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下駄箱で上履きに手を伸ばしたとき。何となく下駄箱が何時もより新しく見えた。
羽入が言っていた過去に戻る……少しだけ実感がわき、胸が自然に高鳴るのがわかる。それはちょっとしたワクワク感。
テレビや映画の中でしか起こらないと思っていたことが今目の前にある。自分が映画の主人公になった気分……。
そんな気持ちを抑え、下駄箱で上履きに履き替えると、教室へと向かう。
行く途中に保健室を覗き、時間を確認する。
10時過ぎ……もう3時間目の途中だ。一応朝でるときは遅刻スレスレだったはずなのに、こんなに時間がたってしまっていたらしい。

「みー……遅刻も遅刻大遅刻もいいとこなのですよ」

「あう!あうあぅあぅぁぅぁぅ……」

ボクに責められると思ったのか、あぅぁぅ言いながら羽入は消えてしまった。
せめて知恵に怒られるときまでは一緒にいてほしかったのに、自分だけ逃げるとは……

帰ったらご褒美にキムチでも食べてあげることにしよう。きっとあぅあぅ言いながら泣いて喜ぶに違いない。

教室の前につく、黒板のある方のドアだと入ったときみんなに注目されるから、後ろのドアから入ることに決める。
ドアを開けるこの瞬間が一番ドキドキする。……いっそ、授業が終わるまで待って出てきた知恵に声をかけようか。
その案には大変な魅力を感じたけど、意を決してドアを開け放つ。

ガラガラガラ…

教室が一瞬シンと鎮まる……みんながボクに注目する。……クラスの視線が痛い。やっぱり昼休みまで待てば良かった。
ボクを見つけた知恵は、すぐに外に出るよう手振りをする。
それでみんなも元に戻って、あー遅刻だーとか次々に囃したて、あっという間に教室にはにぎやかな喧騒が戻っていた。
それを静かにしてと知恵が注意する。いつもどうりの光景、だけど、ボクは廊下に出て行く前にもう一度教室に視線を走らせる。
いくら探してみてもレナと圭一の姿はなかった、本当に過去の世界に来たんだ。……そう実感した瞬間、嬉しさと少しの寂しさを覚えた。
レナや圭一もボクと一緒に来れればよかったのに……
でもそれは言っても仕方のないこと、ボク1人でも過去の世界を満喫することにする。

ボクは廊下へ出た…知恵も教室から出てきて、ボクの目の前に立つ…知恵の目が何だか底光りしてる気がする。こ、怖い……






知恵に怒られて戻ってきたボクに、沙都子が話かけてくる。まだ授業中だからひそひそ声だ。
「梨花が遅刻するなんて珍しいですわね」

「みー、ボクもまさかこうなるとは思わなかったのです」

「あら、寝坊じゃありませんの?」

「ボクはちゃんと学校に間に合うくらいに出たのですよ。なのに着いたらこの時間なのです」

「ど、どういうことですの?梨花の言っている意味が分かりませんわ」

沙都子はちょっと考えてからまた口を開く。

「もしかして、どこかで寄り道してきたんじゃありませんこと?」

「そんな悪いことしないのです。ただとても珍しい懐中時計を拾ってただけなのですよ。にぱー☆」

ボクは教科書を出すついでにランドセルから懐中時計を取りだし、沙都子に見せてから机の中に仕舞うと、沙都子はため息にのせて答える。
「梨花には呆れはてましたわー、先生に怒られて当然ですわよ。バカな梨花ー」
「みぃー」
冗談ではなく本当に呆れたような声。
何だかちょっと口が悪い、いつもなら怒られたことを心配するか、ノってきてくれるのに……二年生だから……?

「しーっ静かに、沙都子も梨花ちゃんもまだ授業中だよ。ほら先生もこっちを見てる」
「だって梨花がー」
「みぃー」

算数ドリルを解きつつ、ボクは今注意した人物に目を向ける。
沙都子と同じ金色の髪、優しげな瞳、柔らかな物腰……ボクにとってはほぼ1年ぶりに見る男性……悟史。

久しぶりに見たはずなのに、こうしてみると、何だか居るのが当たり前に感じられる。
変な気分だけど、それだけ悟史が教室に居ることがしっくりきてるのかもしれない。多分ボクの中では悟史のいない1年間の方を異端と認識してたのだろう。

それでも、隣どうしで仲良く授業を受ける沙都子と悟史の姿をみると心がほんわかとしてくる。
……沙都子おめでとうです。今回はきっとずっと一緒にいられるのですよ。

「ぁぅ……梨花あんまり楽観しない方が……」
羽入だ。知恵に怒られてから戻ってくるとは……とってもキムチが食べたいみたいだ。懲罰用キムチにランクアップを決める。きっと気絶するほど喜んでくれるに違いない。

「羽入は暗く考えすぎなのです。未来はまだ何も決まってないのですよ。ボクの予想だと、きっと万華鏡のようにくるくるくるーと変わるのです」

「あぅ……それは……」

羽入は言いにくそうにしてる。ということは……

「みー?羽入はそう思わないのですか?」

「僕も始めてのことなので確かなことは言えないのですが……やっぱり……」

「ちがうと……?」

はいと羽入は頷く。

「みぃ、それなら羽入は未来がどうなってると思いますですか?」

「あぅぁぅ」

羽入はちょっと考えこんだあとおずおずと口を開く。

「ごめんなさい、まだどうなってるかまではわからないのです」

「それじゃあ羽入が考えつくまで、この話はお預けにしましょうなのです。ボクはやっぱり未来はくるくるくるーでみんな幸せになると信じてますのですよ」

「あぅ。また考えついたらいいますのです、でも勘違いしないでほしいのです。僕もくるくるくるーだと嬉しいと思っているのですよ」
「みー☆ありがとうなのです。くるくるくるーなのですよー」

その時、机に手が置かれる。
「古・手・さん?」

恐る恐る上を見ると、知恵が立っていた。
ちょっと顔がひきつってるような……
「……み、みぃー」

「梨花ぁ…お、お邪魔しましたのですよ……ぁぅぁぅぁぅ…」

そう言って羽入はまた消えていく……本当に薄情な奴なのです。……死刑判決用キムチに格上げすることにする。

「みーじゃありません。今は授業ですよ。くるくるくるーはいいから、ちゃんとドリルをしてくださいね」

羽入との会話が聞かれていたらしい。最後の方声を大きくしすぎた……?
周りを見ると沙都子と悟史はボクを見ていた。だけど、他の人は見てないみたい。
近くの人に聞かれただけか……ちょっと安心する。それでも沙都子の少し呆れたような視線はチクッときた。後でどうやってごまかそう……そうだ、その前に知恵をごまかさないと

「みー、解こうにも言われた場所は終わってしまったのですよ」

「え……でも古手さんは今来たばっかりじゃ……?」

「今のボクにはこの位の問題簡単すぎるのですよ、だからすぐに解けますです」

それもそのはず、ボクは戻る前の小学六年生の記憶も引き継いでる。体は二年生でも、頭は六年生の時と変わらないのだ。もちろん勉強の力も……
なのにボクの解いてるのは二年生の問題なのだからそれはそれは簡単に解ける。スラスラスラスラ鼻歌まじりに。

ちょっと見せてくださいと言うと、知恵は慌ててボクのドリルを開いた。
知恵が驚きに目を見開く。
「そんな……まさか……」






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あきゅろす。
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