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驚いた知恵はもう一度ボクのドリルを確認しなおす。
多分信じられなかったのだろう。
それはそうだ。知恵の出した問題は80問近くもあって、考えながらやっていたら、時間いっぱい使っても終わるかどうかわからない……二年生の学力なら!
きっと知恵は残った分は宿題にしようとでもしてたにちがいない、それなのにボクがあっという間に解いてしまったのだから知恵が驚くのも無理はなかった。

ボクが本当の意味ですごいわけじゃないのはわかってるけど、知恵を勉強で驚かせるのは今までで一度も体験したことなく、自分がすごくなったみたいでちょっと病みつきになりそう。

知恵はボクの前にそっとドリルを戻すと動揺してるのか少し気の抜けたように言う。

「えっと……そうですね。特に間違えもないようですし、残りの時間は他の問題を解いていてください」

「みー☆そうしますのです」

「……あの、ところで古手さん」

「何ですか?」

「……近頃、誰かに勉強を教わったとかそういうことは……?」

「教えた本人がよく言いますです。知恵だけなのですよ」

「私だけ……ですか?」

「みー☆」

「……それなら古手さんが家で頑張ったのでしょうね。その調子で頑張ってくださいね」
「はいなのです」

知恵は口ではそう言ったものの、まだ不思議に思っているみたいで、首を捻りつつ離れていった。
きっと昨日までのボクはこんなに早く解けなかったのだろう。それが次の日にはこの早さだ。すぐに信じられるわけない。
一夜にして急に勉強が出来るようになった理由。……ボクだけがその本当の理由を知っている。そう思うと何となく面白い、もしかしたら愉快犯もこんな気持ちなのかもしれない。
他人に迷惑をかける愉快犯と違って、こっちは褒められることをしてるのだけど、楽しみかたは似ている。

知恵が他の人に教え始めたのを見計らって、沙都子がボクの方に振り向く。

「さ、さっきの話は本当なんですの?」

「みー?ドリルのことですか?」

「ええ、ちょっと見せてくださいまし」

「どうぞなのです」

ドリルの向きを変えてあげると、沙都子はすぐに見始める。
沙都子はパラパラと見たあとドリルの向きを元に戻した。

「たしかに、お、終わってますわ……」

「みー☆今のボクはドリルを解く天才さんなのですよ」

「そんなの嘘ですわ、変ですわよ」

「みー?」
「だって昨日まで梨花はわたくしと同じ位の早さでしたのよ、なのに!わたくしがやっと今半分くらい終わらせた問題を……遅く来た梨花がもう終わらせたなんて……絶対絶対信じられませんわー!」

「みー☆現実は残酷なのです。沙都子が何と言っても、ドリルさんが決定的証拠なのですよ」

「……決定的証拠?」
沙都子がふっと不敵に笑う。……み?
「甘いですわね梨花っ!わたくしにはもう梨花の使った手が読めてましてよ!」

「沙都子今はやめなよ」
悟史が沙都子の袖を引っ張る。

「にーにーは黙っててくださいまし、わたくしは梨花のことは何でもわかりますの」

そういうことじゃ無いんだけどな…と言って悟史は引っ込む。今の沙都子は止められないと判断したのだろう。
でもさっきの言葉……まさか、沙都子はボクに今日おきたことを知っている……?未来(?)からきたって……

「…ど…どんな手なのですか?」

沙都子はボクの言葉を聞くと、さらに自信を深めたようだった。余裕を持ってボクに問いかける。
「あら梨花?何をそんなに動揺してますの?目が泳いでましてよ」

「み!?……ただ急に沙都子が変なこと言ったから少し驚いてしまっただけなのです」

沙都子の目が怪しく光る。

「少し驚いた……?それはおかしいですわね、何もしてないなら、普通はもっと堂々と構えているものなのでしてよ。さっきの言葉くらいは鼻で笑われてしまいますわ。それなのに梨花は驚いた?普通なら動揺しないような言葉で何故?答えは簡単ですわ。やましいことがある、すなわち、その動揺こそが何か細工した証拠なのですわ!」

「…み…みぃー!」
……あ、当たってるのです。
でも、細工と言ったということは、まだ真相には至ってないのかもしれない。きっと昨日のテレビかなにかに影響されてるのだろう。少し安心したけど、疑惑の芽は刈っておかないと。

「……でも沙都子?細工といいますがボクはドリルを解くときに何も悪いことをしてないのですよ……?」

ボクは犯人さながらに言い訳を試みる。果たして沙都子は真相に至っているのか……?

「授業中に細工?そんなもの必要ありませんわ」
沙都子はチッチッチッと指を振る。

「な、なんでそう思うのですか?普通は授業中と考えた方がしっくりくると思うのです」

「ええ、わたくしも最初はそう考えましたわ。もし梨花の性格まで推理を広げなければ、今でも授業中にどうやって細工をしたかに心を奪われ永遠に解けなかったにちがいありませんもの」

「み…ボクの性格……?」

「そう、梨花には簡単には危ない橋を渡らないしたたかさがありますもの、例えばもし授業中に細工するとしたら如何なる方法にせよ、バレる可能性が高い。どんなに精密に隠したにしても、途中で先生が来るかもしれませんし、わたくしが話かけたりすればそれだけで計画の成功はしにくくなりますわ。事前にものすごい準備をしたならともかく、遅刻していきなりですもの、わたくしにはどうしても、梨花がそんな危ない橋を渡るとは思えなかった。わたくしは考えましたわ……では梨花は一体どんな手を使ったのか…そしてすぐに気づきましたの、常識では考えにくいその一手を」

「……みぃ……沙都子が何を言っているのかボクにはよくわからないのですよ。それにそんな大変そうな方法ならボクが考えつくわけないのです。きっとその推理は間違いなのですよ」

……推理の流れはともかく、ボクが細工をしようとしてないのは当たっている。だって不可抗力だったのだから、まあ楽しんではいたけど、本当のことは言えるわけないし、隠してただけ。
真相にだいぶ近づいてきた気もするけど、沙都子だってまだ確証があるわけじゃないし、これで煙にまけるはずだ。

「誤魔化そうとしても無駄ですわ、わたくしのトラップ脳が真相を教えてくれてますの、それに梨花の使った手は思いつきずらくても、一度閃いてしまえば、やるのは簡単な手ですもの。聞いてみれば誰もが、なーんだと言うようなね、梨花はあることを隠しておけば良かっただけですわ。そしてさっきのように、ちゃんと終わらせたのです。というだけで犯行が完成する。証拠も全く残らない完璧な一手! もしわたくしがいなければきっと永遠に真相は闇の中でしたでしょうね」

過去に戻るのはそんなに簡単ではないと思うけど……でも何となく今の沙都子には名探偵の持つようなオーラが感じられた。やっぱり知ってる……?

「さ、沙都子もうそのぐらいに……」
また悟史が沙都子にチャチャをいれる。でも沙都子が真相に気づいたならボクにもそれを聞く義務があるのだ。だから今度はボクが悟史を止める番。

「みー、悟史邪魔しないでほしいのですよ」「そうですわ。梨花もこう言っていますもの、にーにーはうるさいから黙ってて」

悟史はむぅ、と、考えこむ、止めることをまだ諦めてないみたいだ。だから止められる前に話を進める事にする。

「そ、それで沙都子はなんだと思いますのですか……?」

「ほーほっほっ、自分から聞くなんて、ついに観念しましたわね、それでは引導を渡して差し上げますわっ!梨花の使った作戦はズバリッ!!」

沙都子は椅子の上に立ち上がるとボクにビッと指を差す。その迫力だけでボクは思わず沙都子は全部わかってるような気になる。ボクのすべてを読まれてるかのような!


「きっと梨花はドリルを家で終わらせてたにちがいありませんわぁぁーー!」

「みいいぃぃぃーーーっ!!」





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あきゅろす。
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