う妹か……ここまで分かれると面白い。


悟史は席を立って魅ぃの方に歩いていく、3試合目まであと20秒。
沙都子はさっきからチラチラ、ボクの方を見ていた。きっと監視しているのだろう。
ボクはボクで魅ぃの方をチラチラと確認する。
結局、話が変な方向に逸れたから、魅ぃの点数の秘密はわからずじまいだ。それにしてもなぜ魅ぃは20点にしなかったのだろうか?よくわからない。

魅ぃは悟史が来たのを見つけると、悟史も暇だねぇーと言わんばかりに、右肘を机の上において片手で頬杖をつく、またあのソファーで寝そべりそうな格好だ。
……くつろぐ姿を知恵に怒られて、時間がなくなればいいのに。
あ、でもよく考えたら、魅ぃって今日以外の授業中もたまにあんな調子だから、知恵も注意しなくなってるのか……
そんなことを考えていたら、20秒はすぐに尽きた。

授業開始から35分目、3戦目が開始される。

3試合目の漢字はちょうど1週間前くらいにやった問題で、そのほとんどをはっきりと覚えていた。
それに1戦目、2戦目で慣れてるからか、知恵もあまり気にならない。
それらの理由から、時間内に全て解き進めるのはそんなに難しいことではなく、17点くらいなら充分狙えると思う。

だけど、それじゃ勝てない……、魅ぃが不正をしているなら、必ず今回もするだろう。
それはもう既に決まっていること。夜が来たら朝がくるくらいに当たり前のこと。
魅ぃなら絶対にやる、勝つためなら!

だから、きっと魅ぃの点数は今回も19点以上になると思う。
そして、ボクが19点以上とれるかは賭けになる。
もしも、沙都子が協力してくれれば楽に20点取れるかもしれないけど、さっきの一件で沙都子はへそを曲げたから、もう試合中に助けてくれることはないだろう。それどころか、むしろボクの不正を発見しようとする敵になった観がある。
沙都子がさっきからボクの方をチラチラと確認してくるため、ボクがドリルの答えを見て20点取るという荒業も使えなくなった。もちろん反則だけど、もし沙都子の監視が2戦目くらい緩ければ充分に可能な技だったから、選択肢に入れていたのだ。
でもそれも潰えて、今のボクには正攻法しか残されていなかった。

だから、ボクは問題を解きつつ今一度状況を整理する。
まず魅ぃの19点以上はほぼ確定。
対するボクは17点は多分いけるけど、それ以上は賭けになる。
魅ぃが何か不正してるのはまず間違いない。
対するボクは正攻法のみ……
審判の二人はもうどちら側にもついてない
可能性は薄いけどもし魅ぃが不正を使ってない場合はボクが点数的にほぼ勝利になる。

こうしてみると、今の状況は魅ぃに有利だ。
ただし、魅ぃの不正さえ見破れれば状況はかわる……。
不正というのは諸刃の剣、不正の証拠を見つければボクの勝ちがきまる。

ここに来て、勝負はぐっと分かりやすくなる。ボクが時間内に魅ぃの不正とその証拠を見つけられるかどうか、たったこの一つが勝負の鍵になる。
魅ぃ勝負なのです!





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あきゅろす。
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