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ぷよぷよフィーバチュー
封印の記録

この本に『魔物』を閉じ込めた。
けして、この封を解くことはしないで欲しい。

ツキマワリが咲く この日に
未来のアルカの地に住む人々に捧げる。



  ─ T ─



 退屈な日、この本を売る商人に出会った。
 「この本は、凄い本なんだ。魂を封印することが出来るのさ。使い方は簡単。開くだけ」
 こいつは、面白い。本当なのかは疑わしいが、話のネタになる。
 「おっと、旦那。気をつけて。アンタが落として開いたら、アンタの魂が入っちゃうよ」



  ─ U ─



 早速、この本を持って友人を訪ねた。うまい具合に、仲間は皆集まっていた。一人がさも面白げに私にこう言った。
 「噂の『魔物』の住む城に行かないか?この本にそいつを閉じ込めようぜ」
 皆が目を輝かせて喜んだ。
 本を信じたわけではないが、噂の『魔物』を見てみたかった。
 こうして私達の『魔物』退治が始まった。



  ─ V ─



 『魔物』は一人で住んでいたので、私達は苦もなく城に忍び込むことが出来た。
 始めて『魔物』を見た時の恐怖は今でも思い出す度震えが止まらない。恐怖と共に、こいつが何をしたのか知らないが、これから本に封じることが出来るかもと思うと胸がワクワクして止められなくなった。
 『魔物』は本が大好きで、噂通りなら眠りにつく前に必ず何か読むらしい。



  ─ W ─



 私達は、彼が食堂に行ってる隙に何も書かれていないこの本を窓辺の机に置いた。
 メッセージを添えて。
 「この本がとても面白かったので、貴方に贈ります」

 そして、いつでも逃げられるように窓の外に隠れて彼が戻ってくるのを待った。
 果たして、『魔物』を封印出来るのか?!



  ─ X ─



 ついに『魔物』の封印の時が来た。
 それは、あまりにもあっけなく終わった。
 『魔物』はメッセージに目を通すと躊躇うこともなく本を開いた。
 すると、不思議な光が彼を瞬時に包んだ。その眩しい光の中から抜け出した。
 紅い魂が本の中に吸い込まれていった。
 その光が消えた後には『魔物』とは似ても似つかぬ少年が立っていた。



  ─ Y ─



どうやら封印する事が出来るのは『邪悪な魂』だけらしい。
 幸いな事に、残された魂と肉体はこれまでの事を何一つ覚えていない様子だった。ぼーっとしていた。
 私達は再び中に入り、少年には何も話さないで本を持ってそこを去った。少年も私達に何も問わなかった。
 それから少年がどうなったかは知らない…。



  ─ Z ─



 最後に、この本の封印が解ける方法を記す。

 『太陽のしおり』
 『月の石』
 『星のランタン』

太陽と月と星が一つになる時、封印は解かれ『新たな魂』が…(文字が滲んで読めない)



  ─ [ ─



 一つ一つのアイテムの力は小さなものだ。しかし、これら三つが全て揃った時に、それぞれはお互いを引き合って恐ろしい力を発揮する。

 この本に前ページに記した三つのアイテムを近付けて開いてはならない。
 封印が解かれ、『邪悪な魂』がそこに…(文字が滲んで読めない)



  ─ \ ─



ZUX



エストは読み終わってぱたりと本を閉じた。紅い表紙に埋まっている黄ぷよが神々しく見える。
それをまじまじと見下ろして溜め息を吐いた。

「この本、こわっ!」

素直に出た感想は確かな恐ろしさだった。

「恐い…?」
「怖いじゃないですかぁっ!」

小さな声で即座に返し、目の前のテーブルに手を叩きつけようとしては寸止めを繰り返した。
向かいに座っていたルークは背もたれに預けていた背中を丸めてテーブルに肘をついた。

「魔道の力が籠もった本など、何処にでもあるだろう?今更何が…」
「怖いです怖いですって!『面白いから貴方にも貸します』って言われたら、オレだって期待して開いちゃいますよ!そしたら魂とっ捕まっちゃうんでしょ?!」

こえぇ…と呟いて本を再び見下ろした。もし、先に捕まった人が居なければ、この本に入ってたのは自分かもと想像すると身震いする。
本の封印を解いてくれるまでずっと紙面の中は嫌だ。本は好きだが、そこまでは御免こうむる。自分はただ、本を読むのが好きなのだ。読み続けて死にたいもんだ。

「お前は…観点が良いな」
「そうですか?ただビビりな気がするんですけど…」

本を持ち上げて再びマジマジと見下ろした。
ルークはまた何かを考え込んだようで、口元に手を添えて再び背中を預けた。
先程からだが、ルークの動き一つ一つに気品を感じる。クルークとは大違いで礼儀作法になれているような気がする。実はラフィーナと同じようにクルークもお偉い所のご子息様なのでは、と頭に過った。

「時にエストとやら、歴史が好きなのだったな?」
「はい。歴史は何度も読み返しているぐらいに…」
「私は逆に疎くてな。確か、ずっと昔にこの街に攻め入ろうとした城があっただろう?」
「えぇ。『タトゥーンダ』と呼ばれる城ですよ。図書室に置かれている本では詳しく書かれていませんが、父を亡くした一子が、跡を引き継いで街を統一にかかったんです」

ルークの眉がぴくりと寄って、エストを見据えてきた。
そしてエストは口を滑らせてしまったことに冷や汗を掻いた。

「あ…えっとぉ…」
「成る程。詳しく書かれた書物の蔵書はまた別にあるのだな?恐らく、館長室にでも」
「その通りでございます…」

図星をつかれ、ついっと顔を逸らした。
詳しい書物は自分が歴史に花を咲かせて語るものだから、館長が直々に見ても良いと許可をくれたのだった。
クルークでいう『ダークな本』も有るのだが、エストなら使わないだろうと信じてくれての許可だった。だからこそ、秘密にしてくれと言われていたのだが。

つい、ポロって言ってしまった。

「話を続けてくれないか?あっちこっち行って読むより、歴史に関してはお前に聞いた方が早そうだ」

口元に笑みを浮かべ、しなやかに脚を組んだ。手を組んで腹に当てて落ち着かせる。優雅な動きを見せるルークに対しエストはごくりと唾を飲み込んだ。
無駄に緊張が襲う。

「そのタトゥーンダが攻めて来ようとした時、この街を北に少し行くと『ナーエの森』という場所で神のお告げがあったんです」
「神のお告げ…」
「はい。これをくまもりの儀式と呼んでいるのですが…知ってますよね、すみません…」

歴史が絡むとつい、力が入ってしまう。その所為でプリンプの人間なら誰でも知っているような事まで説明しようとしてしまう。

「…お前の説明しやすいように話すが良い。先程も言ったが私は歴史に疎い。かえって、詳しく説明してくれるなら助かる」
「そ、そうですか?」

あぁ、と返され、エストは胸がワクワクし始める。
ルークはクルークと大違いだ、と本気で頷いてしまった。
正直、それぐらい性格が良いし知的だ。多分クルークにうっかり漏らせばネチネチと小言を言って来るに違いない。

「ナーエの森にメモが書かれた紙が置いてあったんです。くまもり信仰では、『紙は神様』と言われていて、置かれていた場所に指定されたものを置いておくと『大切な願い』が叶うんです。それに『たくさんのぷよ』と書かれていて、街の人達は信じてたくさんぷよを集めたんです。そして、その紙があった場所に置いていったんです。すると次の日、その城が攻めて来なかったんですよ!」

長長しい説明をものともせず、ルークも紡ぐ。

「一夜にして………人間と言う人間が城から消え去ったんだったな…?」
「そうです!神様がプリンプの人達を助けてくれたんです!!」

だん、とついテーブルに叩きつけてしまった。周りからの視線が集まったが当然気付かずに立ち上がった。

「一夜にして城の人間達を一人残らず消し去り、戦争を回避!そして森に集めたぷよも一夜にして消え去った!それからパタリと神からのお告げはなくなって現在に至りますが、神はプリンプの人々を守ってくれたんです!」

きらきらと目を輝かせているエストに、ルークは嘲笑混じりのため息を吐いた。

「お前…少し頭を冷やした方が良いんじゃないか?」「はい?」

いつの間にか、呆れたように頬杖をついていたルークが目だけで見上げてきた。

「まず一つ。ここは図書室だということを忘れるな?立ち上がってそれ程の声で力説していては目立つ」
「あ…」

じとっとした視線を浴びせられ、エストは静かに静かに着席した。

「二つ。その歴史は随分神に頼っているが、『種』があるとは思わなかったのか?」
「え…?」

ルークを凝視した。

「実はその歴史の…『一夜で城の人間達が姿を消した』と言う点が気になってな…調査していた」
「えっ?!マジですか?!」
「あぁ…『歴史』という観点ではなく『魔術』と言う観点でな」
「魔術…?!」

口があんぐり開いて塞がらなくなった。ずっと歴史だからと気にしていなかった点だ。

「凄い!…凄いです、ルークさんっ!僕、思いつかなかった!そうか!僕達には魔術もあったんだ!」

しかし、それよりもずっと強い感情達にエストは支配されていた。

「あぁ、お陰でな。新たに分かった事があるのだ」
「な、何ですか?!」


興奮、歓喜、感動。
一気に感激が押し寄せて声が大きくなる。波が身体全体に広がってはしゃいでいでしまう。胸が踊って踊って仕方なかった。自分でも目が輝いていると分かった。
ルークが身を乗り出すようにテーブルに身体を預ける。そして、こちらを見てにやりとり笑った。

「聞きたいか?」
「聞きたいです聞きたいです!」

そして、それらの感情を統括するのは間違いなくエスト自身を構成していると言っても過言ではない想い───。

「ルークさんっ!その話、是非是非聞かせてくださいっ!」



歴史というジャンルに深く魅入られた、飽くなき『探究心』だった。

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あきゅろす。
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