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偽人語り
白髪
了平の様子が落ち着いたのを見計らい、綱吉に連絡すべく獄寺は席を外した。
席を外すのに悩んだが、数分だけなら大丈夫だろうと言いきかせて。
数分前に一限目の終わりを告げるチャイムが鳴った所為か廊下から少し人の声が聞こえてきた。

「つーか、雲雀の野郎…容姿も詳しく伝えろっつの…」

黒い長髪の人間が入ってきた時は一瞬疑った。そのまま過ぎて女だと思ったからだ。名前を自ら名乗ってくれなければ本気で追い出していた。

「ったく…」
「あれ?君…」

真正面に見知らぬ男子生徒二人。
確か剣道部の主将。それと黒髪のショートヘアーに眼鏡をかけたひ弱そうな奴が笑ってきた。

「君、よく山本と一緒に居る獄寺君だね?」
「だったら何だ」

山本の関係者と言うことは、野球部か。
睨み付ければ、良かった、と野球部がまたにっこりと笑った。

「理事長室って何処にあるか知ってる?山本達から聞いたんだけど、了平君がそこに居るって…」

どちらも了平のクラスメイトのようだ。
それから少し淋しそうな表情を浮かべて顔を反らす。

「朝から顔色がおかしくてね…沢田君の所に行くと言ってから、そのまま一限目終わるまで帰って来なかったから心配で…」
「あのアホが体調崩すわけねぇだろ。つーか、テメェ誰だ」

え、ときょとんとした表情を浮かべられる。
綱吉の顔の広さは計り知れないに決まっている。知っているのは当然だとして、自分が知らない奴には警戒を怠る訳にはいかない。
山本の先輩で了平を心配して来たようだが、それだけで人間は分からない。

どんな人間も色々『深い』のだ。

しかし、自分もこの生徒を知っている気がする。考察していれば剣道部の奴があぁん?と睨み付けてきた。

「先輩に対して、口の聞き方なってねぇじゃねぇか。何様のつもりだ、あぁん?」
「たかが中坊の剣道部主将ごときが馴々しく身分なんざ聞いてくるんじゃねぇよ」

はぁ?!と声を荒げる剣道部に、苦笑いを浮かべた男子生徒は待って、と間に割って入ってくる。
それから一度謝ってからにっこりと笑ってきた。


「僕は西田直輝です。彼は持田剣介で了平君とは…───」
「そうか。テメェがか…」

遮れば驚いたように目をぱちくりさせる西田。
話にだけは、聞いている。漸く少し引っ掛かっていたピースが当てはまった。

「芝生が世話になったって言う人形屋のだろう」
「あ、はい…並盛商店街にある人形屋の息子です」
「あん時はあんがとよ。お陰で助かったわ」

綱吉から話を聞けば、怪異を『騙す』のに一役買ってくれた人形店だ。
高い技術を持った店らしく、持って行った右足のパーツを見て本物だと勘違いするぐらいの出来だったとも。

ただし、パーツなんてものは『初めから必要ない』みたいだったが。

獄寺はついさっき来た方へと親指だけで差し示す。


「ここ真っ直ぐ行って突き当たり左だ。女みてーな奴と一緒に居る」
「あ、ありがとう…」
「あと取り込み中だ。静かにしてれば問題ねぇみたいだが…───中に入って待っててやれ」

少しびくついたみたいだが、納得したらしく頷いた。
まじまじと見ているが、了平を心配している綱吉の為にも報告しに行くべく二人の横をすり抜けていく。
見られるのは何時もの事だ。

ハーフだとか。
銀髪だとか。
格好良いだとか。

下らない。

腕時計を見れば、既に時刻は次の授業が始まる時間帯だ。
自分は何時も綱吉の傍に居て守るのが仕事なのでサボりは厭わない。
まぁ、勉強なんぞ家に帰ってからでもやれば良い。
授業内容なんて教科書に書いてあるのをわざわざ分かりやすく説明しているだけだ。教科書読んでいればなんとかなる。
歴史とか理科なんて暗記問題なんか特にそうだ。ここテストに出すとか言ってるが高校入試で何処出るかわかったもんじゃない。所々覚えるより丸暗記した方が早い。

「えいっ」
「いでぇっ!」

振り向けば西田が、あは、と引きつった顔で笑う。

「テメェ、何しやがんだ!」
「ごめん!人形とか作ってるから触りたくなっちゃって、つい!」
「今、気合い込めて思いっきり引っ張っただろーが!」

いやぁ、と頭をポリポリ掻く西田に苛立ちが募り始める。

「君、結構苦労してる?」
「当たり前だ、オレは十代目の右腕なんだからな!」
「引っ張った序でに白髪見つけたんだけど」
「はぁ?!マジか?!」

そんなに歳を取った覚えはない。
あはは、と西田はまた笑って髪の毛に手を伸ばしてくる。

「銀髪の人でも生えるんだね、白髪」
「白髪って言うんじゃねぇ!」
「頑張ってる証拠だよ。でも、銀色の所為でよく分かりにくいな…さっきここら辺で見つけたんだけど………えい」

頭の付近からぶつぶつと髪の毛が引き抜かれる音がする。
つーか、何で素直に引き抜かせてんだオレは。

「離せ!気持ち悪ぃ!」

手を叩き落とした瞬間、またぶつぶつと音がする。
あ、と呟いた西田の胸ぐらを掴み上げる。

「勝手に触んじゃねぇ!ぶっ飛ばすぞ!」
「あぁ、ごめん!髪質も良いし、綺麗だったからつい!」
「たりめぇだ!」

引き抜いた髪の毛を摘んだまま手を振った。そんな西田を睨み付けた。つい零れそうになった台詞を飲み込んで、顔を反らす。

「次、触ったらぶっ殺す…」

さらりと自分の髪を指で梳く。
脳内の記憶が、視界の中に銀のウェーブがかった髪を持つ女性を映し出す。



―――――今は、居ない。



くしゃりと、また髪の毛を握る。



―――――大好きだった人。



「ごめん、ごめん。触らないようにするから…許可なしでは」
「テメェ、今の話聞いてたか、あぁん?」

冗談だよ、と青ざめた顔で答えた西田。そう言いながらまたやりそうな予感がする、絶対そうだと言い聞かせて胸ぐらをもう一度掴み上げた。

「取り敢えず一発殴られろや」
「ごめんなさい!本当にもうしないって…───」
「おぉ、持田!」

聞き覚えのある声に、顔をがっつり歪ませると廊下の先から了平が駆け寄ってきた。

「お前達、そろそろ授業が始まるぞ!此処で何をしておる!」
「お前が具合悪そうだから西田と一緒に来たんだよ…どういう伝手(つて)がありゃあ応接室なんざ寄るんだっつーの…」
「おぉ!それはすまんかった。心配かけたな!しかし、もう大丈夫だ!」

ばしん、と持田の肩を叩いて豪快に笑いだす。



「何も見えんから、もう安心だ!わっはっはっ!」



そう笑う、いつもの了平の姿があった。
さっきの様に塞ぎ込んではいないようだ。
取り敢えず、これ以上は余計な事を喋らないように手を打った方が良いだろう。
西田を離して、了平に詰め寄ると胸ぐらを掴んで引っ張る。

「十代目がご心配だ。さっさとそのバカ面見せやがれ」
「馬鹿とは何だ!馬鹿とは!」
「馬鹿は馬鹿だ、応接室にさっさと行くぞ」
「了平くーん!」

後ろから声がしてまた振り返る。
黒い長髪を結う事なくなびかせて駆け寄ってくる…───。

「渡し忘れ…───うわっ!」

びたーん、と派手な音をたててすっ転んだ。履いていたスリッパがぽーん、と宙を飛んで、床に落ちた。しかしもう片方はそいつを馬鹿にするように頭に落ちた。



───あはは、と苦笑いを浮かべながら顔を上げる鈍臭い男、神谷忍。



西田も持田も、神谷を凝視して固まっていた。確かに、男という点を除けば美人だと言える。
しかし、実際は男。少し頬を染めている持田より、驚いた様に凝視している西田の方が人を見る目があるようだ。
神谷は服を払いながこっちを見て了平に歩み寄ってきた。

今みたいに何もない所で転けたり、テーブルに脛をぶつけて悶えていたりとアホっぽいが、雲雀が手配するだけのことは有る。

纏う雰囲気が、一般人と比べものにならないぐらい違う。
こんな職業している人間は、皆そうなのだろうか。



だが、それ故にあまり近くに居たくない。



「芝生…さっさと行くぞ」
「おう!まずは沢田達に顔を出さんとな!」

神谷から御守り袋のような物を受け取って、了平も続いてくる。

「お前達!先生には後から行くと伝えておいてくれ!」
「ん…あぁ……」

渋るように持田が答える。西田は一度頷くと、神谷をもう一度見つめた。しかし、彼はにっこりと笑って頭を傾けるだけだった。
すると、チャイムが鳴り始める。
二時間目を告げている。
持田は慌てた様子で廊下を駈けていき、西田も数歩遅れて姿を消した。

漸く、綱吉にこの万年能天気野郎の晴れやかなアホ面を見せる事が出来る。
ずっと心配して心を傷めているはずだ。



あの人は、誰にだって優しい。



全てを包み込むような、広い心を持ったあの人。

だから、あの人の傍に何時だって居たいのだ。

見せなければいけない了平を置いて先を歩きだす。
待たんかと言われるがどうだって良いのだ。
どの道顔を出すのだから。

了平が、この様子なら。
きっとあの人も安心してくれるだろう。



口元が緩む。



その顔が今は早く見たい。
あの人の、笑った顔を。

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