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† Episode Of Family †
もたらされた情報
白い連中を片づけ、風はふらりと我が家の門をくぐった。顔を上げてみると辺りがぼやけてぶれて、世界が歪む。ふらりと廊下の柱に寄り掛かった。
頭に血が上ると目の前の敵を一蹴するまで攻撃の手を休めないし、怪我も厭わない。戦闘が終わってからようやく今の自分を冷静に観察できるのだが…―――この癖はどうにかしたいものだ。
と、そこまで考えて風は皮肉げな笑みを浮かべた。

今更、何を。

顔を上げて再び歩きだした。愛しい弟子がいるであろう台所へ。



「イ―ピン…お茶は―――――」
「もうちょっと。待ってて」

居間と兼用になっている台所に二人は居た。テーブルが中央にあって、そこに備えられている椅子にランボが座っている。イ―ピンはその斜め奥に配置されている石製の調理台の前で、お茶を注いでいた。
イ―ピンの気持ちの整理がつくまで少し時間をくってしまった。師匠の事だ。きっと敵を一掃してやって来るに違いない。本当なら自分達が頃合いを見計らって行くべきだったのに―――――。

「イ―ピン。オレ、風氏を迎えに行ってきます。きっと彼ならそろそろ敵を片付けていると思うので…―――」

そう言って立ちあがり、ランボは居間のドアに手を伸ばした。すると、ドアノブがくるりと回転した。

まさか…―――――。

かちゃりとドアが開き、そこにイ―ピンの師匠が立っていた。驚いているランボと目が合った彼は一瞬だけ視線を逸らすと、口元を微笑ませた。

「すまない。少し時間が掛ってしまった…椅子に座っても良いかな?」
「は、はい!どうぞ!!」

ランボは慌てて避けると彼はテーブルに向かって歩いて行った。その彼に一目散に駆け寄ったのはその弟子、イ―ピン。大丈夫ですか?!と言いながら顔を心配そうに歪めた。そんな彼女にも笑顔を絶やさない。彼女の頭を撫でて、ランボに見せた笑みよりも明るい笑みを浮かべる。

「心配掛けたね。お茶、出来てるかい?」
「はっ、はい!出来てます!!」

二つある椅子のうち一つに腰かける風。イ―ピンは慌ててお茶を出した。お茶をすすり、ふぅと一息吐く。気分が悪かったのが、少し落ち着いた。ちょっとドキドキしているような面持ちのイ―ピンに、風は笑みを向ける。



まだ自分は、生きているのだな…―――――。



「おいしいよ、イ―ピン」
「そ、そうですか?」

褒めてくれた師に彼女は頬を赤く染めながらお礼を言った。そして、ランボは少し体を硬直させて二人を見やった。と言うより師匠に視線を送る。

あれ?オレの扱い冷たくない?

「何している?こちらに来なさい―――話がある」
「あ、はい」

余計な思考は断念され、ランボは大人しくその指示に従った。イ―ピンはそこにある椅子にランボを座らせて、自分は新しく用意した椅子に座り込んだ。
風はそれを確認すると注いでもらった湯呑を手で包む。そして、二人を一瞥する。

「二人共よく聞きなさい―――これから話す内容は、ボンゴレにとって重要な情報になる…」

二人の顔がぐっと引き締まる。ランボは仕方ないとして、イ―ピンは…―――彼女は、敵方に、ボンゴレ側の人間として情報が送られているはず。そして、彼女自身がボンゴレ側につくだろう。敵がどんな脅威と知っても逃げる事はしない。



私が育てたのだから。



「彼らはミルフィオーレと言うマフィアだ。詳細は私もよく分かっていない。しかし、逆らう賊は片っ端から始末している―――――」

そう言った風は手に持っている湯呑に力を込める。視線をそれに落とし、それをただ見つめた。

「我々、アルコバレーノも標的として入っている」
「?!」

空気が引き締まる。それは二人に緊張が走った証に同じ。口を引き結び、真剣な面持ちで風を見る。
風もそれに答えるように二人を見返した。この話こそ重要。その為に、自分は生き恥を曝してまで此処に居る─────生きているのだから。
体の怠さを振り払うように風は情報を紡ぐ。この先の、彼らの為に。

「彼らの目的は、アルコバレーノが持つ『おしゃぶり』の強奪。『トリニセッテ』という放射線のようなもので、私達の体を弱らせて奇襲をかけている───スカルとリボーンが死んだのは…恐らくそれの所為だろう。目的の為なら、手段を選ばないからね…」

使者を送ると聞いた時、その話を聞いた。あのリボーンがボロボロて見つかったと聞き、奴らの魔の手に堕ちたとすぐに分かった。
敵の数歩先を読み、仕留める時はいつだって弾丸一発。格下は相手にしないというものだから、敵の力量を選んで依頼を受ける。それは彼の実力の現れであり、自信の証でもあった。
そんな自信家のリボーンに憧れてた。アルコバレーノの呪いを受けた時も彼は強かった。いつも通り仕事をすると不適に笑って去っていった。自分は、そんな風に考えられなかった。

だから此処に家を構えたのだ。

人を拒絶するための砦。
誰にも会いたくなかった。
こんな姿の、自分に───。



それから数ヶ月後、小さな光が崖を登ってやって来た。



「『トリニセッテ』って何なんですか?!どうして、お師匠様達にしか効かないんですか?!何でおしゃぶり狙ってるんですか?!」

ランボの聞きたいことを粗方聞いてしまったイーピン。風は口元を微笑ませて落ち着くよう諫めた。

「まずは『トリニセッテ』からだね───あれは、普通の人間に害は無いけど、我々アルコバレーノの『体質』に害を及ぼすんだ。だからお前達には効かないし、私には効果を発揮する…───絶大にね」

イーピンが、口をぐっと噛み締めた。眉が垂れて眉間に皺が寄る。気に掛けてあげたいが、今は───残り少ない体力で、少しでも多くの情報を…。

頭がガンガンする。
視界が、ブレる…───。

「おしゃぶりの強奪している理由は…─────不明だ。聞いてみたが、まともには答えてくれなかったよ」

そうですか、と小さな声で答えるイーピン。彼女を見つめて風も眉間に皺を寄せた。こんな暗い話しか出来ないこの状況と自分が憎らしい。弟子が帰ってきたときぐらい、温かに迎えてやりたいと思うのに───そんな想いさえ許されない状況になっている。

この先、この子には辛い事しか待ち受けていないだろう。なのに、私にしてやれることは何も無い。



師として何も出来ない。



何も…───。



「風氏は…───どうお思いなのですか?」

イーピンは目をぱちくりさせてランボ見た。彼女同様に風は睨むように視線を向ける。

「アルコバレーノに奇襲をかけ、おしゃぶりが狙われる…───アルコバレーノである風氏なら、大方予想が付くのではないですか?─────ミルフィオーレが、何故おしゃぶりを狙っているのか」

痛いところを突いてきた。

風は、ふぅと溜め息を吐いてランボを睨みやる。一瞬怯えたように顔を歪めたが、すぐにこちらを見つめ返す。その意志はボンゴレの使者としての使命だろう。話したくはないが…そうも言っていられない。おしゃぶりの強奪は『目的』を説明しているに同じなのだから。
溜め息を小さく吐き、握っていた湯呑を持ち上げて、風は茶をすすった。



そして、トリニセッテの魔手が伸びる。



風は一瞬目を剥くと湯呑をがたりと落とした。少し入っていたお茶がテーブルにこぼれて広がった。むせると同時に込み上げる吐き気に襲われ、風は口を手で覆って体を縮こませた。
その異常に愛弟子が叫んだ。

「お師匠様!!」

べちゃっ。

腹から逆流してきた紅い液体が口から溢れだす。それはテーブルと手を汚し、垂れ流れた。

潮時か…───。

支えを失いふらりと風は椅子から滑り落ちる。少しずつ痛みが頭を侵食した。

がっ。

彼を支えたのは彼女の幼なじみ。気が動転して反応出来なかったイーピンよりも早く、ランボはそれを察知して風を支えた。

かはっと咳き込んで喉に詰まる血を吐き出す。荒い呼吸を繰り返し、苦しそうに顔をしかめている。

私の所為だ。
私が、弱かったから───。

「お師匠様ぁ!」

苦しそうにこちらを見て、師匠は微笑んだ。自分の頬に紅い手を伸ばす。ぬるりと生暖かい液体が頬を舐めた。

「すまない…そろそろ、潮時のようだ───」
「い…───。」



嫌です。



その台詞が、喉まで上がって口から出なかった。
そんな彼女を見ていた師匠は微笑ませていた眉を寄せる。それは悲しそうにも見えた。

「イーピン、すまない…彼と、話がしたい───」
「え…───?」

イーピンは目を見開いた。あまり人付き合いか良いとは言えない我が師。その彼が、ランボと話をしたいと言う。

何の、話をするのだろう。

でも、それを問う勇気は彼女になかった。

「彼と話が終わったら、お前を呼ぶよ───ここで、待っていてくれるかい?」

にっこりと微笑んだ彼女の師。普段控えめに笑う彼が、滅多に浮かべない満面の笑顔。



断れるはずがない。



「…はい」

小さく答えたイーピンに、風はありがとうと礼を言った。頬に伸ばしていた手を下ろし、ランボの肩に腕を回した。ランボはイーピンを苦笑いを浮かべて一瞥すると、彼を居間から運びだす。

二人が出ていった後。イーピンは椅子に座り込む。自分の頬に貼りついた紅い液体を落とす気にはなれなかった。寧ろ、それを指で撫で下ろす。
それは冷えたけど、まだ乾いていなかった。それを撫でたイーピンの三本指を染めた。

そして、彼の命が残りわずかであると何かが告げた。

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