捜し物語り 再び 「失礼するよ、笹川了平」 病室の前に来るなり雲雀はドアを開け放った。 しかし雲雀は突然身を傾けた。 「雲雀さん!いきなり過ぎ…―――ぶっ!!」 次に入ってきた綱吉に、何かが顔面へ直撃した。 台詞を遮られて、綱吉はそのまま後方にばたーんと倒れた。 勿論、その後ろに居た骸は見事にかわして見下ろした。 「…何方(どなた)ですか?」 綱吉の顔面を踏みつけ、そこに立っている人物は長い鼻にお目々をくりくりとさせ、ふふんと笑った。 「何すんだよ、リボーンっ!」 綱吉が起き上がると同時にその人物は飛び降りた。 水色の象の帽子を被り、赤いボクサーパンツを履いている。 両手には青いグローブも付けて完璧である。 「何言ってんだ。俺はパオパオ老師だ」 「ふざけてる場合じゃないんだよ!」 「リボーン…? アルコバレーノですか?」 「骸ぉ〜?!」 いつもは冷静に物事を見る骸がとんだ爆弾発言だった。 綱吉は思いっきり顔を青くして指を差す。 「どっからどう見てもリボーンだろっ?!」 「そうですか?どっからどう見ても別人ですよ?」 「その通り。俺はパオパオ老師だって…───」 リボーンが飛び上がる。 「言ってんだろーがっ!」 「ぶっ!!」 綱吉は頬を蹴り飛ばされた。 その姿を一瞥すると、骸は当然のように無視して病室に入っていった。 「いってててて…何で気づかないんだよ!もうっ!」 喚きながら起き上がる。 するとリボーンは綱吉の頭に乗っかってきた。 「何だよ、リボーン!!」 「おめぇ。ママンには遅くなる事言ったか?」 さらりと答えられ、綱吉はあ、と固まった。 そう言えば言い忘れていた。 あれからまた、ドッタンバッタンしていたせいですっかり忘れていた。 「しまった!母さん心配してるよなぁ〜?!」 「だろうと思って電話しといたぞ」 「え?」 ぴょこんとリボーンは飛び降りる。 そして、とことこと了平の病室へ入っていった。 「リボーン…?」 呼ぶが返事は無い。 それでも、リボーンは垂れた眉でこちらを神妙な面持ちで見つめていた。 「沢田、何してるの。さっさとその時の詳しい状況報告して」 ちゃきとトンファーを構えて綱吉を呼んだ。 「はぃい!今行きます!今行きますっ!!」 綱吉は慌てて起き上がると、了平の病室へ駆けこんだ。 ∞∞∞ 雲雀は綱吉を了平の横に並べ、腕を組んでどかっと座っていた。 しかも、病院長から提供されたとてもふかふかな椅子に座っていた。 「君…一体、並盛町で何をしているんです?」 「さぁ。とりあえず答える義理は無いかな」 雲雀はその後ろでただの丸椅子に座っている骸に吐き捨てた。 「事件の話をしてくれる?」 「は、はい…」 綱吉は膝を揃えて雲雀に向き直った。 深呼吸を繰り返し、今日の事を思い出す。 「えっと…確か五時前だったと思います。病室のドアがノックされて、オレが部屋のドアを開けたら男の子が立っていて…『中に入りたい』って言うから、良いよって言ったら…一瞬の内に入っていて…―――」 「そうなのだ!その子供…出入り口に居なかったが、沢田が入っても良いと言うといきなりオレの傍に居てな…―――極限に素早い子供だった…」 「お兄さん…―――別に早かったわけでは…」 何故か握りこぶしを作り、対抗意識を燃やしているように見えた綱吉は了平に言った。 その内、本気でその距離を一瞬で移動出来るようになりそうで怖い。 「男の子だったんだ…」 「はい、そうです」 「構わない。続けて」 少し首を傾げていたが、すぐに話を促した。 「それから、おかしい事に気づいて…―――お兄さんに声をかけたんですけど、オレが見えていないみたいで…」 「見えていない?あの時、沢田はいなかったぞ?」 首を傾げていると、綱吉はそうですよね、と呟いた。 「でも、オレの声は『聞こえた気がした』って言ってましたよね?確か、二回ぐらい」 了平は驚いたように目を見開いた。 どうやら記憶にあるようだ。 「『この前』みたいなのに捕まって、声が出ないように喉締められちゃったんです。その時にはもうお兄さんの目の前に居たのが、『子供』じゃなくって…」 「む?何を言うか!オレの傍に居たのは子供だったぞ?!」 「…話がややこしいですねぇ…」 綱吉と見ていた世界が違う了平が声を張り上げる。 それに骸は溜め息を吐いた。 「まぁ、待て」 するとそこで綱吉の頭にリボーンが座ってきた。 「リボーン!重いっ!」 リボーンはいつの間にかパオパオ老師の変装から、いつものスーツ姿になっていた。 「お前は黙ってろ。了平の話を先に聞くぞ」 「うん、分かった」 確かに、と綱吉は思った。 さっきから了平と自分の話が『噛み合わない』。 これでは余計に時間がかかると自分でも分かったのだ。 了平はうむ、と腕を組んだ。 「それからだな…「人形を捜して欲しい」と言うのでな。そこで男と男の約束をしたのだ。すると、十日後の五時に取りに来ると言ってきたのだ…―――――それからだ…」 「人形…」 雲雀がポツリと呟いた。 備え付けの棚に置かれてるそれに視線を送る。 両手両足がないのに浮かべられている満面の笑みが、少なからず異様さを呼んでいた。 了平もそれに視線を送った。思い出したのか、顔が蒼くなる。 了平のこんな顔を見るのは、綱吉には二度目だった。 じわりと汗が滲み出ている。 見ているのが辛いほど、その姿は怖がっていた。 きっと、身体に刻み込まれているのだろう。 あの時の『恐怖』が。 あの時の『異常』が。 「もし見つからなかったら、『君のを貰う』と…―――――」 そして、飲み込まれそうになる意識の中、大声と共に覚醒した。 恐怖の中でも『人の優しさ』を『想う』彼のお陰で。 「最初は意味が分からなくてな。とっさに、西田が作ってくれた人形を持って行くのかと思って、駄目だと大声を上げてしまった…―――とんだ勘違いだったらしいがな…」 「西田?」 「人形職人の所のだ。三年に野球部としているだろう?」 「あぁ…」 はは、とからりと笑った。 しかし、それでも強がりだと分かる。体が震えを止めない。 震える腕を抑えつけて、と言うより握りつけて止めようとしていた。 そこに、雲雀は問いかけた。 「笹川了平、まだ喋れるかい?」 雲雀は了平に視線を送った。 了平は問いかけてきた雲雀に頷いた。 「まだ…大丈夫だ…―――」 「じゃあ、続けて貰う」 雲雀はそう言うと足を解いた。 前のめりになって、『真剣に聞く』態度を取った。 「そしたら、突然沢田が現れて、顔面を蹴って来てな」 「てめぇ、ボスのくせに何してんだ!」 「ぶっ!!」 リボーンが思いっきり綱吉の顔面を蹴りつけた。 流石に驚きすぎたリボーンが、思いっきり力を込めて台詞を放っていた。 「そのお陰で少し生気に戻ったのだ。すると、ドアの前にうにょうにょ動く白い塊があってな…沢田がそれを追いかけて行きそうだったから、止めたのだ…―――――いや…」 了平は一度俯いてから、起き上がった綱吉に顔を向けた。 顔面に食らったせいで顔が赤いのは気にならない様子だ。 そめそも、横でリボーンが蹴りを入れていた事にも気づいていなかっただろう。 とても、安堵したような表情を浮かべていた。 「傍に居て欲しくて、呼びとめたのだ」 え…? 目が、大きく開く。 顔面に走っていた痛みが、消え去った気がした。 「だれかに、居て欲しかったのだ…―――そうだ、沢田。あの時はいっぱいいっぱいだったが、爪は大丈夫なのか?」 「へ?え?」 「爪が剥けていただろう?あれは極限痛いぞ?」 グイッとそのまま綱吉の腕を掴んで引っ張る。 すでに包帯の巻いてある手に、一息吐いた。 「そうか…もう、手当はして貰っていたか…」 「あ、はい!雲雀さんに…」 だから、と綱吉はにっこり笑う。 「大丈夫ですよ?」 こっちをじっと見て、しばしすぅ、と酸素を吸う音が聞こえた。 「そうか…」 ポツリと聞こえて、了平は大きく息を吐き出した。 「そうか…―――」 安堵したその声が、病室に響いた。 [←*][#→] [戻る] |