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ぷよぷよフィーバチュー
関係
ミル海岸を越えた異国の地、全ての中継地点であるタトゥーンダ城。
プリンプに出航を控えていたその前の日に事が起きた。夜中に突然、城の内部が眩い光に包まれたのだ。
街の人々は何が起こったが気になりはしたが、下手に近づいて通行税を取られるのが嫌だったので誰も近寄らなかった。
そして城が無人だと知り、その数日後に数人の商人が城の物品を盗んで売りさばこうと企んだらしい。誰も居ない城に白昼堂々と入り込んで物品を漁っていたその時だ。

そこに『生き残り』が居た。

それはプリンプ侵攻を目論んでいたその城の王子だった。いや、既に即位していたので王だろう。商人達を見つけると、得意の魔道力で追い払ったそうだ。

此処は、『臣下の帰る場所だ』と言い放って。

自らが探しに行って一刻も早く見つけたかったが、先のような商人共がやってくれば根こそぎ持って行かれてしまう。王は皆が帰って来るまで城の物品には一切手を出させないように城に住みついた。

主、物品。そして、臣下。
全てが全て欠けることなく揃っていて初めて『タトゥーンダ城』なのだ。

己の過ちによって消えてしまった臣下達を憂い、何度も懺悔しながら彼は自ら城に籠った。



必ず帰って来る。



そう、信じて。

そして王は息を引き取るその時まで、その城に一人で暮らたそうだ。



ZUX



短く紡がれた熊護儀(くまもりのぎ)からその後のタトゥーンダ城。エストは身体を震わせ、あまつ泣きそうにさえなった。
ルークの話からエストは全くもって新たな真実がかいまみえたのだ。プリンプでは決して語られないであろう真実が、生き残りの生き様が耳の奥で広がっていた。

「あぁ…何て素敵な話なんだろう!まさか王様がただ一人で生きていたなんて!」

ロマンだぁ…!とか言って顔がふにゃけている事お構いなしだった。自分の世界に入ったせいか満開になった花が飛んでキラキラしている。

「何より王様が格好良すぎる!」

エストは大声を上げて、クルークのように陶酔し始めた。
頭がよろしい人の典型的なタイプだと言うことを証明するエストだった。

「しかも、突然消えた家臣が帰って来るための城を守り続ける!そして、その亡くなるその時まで帰ってくると信じて続けた!あぁ、これこそ王様ですよ!自らの過ちに気付いて改心した王の中の王!素敵な王様だぁ…!」

エストの熱の籠もった語りにルークは呆気にとられてぽかんと開いていた。
しかし語りが終わって尚、エストはルークそっちのけで気にせず世界に埋もれ、未だ余韻に浸っている。
またぶつくさと語りを再開したエストに対し、ルークは皮肉げな笑みを浮かべた。

「そうか?当然ではないか?そもそもその過ちに気付かず、愚行を続けた報いだろう?」
「そうかもしれないですけど、過ちに気付いて反省するのは大事なことですよ?」

再びきょとんとした顔をするルークに、エストはにっこり笑って返した。

「その過ちにも気付かず、傍若無人に振る舞い続ける人だって居るんですから」

中にはね、とエストは言い放った。
ルークはしばしエストを見つめていると小さく口を開いた。

「そう、か……?」

ぽつりと放たれた呟きは驚きに満ちていた。そう返されたのが寧ろ不思議なようで、ルークは問い掛けるように返してきた。

「えぇ。そうだと思いますよ?」

そう返して長い沈黙。
ルークは視線を下へ向けると、またぽつりと放った。



「そうか…─────」



また、ぽつりと。






「───────そうか…」





重苦しいのに、『ふわり』としたような空気がルークを包んだ。エストはその空気を感覚的に感じ取り、自然と焦燥が胸に込み上げた。
自分は何か間違った事を言っただろうか。となると、ルークは当然だと言った事に対しての静かなる当て付けだろうか。
エストは思案してそれが核心だと確信する。

「因みにそれって!プリンプを出たら、知った事なんですか?!」

咄嗟に口から出任せた嘘が功を奏した。ルークは平静を取り戻したようにそうだと呟いた。
会ってからたった数時間しか経っていないが、エストにとって読書という同じ趣味を持った人間と嫌な空気を共にするのはいつも以上に嫌だった。
エストは本は三度の飯より好きではあるが、別に友達が居なくて良いわけではない。
それこそ無視をしたり、放っていったり、じゃれあいのぷよ勝負から逃げたりを繰り返している奴が友達という存在を作れるとは思えないが、エスト自身は全く考えていないし気付いてもいない。交友という人間との関りあいに疎い部分が有った。

あくまでも、つかず離れず。
『深入り』しないような関係を。

しかしエスト今はそれを断ちたくないと心の底から思い、ルークへ気づかいをみせていた。
自分でも驚くほど、相手の気をしていた。

おかしいなぁ…下手に自分から近づかないように心がけてたのに…。

そんな事を考えていると、ルークは先程までの鬱憤を晴らすように淡々と口を開いた。

「あぁ。リザイスに言われてな…『本は基礎と深い知識程度に、更に奥を知りたいなら直接現地を赴いて耳を傾け、自ら調べろ』とな」

嬉しさのあまり、うわぁあと気持ちの籠もった声がでてしまった。今にもくるくる回りだしたい気分になっていた。

「僕はプリンプにやってきて一年だけど…そうかぁ!街の外にはそんな歴史が〜…」
「お前……此処が出身じゃないのか?」
「あっ……」

突然現実に引き戻されて、頭をポリポリ掻いた。

「えっと…ビット砂丘の向こうから…っていうか、ビット砂丘の中?」
「ビット砂丘の中…?生活出来るところなどあるのか?」

相当驚いたようだった。こちらを見て期待の視線が向けられた。

「全然対したことないですよ?ほら、プリンプ側のビット砂丘にオアシスが有るじゃないですか?あそこより人間が暮らしやすくなってる程度ですよ」

苦笑しながら答えると、ルークは興奮したのかテーブルに手を叩き付けて身を乗り出し、ぐいっと顔を近付けた。その目は先程のエストのようにきらきらと光り、紅潮している。

「それはアレか…?!頭にターバンを巻いて、長い服に身を包んで…常に革の水筒を持ち歩いて毒蛇も生きたまま噛り付くという野蛮な食生活を?!」
「あの、ルークさん?砂丘で生活している人間に対して超人類か化け物のイメージ持ちすぎじゃないですか?ワイルドにも程がありますよ?」
「何と?!あの本はデタラメか?!」
「前半は合ってますけど後半は間違いだと全力で否定させて頂きます」

ルークは目を見開き、俯きながら椅子へと静かに着席した。ぷるぷるとしながら席った姿がとてつもなく小動物を連想させた。

「ほ…本とは違う……」

相当ショックだったのか、低かった声が高くなり、子供っぽさが滲み出る。

「どんな文献読んだら砂の民は化け物になるんでしょうね…」

確かに蛇を食べたりしたが、生で食べた奴は周りに居なかった。どれもきちんと捌いてから食べている。
ルークが読んだ本からでは野蛮だと思われても仕方ないが、流石に…流石にそこまで酷くはない。

「で、では!蛇の血を飲んだりするのは真か?!」
「あー…爬虫類の生き血は飲んだりしましたね…」

ルークはその返答を聞くなり顔を青くして口元を抑えた。

「異物を見つけたような目で見るの止めてくれません?」

向けられた拒絶に程近い表情に対し、エストは完璧に的を射た突っ込みで返した。
ルークは謝りながらも真っ青のままで、しまいにはエストから顔を逸らしてしまった。
仕方ないと言えば仕方ない、ここはもう文化の違いだ。エストは割り切って話を全力で逸らす事にしようかとしたその時だった。
スコーン、と、エストの頭に何かが放たれた。
エストは横に倒れるように椅子から転げ落ち、否応なしに派手なずっこけ音をたてた。
いてて、と痛みの感じるヶ所を抑えながら起き上がると目の前に藍色の物体がふよふよと浮いていた。
エストはそれを一間置いて確認すると、あ、と苦笑いを浮かべた。

「あ、あはは…館長さん……」

そうだった。
プリサイス博物館に顔を出す理由は何も本を読むためではないことを思い出す事になった。
館長であるあくまが、また首だけぶっ飛ばしてやってきたのだ。挙げ句、頭に突進してくれた。

「何やってるま…心配したま…」
「す、すみません!」

即座に身体を起こして正座する。土下座の形をとって小さい声で謝罪を申し上げる。

「今…人…受付に沢山いるま……早く、来るま…」
「はい!行きます行きます!待ってて下さい!!」

館長は了承したらしく、頭をくるりと回して後頭部をみせた。エストはそれに着いていくべく立ち上がる。

「ルークさん、また後で話を聞かせてください!」
「あぁ。こんな事ぐらいならいくらでも語ろう…」

そう言葉を交わし、駆け出そうとして身体にブレーキをかけてつんのめる。首だけの館長はその場から動かず頭をルークへと向けたからだ。

「客人……館長室へ…連れていってから…来るま…」
「え?───…あ、はい。わかりました」

最初は首を傾げたが、間を置いて返事をする。
館長も何だかんだ言って歴史やそう言うのに詳しいのだ。もしかしたら自分達の話を聞いて興味が湧いたのかもしれない。
普段、館長は受け付けで案内役をするだけで、本の貸し出し記録はエストがやっているからだ。
少し珍しいと思いながらも、エストはルークの方へ回り込んだ。

「ルークさん、行きましょう?」
「…─────あぁ」

ルークの長い間がもしかしたら来てくれないのかもという不安を煽ったが、エストはそう返してくれて一息吐いた。
座っていたルークも立ち上がり、椅子をしまって先を歩きだした。案内しなければならないはずのエストが遅れを取る形でルークの後ろをついていった。

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