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とすれば、下手に手順に拘る必要はないかもしれない。
ただ2年生のドリルを開いて、その下に答案用紙と五年生のドリルを隠せばいい。
それなら手順をグッと短縮出来るし、知恵がある程度近づいて来てからでも、自然に隠せばいいだけだから、十分に間に合う。

一つ問題があるとすれば、隠すときの2年生のドリルの開けるページだけ。
白紙だったり、知恵に言われた範囲外だったりすれば、気づいた知恵に何を言われるかわからない。
もし居座られたりでもした日には時間が減るだけじゃなく、高い確率で五年生のドリルが見つかることになる。それじゃ本末転倒だ。

困った。でも前の手順じゃ絶対にダメ。多少改良したとしても、今回と同じような結果になるだろう。
次回も似たような結果になれば、やり直しはきかない、勝負に負けてしまう。
それなら多少問題があっても、新しい手順の方がいい。
問題は、隠すときのドリルの開くページ……開くページ……
「あぅあぅ、それなら、あらかじめ開くページを決めてしまえばいいと思うのですよ」

「み!?羽入……ボクの心を読んだのですか?」

「あぅ……ちがうのです。梨花が小さな声でドリルの開くページが問題……とプツプツ言ってたのですよ」

「困ったお口さんなのです。みー」
……やっぱりボクの口は勝手にものを言ってしまうらしい。
でも、それは置いといて、羽入から重大なヒントを貰えた……あらかじめ開くページを決めておく。
決めておくということは、あらかじめ知恵に見せるページを作っておけばいいということになる。
となれば、条件は2つ、白紙じゃなく、授業の範囲内であること、あらためて整理すると簡単そうだ。
白紙じゃないはボクがちょっと書いておけばいいし、そのページを知恵の範囲内から作れば、もう一つの条件も満たせる。
あとは、どうやってそのページ開くかだけど、これもすぐに解決する。ちょっと嫌だけど開けたいページの端を少し折っておけばいい。
試しにやってみたら、面白いように開けられる。これならいける。2戦目はこれで行こう。

問題はこの作戦で知恵の脅威をどの程度減らせるかだけど、それはやってみるしかない。

「梨花、採点が終わりましてよ」

採点が終わったらしい、点数は期待しないようにする。
「それで何点ですか?」

「8点ですわ、自信満々なわりに大したことありませんのね、あれだけ大口叩いて負けたら無謀とゆうよりお笑いですわ」

「みぃー沙都子は黙っててほしいのですっ」
少しカチンとしたけど…2年生の言うことだし、大目にみてあげる。
それにしても8点か、12問の割にはなかなかの数字。だけど、魅ぃは20問といてるから、半分当たっているだけで10点にはなる計算……やっぱり2戦目からが本番だ。
ボクはさっき立てた作戦の準備をする。
知恵に言われた範囲のページを開き、素早く書きこんでいく、2年生の問題だから解くのは早い。

視界の隅で沙都子が魅ぃにボクの点数を伝えてるのが見えた。むろん授業中だから声では伝えない。
相手側に向けた手の向きが、手のひら側なら立てた指の本数に応じて1〜10点、手の甲側なら立てた指の本数に応じて11〜20点に対応している。ちなみに0点の時はグーをだす。
今回のボクの点数は8点だったから、魅ぃに手のひら側を向け、立てる指は八本ということになる。
そうだ、魅ぃの点数は?負けてるだろうとは思うけど、魅ぃが何点くらい取れるのかは気になる。

悟史も採点は終わっていたんだろう。ボクが振り向いたのを確認すると、手を出した。
ボクに手のひら側を向け、立てた指は4本だ。
えっと、手のひら側で4本だから……沙都子の方が早く理解したみたいで、先に結論をゆってくれる。

「あらまあ4点、梨花の勝ちですわね。魅音さんも大したことありませんのね」

「みー?本当なのです……」

負けると決めていたからだろう。喜ぶよりも、何だか拍子抜けしてしまった。
魅ぃまさかここまでとは……。
……それにしても、せっかく作戦まで立てたんだから、もう少し歯ごたえがあってもいいのに……なんとなく弱い者いじめをしてる気になる。

そんな不満も込めて、魅ぃの方を見る。
すると、何か違和感を覚えた。虫の知らせと言ってもいいかもしれない、悟史は採点を終えてこっちに歩いて来てる。これは別にいい、変なのは魅ぃの方だ。

別に気が動転して変な動作をしてるとか、大いに泣きはらしてるとかそういう変ではなく、なんというか変わってないのだ。
一戦目の始まる前と何も……ドリルを閉め、頭の後ろで手を組み、口ぶえでも吹きそうな雰囲気。

……でも、それはおかしい、今は一戦目の始まる前とは違い、ボクに負けたばかりだ。
五年生が2年生に負けたら、普通はもっとショックを受けるか、せめて少しは狼狽するはず、あんなにゆったりと出来るわけない。

それに試合的にも、魅ぃにとっては絶対的有利だと思ってた初戦で負けたのだ。それも魅ぃは20問といてだから、もう点数を上げるすべはない。
ないけれど、それでも、負け嫌いの魅ぃのことだ。
自分の優位が崩れた事がわかれば、すぐにでもさっきのボクみたいに次勝つための作戦を考え始めそうなものではある。
それこそダーティプレイを含めても必死に考えるはず。なのに考える素振りも見せない。
いつもの魅ぃらしくもなかった。

……あ、そうか、もしかしたら魅ぃは自分が勝ってると思ってるのか。
多分悟史が、間違った魅ぃの点数をボクたちに送ってしまったんだろう。
本当は手のひら側ではなく手の甲側を見せないといけなかったということか。
手の甲側で指4本、そうすると魅ぃの点数は14点だ。
それなら、ボクは負けてしまうけど、納得できる。
さすがに魅ぃでも20問といて、4点ということは無いだろうし、魅ぃが何の動揺もしてないことも十分に理由が分かる。勝っているから、ボクが多少点数を取ったとしても、堂々としてられるのだろう。
こういってはなんだけど、悟史には少し抜けたところもあるし、手を向ける向きを間違って覚えてしまったのかもしれない。

ちょうどよく悟史が戻ってきた。
「悟史、魅ぃの点数は何点なのですか?」
「あれ……伝わってなかった?4点だよ」

「伝わってましたわよ。呆れましたわ梨花、ちゃんと自分で見てたではありませんか」

「みーちょっと確認したくなっただけなのです」

どうやら、連絡ミスではないらしい……それなら魅ぃのあの態度は……?
ただのハッタリという見方も出来るけど、部活で鍛えられた勘が何か危険を告げる。
魅ぃのあのゆったりとした態度の下にはきっと何かどす黒い陰謀が眠ってるにちがいない。
なにかはわからないけど一応、保険をかけておくにこしたことはない……

「悟史、できれば次の試合中魅ぃに張り付いていて欲しいのですよ」

「魅音の近くにずっと居るのは目立つから、なるべくならやめておきたいんだけど」

「それでもお願いしたいのです」

「ははぁー梨花は、魅音さんが反則するんじゃないかと思ってますのね。にーにーこれはわたくしたち審判の義務ですわよ」

沙都子がすぐに助け船をだしてくれる。沙都子はこういうことになると話が早い。でも、何でこんなに…早く?まだ2年生だし部活も始まってないのに…
そういえば前の世界のときも、部活に一番早く順応したのは沙都子だっけ…トラップ作りで鍛えられてるおかげか、勝負に関しては2年生でも悟史より頼りになるみたいだ。少し感心する。

「むぅ魅音がそんなことするかな」

悟史はまだ半信半疑なようだ。

「魅音さんは小狡いですもの、当たり前ですわ」

それはさすがに可哀想な気も…部活を見る限り間違ってないけど…、それは置いといて、悟史に向き直る。
「みーお願いしますのです」

悟史はしょうがないなと言うと、しぶしぶながらも受けてくれた。
これで、魅ぃも無茶な事は出来ないだろう。




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