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偽人語り
綱吉のバックに釣り目あり
あはは、と頭を掻きながら西田は体を起こす。
あともう一人は綱吉も知っている。一番最初に『勝負して勝った』人物…―――持田だった。
二人共危険を察知して蒼い顔に苦笑いを浮かべ、見下ろしてくる雲雀を見上げていた。

「君達、今授業中でしょ。何で居るの」
「すすす!すんません!!えっと、ちょっと笹川が遅いから気になって!その!!」
「山本も授業を休んでいるみたいだったから、先輩として気になって!」
「おい!そこ居ないの知ってても笹川だろ、フツー!!」
「あー。何か、すんません」

山本は苦笑いを浮かべて、頭をポリポリ掻く。
それから雲雀へ歩み寄ると、少し申し訳なさそうににかっと笑いかけた。

「悪ぃ、雲雀。何か、オレ先輩に心配かけてたみたいだし、許してくんね?」
「構わないよ。今は調査と対策の方が最優先だからね。何時まで寝そべってるの、邪魔だ」

二人は同時に反省の声を上げながら身を退かすと、雲雀はその脇をすり抜けて行ってしまった。
職員室に向かうようだ。
綱吉は慌てて西田と持田に駆け寄った。急いで確認しなければいけない事に頭がいっぱいで、二人の目の前で足がもつれてずっこけた。

「に、西田先輩!何時から?!」
「えっと…ついさっき?遠くから笹川君と風紀委員の人が職員室に行く後ろ姿を見た後ぐらい…そんなに経って無いよね?」
「あ、あぁ…―――まぁな…」

持田は顔を蒼くしながら、じりじりと後退する。綱吉を見て怖がっているようだった。
どうやら持田は笹川が居ないと知っていて雲雀に嘘を吐いたようだ。剣道部の主将をやっているだけ有ってか度胸があると思った。
西田の話から察すると、笹川と草壁が出て行ってからすぐの様だ。
深い所は聞かれていないようだ。



彼等と同じクラスの望月大和の話は。



「あ、あの…西田先輩…―――望月大和さんって…」
「え?望月君?彼とも知り合いなの?」
「あ、いいえ!そう言う訳じゃ…―――」
「笹川さんが彼の事を気に掛けていたみたいなんですよ。朝は話している途中に教室から出て行った事を」
「あぁ。そう言えばそうだったね」

後ろからやって来た骸にフォローされると、西田はにっこりと笑った。

「特に、何でも無かったよ?」

その言葉に少し胸に蟠っていた不安が取れた。
了平の話を聞いていた時から気が気でなかったのだ。



「ただ、具合悪くて保健室行ったみたいだけど」



白。

思考回路が止まる。
身体が、ぞわりと戦慄を覚えた。
背筋に、氷塊が滑り落ちる。
真っさらになった頭で見回してみれば、獄寺が目を見開いていた。
骸も口を引き結んで表情が硬い。
ただ、山本だけが、『何も分かっていないように』にかっと笑った。

「あぁ!先輩が言ってた、顔が―――」
「山本ぉおおおっ!!」

声を掻き消すように張り上げると口を押さえ付ける。
流石に獄寺は顔を蒼くして、馬鹿が!と思いっきり怒鳴りつけて首を絞めた。
相も変わらず山本は意味が分からないようで、キョトンとした表情を浮かべていた。せめて危機感を持って、怖がるか警戒してほしい。と言うより、人に話してはいけない内容だと気付いてほしい。

「望月の顔がどうしたんだ?つーか、笹川が何か言ってたのか?」
「え、ええと!それはっ…!!」



ぴんぽんぱんぽん。



突如として、頭上から放送の前奏が聞こえてきた。
誰もが黙って、スピーカーへと顔を向けた。

≪ふ!風紀委員会からお知らせです!!≫

教師の引き攣った声が聞こえたかと思うと、次には『邪魔』と雲雀の音声が小さく入った。
マイクを奪い取ったようにゴツゴツと音が鳴って、叩く。
獄寺は山本を解放すると、綱吉の耳元に手を当てて口を寄せた。

「オレ、ちょっと保健室行ってきます」
「うん。分かった!」

小声で承諾すると、獄寺はバタバタと駆けて行った。
いつもはシャマルに悪態ついているが、やっぱり心配にはなるようだ。綱吉自身も、いくら嫌っている人間がだからと言って危険だと思ったら見過ごすことは出来ない性分ではあるが。

≪授業中に悪いね。最近、『いつひとさん』という噂が流行っているようだけど、それの忠告をしたくて利用させてもらっている。しっかり聞くように≫

時、所構わず放たれた台詞に、雲雀らしいと思いながら感謝した。

≪全面的に『いつひとさん』に関係する事を禁止にする。これから手を出した奴は咬み殺す≫

一番最初から留めを刺していた。
しかし雲雀直々に動いていればそれは何よりも『効果的』だ。
雲雀という存在ほど、この並盛で抑止力の絶大な物はない。

≪並盛神社の池の前に風紀委員を配置しておく。『いつひとさん』関連だと思われた場合は強制排除と僕へのブラックリスト入りを余儀なく行うから、次の日死んだと思って。それから家族にも伝えておくこと。やったら容赦なく殺すよ≫

先から脅してしかいない雲雀の発言に、顔が蒼くなる。初めからやる気はないが絶対しないと心から誓ってしまう。
雲雀は締め括りに風紀委員達へ集合をかけると、マイクの電源をぶつりと落とした。
これなら『いつひとさん』の方は大丈夫だと思いながら顔を卸す。
すると、持田が放送の切れたスピーカーを見つめながら青い顔をしていた。

「やべ…」

更にはそう呟いて顔を逸らした。綱吉の胸が嫌な予感に跳ねる。

「も…もしかして……『いつひとさん』やったんじゃ?!」
「うっ!うっせーな!やってねぇよ!!やってねぇ!!」

青い顔のまま否定する持田。明らかに嘘を吐いているのがバレバレだ。
職員室に居るであろう雲雀の元へ連れていくべく、しなやかに締まった腕を引っ張る。拘束も兼ねて、危険物を離す訳にはいかない。

「今すぐ雲雀さんの所に行きましょう!」
「てめぇ、人の頭禿げにした癖にまだ恨んでんのか!誰が行くか、放せ!殺される!」
「何の話ですか!今はそれどころじゃ無いんです!来て下さい、大事なんで…───」

いきなり襟首を引っ張られて喉を絞められた。ぐえ、と声を上げ、持田の腕を放してしまった。そのまま山本の方に放り投げられ、むせ返る。

「下がってなさい。そして、黙ってなさい…」

骸は間に割って入り、じろりと持田を睨みつけた。
持田は一瞬怯んだ様子を見せたが、骸を睨み返す。

「な、何だ、てめぇ!」

しかし骸は返す様子はない。
痺れを切らしたのか、持田は顔に青筋を浮かべると骸の胸ぐらを掴み上げた。

「てめぇ!さっきから何ジロジロ見てんだぁ?!」

それでも黙ったままの骸。
どんどん膨らんでくる怒気に、綱吉は寒気を覚えながら二人の睨み合いを黙って見つめる。

「オレの顔に何か付いてるなら、ハッキリ良いやがれ!イケ面君よぉ?!」

掴んでいた胸ぐらを引き寄せる持田。
そして漸く、骸は口元を緩ませ視線だけこちらに向けてきた。

「彼はシロのようです。雲雀恭弥には突き出さなくても大丈夫だと思います」

突然言い放たれた骸の分析に、綱吉は首を傾げた。

「ひ?!雲雀に突き出す…?!」
「但し、『いつひとさん』はやっているみたいです。言動から察するに」
「だっ!だから!オレは…!」
「じゃあ…持田さんは失敗したって事?でも、やって───」
「うっせ!偶々見れなかっただけだ!」

何故か、骸が持田へにっこりと微笑んだ。綱吉も、たった今吐き出された言葉で骸の察した事が事実だと確信する。
儀式をしたら『理想の自分』が見えるはずだ。見えなかったとは…───どういう事だ。

「さて、お話をお聞かせ願いましょう。大丈夫ですよ?君は僕が『格好良い』と分かっていますので、名前は匿名として雲雀恭弥の方へ報告致します」
「するんじゃねぇか!つーか、ナルシストか!」
「すみません!どうしても『いつひとさん』について知りたいんです!やったなら、何があったのか教えて下さい!!」

骸にがっついた持田へもう一度、掴み掛かる。
引きつっていた顔がすぐに怒りに歪んで見下ろされる。

「だから、オレは───」
「良いじゃない、教えるぐらい」

横から口を挟んだ西田は、にっこりと安心できるような柔らかな笑みを浮かべていた。

「何時までも頭を禿げにされた事を逆恨みしてたら駄目だって。寧ろ君の方がせこかったじゃん?」

怒りの焦点が自分から西田へと移る。持田は馬鹿野郎と怒鳴り上げたが、相手にされずに───生死の境目に立たされる事になる。

「今だから暴露しちゃうけど、ウェイト突っ込んだ防具と竹刀持たせて負かす気満々だったじゃない?」

西田が投下した爆弾と言うなの真実に、骸と山本が殺気立った。
一般人に属する持田も二人から向けられた殺気に危機を察知して顔を青くしていた。

「持田さんでしたっけ?詳しく話を聞かせて貰って良いでしょうか?ここはベタに校舎裏で」
「あぁ。それならその前に剣道で『真剣』勝負しません?」
「ちょ、ちょっと!何か二人共怖いよ?!」

骸はいつもの事だが、今は穏健なタイプの山本がいつもの笑顔でおかしな事を言い放った。
被害に遇うのは綱吉ではないと分かっているが、肝が冷えたような感覚を覚えた。

「止めてよ、二人共!オレ、全然気にしてないし!大丈夫だったし!」
「武はあのバットで良いんじゃない?ほら、振ったら刀みたいになるアレで。よく硬式ボール真っ二つにしたよね?」
「西田先輩、山本を煽らないで下さいっ!!」

驚いちゃったー、何て笑いだす西田に標的である持田は一層顔を青くさせた。

「わ、分かった、話す!話すから校舎裏も真剣勝負も無しにしてくれ!」

手を伸ばして助けを求めるのを無視するように、山本と骸は持田のサイドをがっちりと固めた。それに、ひっと小さな悲鳴を上げる。

「ほっ?!本当ですか?!」
「本当だ、本当!だから、こいつらをどうにか…」
「そうですね。話してくれるみたいですので場所を移しましょうか…───体育館の裏にでも」
「剣道部の部室も近いし、賛成なのな!」
「お前ら!それは処刑宣告か?!処刑宣告だよな?!…────って西田ぁあっ!」

西田は持田から数歩離れた所で成り行きを見守っていたが、持田が二人にガードされてからは更に離れて腹を抱えていた。

「ごめん。ちょっと笑い過ぎてお腹痛くなっちゃった。職員トイレ借りてこよっと」
「逃げんなぁっ!!」

持田の悲痛な叫びを持ち前の笑顔でさらりと流し、西田は先の突き当たりを曲がって足早に去っていった。
しかし、此処からだと職員トイレの方が遠いはずだ。
そう考えながら、三人を綱吉は見やった。

「クフフ…では、洗い浚いお話しして頂きますよ」
「大事な事だし、出来るだけ細かくな!」
「分かってる、分かってる!つーか、逃げないからその笑顔止めて腕を放してくれ!」
「却下」

綱吉は、苦笑いのまま表情を固めた。

出来るだけ遠くに逃げ出したくなるよね、本当に。

これ以上二人を野放しにしておいては何をしでかすか分かった物ではないと判断した綱吉は、大事な情報源である持田を救出するべく宥めにかかるのだった。

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あきゅろす。
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