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始めてみるとボクは意外と苦戦していた。
漢字20問といっても10分間だと、時間的にはギリギリだ。
普通にやっていても、この漢字どう書くんだっけ?とか、これで合ってるかな?とかそういう迷いだけで時間が潰れていく、そうすると慌ててしまって余計に迷う、ましてや今回出た問題はボクも1年前にやった問題で、答えも曖昧だ。それが尚更迷いを加速させ、また時間がなくなっていく、悪い循環。
……はぁー、この試合勝てるかな……チラッと魅ぃの方に目を向けて見ると、ボクと違って余裕綽々の表情だ。それもそのはずでボクの苦戦の理由はそれだけじゃない。

始めるまでは気づかなかったけど、いざやってみると実はこのルール自体が魅ぃに有利なように出来ていることがわかる。

その原因は、知恵が妨害に入った場合も基本的には続行とする……このルールのせいだ
ボクの場合、知恵が近づいてくるとドリルをあわてて隠す。そして、知恵が行くまでじっと待ち続けることになる。
魅ぃの場合は、ボクとは逆で、知恵が来ても飄々と問題に取り掛かっている。ドリルを隠したりしない。
この差はどこからくるかというと、ボクが2年生で魅ぃは五年生だからといえば分かるだろうか。
やっているドリルが五年生の物である以上は、2年生のボクが持っていることはとても不自然だ。知恵はもちろん理由を訪ねるだろう。
時間が減るだけならまだいいが、最悪ドリルを取り上げられかねない、ルール的にそうしたら負けが決まってしまう。だから、どうしても知恵に見つからないよう慎重にならざるえない。
それに対して、魅ぃの場合は五年生だ。ドリルをやることが不自然どころか、やっていて当然。
だから知恵は気にしない。
今回試合に使う問題も、ちょっと古い問題とは言っても昔授業で空白のまま飛ばしたページにしていたらしく、知恵にどうしてそんなところを……?と訪ねられた時に、魅ぃはすぐ、いやぁーちょっと復習を……、と答えてごまかしていた。なかなか上手く出来ている手だ……ルールを決める時にそれに気づかなかったのは痛手だった。
ボクは知恵と時間の両方に追いたてられ、冷静に問題を解く余裕を失っていった。
……それにしても魅ぃめ、2年生相手にここまでするとは……相変わらず容赦ない。

気づくと残り時間一分。……どうしよう。まだ12問しか終わってない。でもこの漢字どう書けば……
「あぅあぅあぅー、梨花ぁーまだそのくらいしか終わってないのですか!まずいのですまずいのですよー、魅音なんかもう19問を終わらせてるのですよ」

19問!?まずい負けちゃう……どうしようどうすれば……羽入の言葉はボクをさらに慌てさせ混乱させる。……これじゃダメ、冷静に冷静に……

「フレーフレーりぃーかぁー!僕も応援してますですよ!」

冷静に……
「そーれ、フレッフレッ梨花ー!フレーフレー」
……みー
「応援はいいから、ちょっと静かにしてほしいのですよ」

「あぅ、僕も少しは梨花の力になりたいのです」

……だけどあの応援はむしろマイナス、あ、そうだ羽入は千年も生きてるのだから、漢字知ってるかもしれない。

「それなら、応援よりボクに答えを教えてほしいのですよ」

羽入の顔が驚きに変わる。……みー?
「り、梨花!今何を言ったのか分かってるのですかっ!?ズルですよズル、ズルなのですよ!いつからそんなに平然とズルをできるようになってしまったのですか!」

「み……でも部活なら……」

「部活!やっぱり部活!部活こそが諸悪の根源!あぁ神よ確かに僕も部活を楽しみました。それは認めましょう!でも、その代償がこれなんてあまりにひどい!部活を始めた頃のあの愛らしい梨花はどこへ!?ちょっとズルするけど、どこか遠慮のあるあの初々しい梨花は一体どこへ行ってしまったのですか!?」

……ここの神って羽入なのに自分自身に嘆いても……それに昔のボクも結局ズルしてるあたり、今のボクとあんまり変わらないような気もするけど……

「はい、そこまでですわ!」

沙都子が終了を宣言する。あ……しまった。羽入と話してたら時間がなくなってしまった。答案は12問解いたところから変わってない。
ボクは羽入をジト目でみる……羽入の大バカなのです。
「あぅ、僕もちゃんと梨花を応援するつもりだったのですよ、ただ答えを教えてなんてゆうからーあぅあぅあぅー」

「あら、そんな目でみても時間は伸ばしてあげませんわよ?」

どうやら沙都子はボクのジト目を自分に向けられたと思ったらしい、でもそうか沙都子に頼めば時間は伸ばせるかも、羽入はほっといて沙都子に狙いを変える。

「みぃ……どうしてもダメなのですか?」

今度は逆に瞳を潤ませて、沙都子をじっと見つめる。

「そ、そんな目で見ないでくださいませ、泣き落としは反則ですわ……」

慌てふためく沙都子、もう少し……
「……さとこお願いしますです……」

「わたくしは泣き落としなんかに屈しませんわ!……梨花はこっちをみていない……わたくしは答えにまるをつけるだけ……まるつけるだけ……」

このままだと屈してしまうと思ったのか、沙都子はボクを見ようとせずに、用紙をとって採点の殼の中にとじ込もってしまう。

はぁー失敗か、ここまで来るともうボクに出来ることはなにもない、祈ることだけだ、魅ぃの方をみると悟史も採点に入ってるみたいで……あとは結果を待つだけ。

あらためて今の状況を冷静に分析してみる。ボクの解いた問題は12問、対する魅ぃは多分20問、いくらボクの方が勉強が出来るといっても、この差を覆すのは難しい……採点中のため出来る手も残ってない……となれば。

しょうがない今回の試合は捨てて2戦目のことを考えよう。
このまま1戦目に拘っても、ボクが動揺するだけで、何のメリットもない。
それなら勝つ見込みの少ない、1戦目は負けたものと思って、経験を生かして2戦目、3戦目を勝ちに行く戦術に変えた方がいい。
二回先取なのだから、一回は負けが許されている。それを有効に使おう。

とりあえず、今の内に一戦目の負けの原因を考えてみる。
やっぱりすぐに思いつくのは知恵の存在だ。確かに時間が10分しかないとか、漢字の記憶の曖昧さも原因の一つだけど、それは魅ぃも同じ……それだけなら魅ぃのように全部終わらせることに問題はない。そこに知恵が入ると相乗効果で今回のような結果に変わる。

となると、知恵の脅威を0とまでは行かなくても、せめて今の半分くらいに和らげることが出来れば、今回よりも沢山答えられるだろう。
甘い見通しかもしれないけど、17問ないし16問くらい解けるくらいになれば十分魅ぃに勝つこともできる圏内だ。

さっきは説明しなかったけど、知恵の脅威は2つに分けられる。
一つは直接的な隠してる時間……知恵が近づいてから、通りすぎるまでドリルを隠してやりすごさなければいけないこと。

2つ目は、知恵の予備動作の観察と隠す準備……、この予備動作の観察が意外と時間を使いすごいプレッシャーになるのだ。問題を解きながら遠くの知恵にチラチラ目をやらなきゃいけないため、問題には集中出来ないし、ストレスは貯まるし、とにかく大変な作業だ。
それなら観察しなければいい気もするけど、そういうわけにもいかない。隠すという動作はとっさにやると結構目立つものだ。例えば、近くにお巡りさんが来たときに、とっさに手に持っているものを懐に隠したとしたら、多分その人はお巡りさんに呼び止められるにちがいない。
それと同じで、知恵が近づいてから隠し始めたら、知恵も怪しんで、何を隠したのか聞かれる可能性は高い。
だから、ボクは前もって、知恵のいる位置や、してる行動を観察して、そろそろ近づいてくるなと思ったら、隠す準備に入る。

隠す準備というのは、五年生のドリルを閉じ答案用紙をその下に入れること。
簡単に隠し方の順序を説明すると、まず五年生のドリルを閉じて、その下に答案用紙を入れる。そのあとドリルと答案を隣に置いてある2年生のドリルの下に入れる。そして教科書を開いて知恵が過ぎ去るのを待つ。という手順を踏んでいた。
まあ知恵が近づいてるのに気づかなかった時は手順を守らなかったこともある。五年生のドリルを開いたまま、答案用紙を下に入れ、その上に2年生のドリルを開いて、上からだけなら見えないようにしたのだ。開いた2年生のドリルは白紙だし授業で指定されたページの範囲外で、知恵に何もやっていないと言われないか冷や冷やしたけど、その時はなんとか事なきを得た。

そこまで考えて気づく、もしかして隠すまでの手順は省略できるんじゃ……?
そうだ、さっきまでは試合中に知恵の存在に気づき慌ててた影響もあって、最初に説明したような面倒な手順を踏んでたけど、よくよく考えれば、手順を守らなかったときのほうが、早く隠すことが出来た。









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あきゅろす。
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