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知恵が沙都子と話してる間に五年生のドリルと答案用紙を机に仕舞い、二年生のドリルを机の上に出しておく。
これで知恵がもし戻ってきてさっきの続きを始めても大丈夫だ。

でも、その心配は無用だったみたいで、知恵は沙都子と話し終わるとそのまま離れて行った。
……助かった。
そう思ったら急に体の力が抜ける。相当緊張していたらしい。

「あうあうー沙都子のおかげで助かったのですよ」

「みー、沙都子だけじゃないのです。羽入が教えてくれなかったら今頃は、知恵がウーウーでガタガタブルブルだったのですよ。羽入もありがとうなのです」

「あ……う……ぼ、僕は別に……たいしたことしてないのですよ……」

羽入はあたふたと両手を動かしている。照れているのか、顔もまっかでトマトみたいになる……とまでは言い過ぎだけど、とにかく赤くて新鮮に見えた。
こういう羽入もボクは好きだから、こんなふうに時々褒める。
でもあんまり褒めすぎると、すぐに調子に乗るから、沢山は褒めないように気をつけている。

それはまあ置いとくとして、今の知恵とのやり取りだけで、すでに二分間使っていた。残り時間は後3分。
二分という貴重な時間を、ボク自身の油断で無駄にしてしまったのだ。
問題数はあと10問もある、急がないと……

そう心に決めると、ボクは知恵の足音に耳をすませつつ、問題に集中した。
……


「やっと、終了ですわ。用紙とドリルを渡してくださいまし…やっぱり見てるだけは…退屈ですわね…」
2試合目がおわり、沙都子がちょっと不満そうな顔をする、審判に飽きてきてしまったらしい。
「みーごめんなさいです」

謝りつつ沙都子に答案用紙を渡す。
今回ボクが解いたのは16問、この作戦を使えば、1分あたり2問くらいはとけるみたいだ。
このペースなら次の試合辺りには全問とくことも可能だけど……それは見れないかもしれない。
この試合で最後になる可能性が高いからだ。

8点くらいならともかく、今回のボクの点は手応えから言って10点以上は確実。
さっき4点だった魅ぃにとってはこえられない壁に近い。
それなら、反則で……と魅ぃが考えたとしても、悟史が見ているからそれも難しい。
となれば、ボクの勝ちはほぼ確定しているも同然だった。
魅ぃにはかわいそうだけど、この勝負はここまで……

「梨花、採点が終わりましたわ」

「何点ですか?」「さっきよりも全然いいですわ、14点でございますわよ」

「みー☆これなら安心して待ってられるのです」

「ですわね。4点の魅音さんには荷が勝ちすぎてましてよ。いい気味ですわ」

「魅ぃの悔しそうな顔が目に浮かぶのですよ。にぱー☆」

二人して笑うと、沙都子は手をだして魅ぃにボクの点数を伝え始める。
悟史の方に視線を向けると魅ぃの点数をボクに伝えてくれる。

手の甲をボクに向け、指を立ててる……
えーと、手の甲だから11点以上で……指の本数は……1、2……5……9……9本……ということは、19点!?とても信じられない……だって魅ぃは、さっき20問といて4点!
いくら問題の相性がよかったとしても、19点になんかならない。魅ぃの勉強力じゃ無理に決まってる。
とすると考えられるのは……

「19点ですの!?とても信じられませんわ。きっと何かしましたわね……」

沙都子も同じ結論に達したみたいだ。正攻法がありえないなら、考えられるのは裏道のみっ!

「ボクもそう思うのですよ。みぃ」

「魅音さんの隣にはにーにーが居たはずでしてよ。まったく……にーにーのお間抜けっぷりには頭が痛くなりますわ、わたくしがいないと審判もできませんのね」

沙都子の言葉に少しだけ苦笑してしまう、そういえば、沙都子がまだ悟史にあれこれ世話してる時期だっけ、前の世界の沙都子は、悟史の凄さを知っているけど、今はまだ知らない…だから、悟史を世話のかかる兄としてしか見れないのだろう。
それはそうと……いくら悟史が少し抜けていたとしても、目の前で不正したらさすがに気づく、考えられるとしたら、魅ぃに買収されたか、結託してるかだけど……
悟史に限ってそれはあり得ないと思う、悟史はそういう真似が出来ない。根が善良だから頼まれてもそういう不正はしないだろう。

もっとも命にかかわるような脅しだったらその限りじゃないかもしれないけど、いくら魅ぃでもそんな脅し方はしない。
いつも笑って済ませられる程度。
じゃあ……どうやって19点も?

「みー、羽入はどう考えますですか?」

「あぅ、僕にもよくわからないのです。とりあえず悟史が戻ってくるまで待たないと……」

それもそうか、悟史から様子を聞いてみないことには手がかりもない。
仕方なく戻ってくるまで待つことにする。


すぐに、悟史が戻ってきた。
ボクと沙都子はエサをまつ雛鳥のように質問を浴びせかけた。

「にーにー、魅音さんが19点なんてどんな審判をしてましたの」
「魅ぃは何か変な動きをしてませんでしたか?」
「そうですわ、魅音さんは反則したに決まってますもの、にーにーはちゃんと監視してたんですの?」
「魅ぃからどれくらい目を離したのですか?」

「ちょっ、ちょっと待って質問が多すぎるよ」

悟史はボクたちの勢いに戸惑っているみたいだ。
いけないいけない、一つずつ質問しないと悟史が答えるのが遅くなる。急がば廻れ……
沙都子と二人で質問すると悟史も大変だろうし、同じような質問なら時間が減るだけ……それに、こういってはなんだけど、今の沙都子は、悟史のミスとしか見てないようだから……あまり頼りにはならない、前の世界の沙都子ならほとんど任せて置けたんだけど、こればかりは仕方ない、沙都子の目を見る。

「沙都子。ボクが代表して質問してもいいですか?」

「何言ってますの、わたくしが聞きますわ、梨花ばかり狡いですわよ」

「みー、これはボクの試合なので、ボクが聞きたいのですよ。審判の口出しはあまりよくないのです」

「こ、このくらいはきっと大丈夫ですわ、口出しにはなりませんもの」

「でも、口を出すのですよ?」

「うーそれはそうですけど…でも」

きっと、どうしても自分で言いたいのだろう、まだ反論してきそうだったから、さっさと決めつけてしまうことにする。

「ありがとうです沙都子。それでは悟史、魅ぃは何か変な行動をしてなかったですか?」

「うん、特にはしてないよ。ずーっとドリルを解いてたし、机の上から手をおろしたりもしてないんじゃないかな」

……それだと、机の中に答えを隠すとかは出来ないか。
ドリルの最後の方の答えのページを切り取って、机の中にでも入れているのかと思ってたんだけど……
チラッと魅ぃの方を見る、今はもう机から手を下ろして膝のうえに乗せている。
じゃあ悟史が見てないときなら?

「それなら、魅ぃから視線を外したことはありませんですか?」

「そんなことより、にーにーがどんな監視をしたのか聞いた方が早いですわ」

沙都子だ。せっかく聞いてたのに…少し邪魔に感じる。

「沙都子は聞かない約束なのです。静かにしていてほしいのですよ」

沙都子は、勝手に決めたのは梨花だもんと膨れたけど無視して、悟史を見る。

「視線を外したことね、うん、何回もあるよ」

やっぱり……!
「ど、どのくらいの時間なのですか?」

「うーん時計をチラッとみるだけだから、合わせても10秒にも満たないんじゃないかな」

……悟史が時計をチラッと見る度に魅ぃもチラッと答えを見たとか?
でも悟史が時計を見るのなんて本当に一瞬のこと、気づいた時にはもう終わってる。
机の中に手を入れる暇はない。
……となると、これも違う?

「あ、でも一度だけ知恵先生と10秒くらい話したよ」

「みー」

10秒間……この時に細工を……?
でも、例え魅ぃが10秒答え見たからって、19点……?
1点2点上がるくらいならともかく、19点……魅ぃにそれが出来るなら、勉強が苦手になるわけない。
テスト前に一分もみれば答えを全部覚えられるだろうし……
考えていると悟史がまた口を開いた。

「やっぱり、梨花ちゃんと沙都子の考え過ぎじゃないかな。魅音は正々堂々と解いてる。反則なんかしてないよ」






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