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ぷよぷよフィーバチュー
ルーク
昨日はクルークが窓を開けて逃走したと結論に至ってから、ラフィーナはそこから後を追いかけて行ってしまった。途中で手伝いを放り出された訳だが、せめて手伝ってくれたお礼をしたかった。勿論、最後まで残ってくれたリデルにはぷよまんをお礼として渡した。
ぷよぷよの形をした饅頭の事を略してぷよまんという。最近は苺味も出ていて、最初は遠慮していたが少し押すと食べてくれた。アミティには例の絵本を貸し出し、ラフィーナの代わりにぷよ勝負をしようと吹っかけられそうになった。
こう言う時、バイトしているのは本当に楽だ。
エストは読書感想文を一夜の内に書き終えると、あくる朝からはプリサイス博物館にバイトをするべく足を運んでいた。
エストの家は町から外れており、博物館までだと一時間を要する。お陰で朝早い学校は遠くて大変だ。しかし、街中と比べて家賃が安いのはとても助かる。それに、もともとクランデスターンに仕えている人間が澄んでいた家と言う事で、一人暮らしをするには安い上に広かった。それでも人が入っていなかったのは物騒な噂が後を絶たないせいだろう。
しかし、生活している分には特に怪奇現象も滅多に見られないためとても居心地が良い。
エストの中では怪奇現象というのが
『新しい漫才が出来た』という理由で双子幽霊の姉であるユウちゃんが、勉強している夜中に乗り込んで来たり、フランケンの親子が寂しいからと言ってでジュースを飲みにやって来たりなど常に可愛らしい理由で、一人暮らしをしているエストには温かく迎えたくなるような客人ばかりだった。

それにしても、クルークはどうしたんだろう。

昨日、忽然と消えたクラスメートをふと思いつく。
ラフィーナは自分に恐れをなして逃げただけだと言っていたが、エストが見ていた限りそう思えなかった。自分はラフィーナの殺気に本気で泣きそうだったが、クルークは何か考え事をしていたのか平然とブツブツ何かを呟いていた。

それに、悪い事も…したかな…?

一方的に研究を継いでくれと言っていたが、その後随分怒らせてしまった。
彼のように一応自分が知的である人間なら公共の施設では騒いだりしないだろう。それを刺激するような事を自分はしてしまった。
まぁ、興味ない事を興味ないとはっきり言う事は大事だと思うが、もう少し相手の事を考えて言うべきだったと反省はしている。

ようやくプリンプタウンに入ってすぐにある広場が見えてきた。とりあえず、その広場に居る人間には合わないように逃げたい。
黄色い変な生物を連れて異世界からやって来たとか言う女の子が居るのだ。ぷよ勝負をすれば帰れるのではという推論で誰かれ構わず勝負を吹っかけてくる。確かに見慣れない服だから興味はあったが、教えてもらうにもぷよ勝負をしてくれればという交換条件なので異世界の話は本で読んだだけの事しか分からない。以前、引っかかった時は丁度タルタルという丸い男の子がやって来たので任せて逃げた。
そんな女の子の姿がないか、しかし見つけた途端に超ハイパーウルトラダッシュで逃げるのは自分の中でお決まりだが一応探していた。

「…あれ…?」

少し、違和感のある姿が見えた。
紫のベストとパンツ。ボタンは外れてワイシャツがはみ出ている。帽子も被っていなくてきっちり整えられていた髪が少しぼさぼさだ。それでも、傍には紅い本。赤ぷよの形をした遊具にの上に座りこんでいる。
目を凝らしてよく見てみても、やはり見覚えのある姿だった。

「クルー…ク…?」

公園その遊具に座りこんでいる彼に向ってエストはかけていく。
自分に気付いたのか、クルークはこちらを見てきた。

・・・あれ?

つい足が止まった。
服装がいつもと違って乱れている…というより、だらけて渋くなっているだけかと思ったが眼の色まで違った。クルークの瞳は青に緑がかったセルリアンブルーのはずだ。
目付きが鋭くなって、こちらを睨みつけているようだった。

「お前は…誰だったかな?」

昨日、自分がどれだけ彼に失礼な事を言ったのか痛いほど分かった。

「えっと…貴方は…クルークさんの御兄弟ですか?」
「兄弟?」
「あ、その…僕はクルークさんと同じクラスのエストって言います。つい昨日ちゃんと顔を合わせたんですけど…」
「何故、そう思う?」
「へ?」

唐突に聞き返され体が勝手に硬直する。強すぎる威圧感を感じながらも、一応笑顔は浮かべてみる。人と接するときは笑顔が大事だとよく聞かされていたのを頭で思い出した。

「ほら、クルークさんって目の色がセルリアンブルーじゃないですか?貴方は赤い色だし…でも、クルークさんそっくりだから、兄弟かどなたかと…」
「ほぅ…それでか…」

こちらを向いたまま渋い口調で頷いた。
まじまじとこちらを見つめて、ククッと笑う。

「お前は阿保のようだな」
「あほっ…?!」

いきなりアホ発言されて、再び喉で詰まらせた。

「いや。あの女の方がアホか?…しかし、理由はどうであれ見抜いてはいたからな…」

再び何か考え事を始めたようなクルークのそっくりさんはブツブツと呟き始める。
エストはこの嫌みな感じと考え込むとブツブツ呟く癖で兄弟、もしくは家族という続柄だと確信した。

「まぁいい。お前、クルークを知っているんだったな」
「あ、はい…先程も言いましたがクラスメートです」

クルークのそっくりさんは遊具から降り立った。
とすん、と華麗な足取りで降り立つ姿は貴族のような印象を与える。
翻ったマントが空気を含んでふわりと靡いた。

今、本当に格好良かった…。

「何だ?私の顔に何か付いているか?」
「いえ、別に…」

ただ、素直に格好良いなと思って…―――――。

「…格好良い?」
「はいぃ?!」

白けたような表情でこちらを見てくるクルークのそっくりさん。
恥ずかしくて目をあっちこっちに逸らしていると、再びクククッ、とクルークのそっくりさんが笑った。

「お前は本当に阿呆だな?」
「す、すみませんね。アホでっ…!」

エストは言い返せない気分になって背を向けた。

「お前…名前は何だったかな…?」
「あれ?さっき言いませんでしたか?」
「聞いていなかった。もう一回言ってくれ」

あぁ。この失礼な所は本当にそっくりだ。

「エストです」
「あぁ、先も聞いたなエストと。私の名前はルークだ」
「ルークさん…ですか?」
「あぁ。私はルークだ」

微笑しながら横を通り過ぎるクルークのそっくりさん、ルーク。歩きながら顎で来るように指示され、エストは慌ててその後を追いかけて行った。最初は横を歩いていたが、だんだん恥ずかしい気分になって少し後ろを歩く。

「それで?お前はこれから何処に向うのだ?」
「え?プリサイス博物館です。どちらかというと、そこにある図書室ですけど…」
「あぁ…図書室…―――」

ルークの声が少しだけ明るんで聞こえたような気がした。

「そのプリサイス博物館とかいう場所まで案内してくれないか?私は此処の地理に疎いのだ」
「えっと…こちらには住んでいないのですか?御兄弟なのに?」
「あぁ、そうか…―――」

顎に手を添えて真正面を見つめていた。

「つい昨日帰ってきたら博物館なんて出来ている物だから何処にあるのかわからんのだ。弟から話は聞いていたが見つからないのだ」

客観的に方向音痴なんだろうか、と真面目に考えて口を閉じた。
ついさっきはポツリと喋っていたらしいが、今回はそんなこともないらしい。
ルークはただ前を向いて―――――イキイキとしているようだった。

「本…好きなんですか?」
「あぁ、好きだ」

速攻の返答にエストは少し安堵を覚えた。趣味が合うと言うだけで、ルークが近しい人間に思えてしまったのだ。
それこそクルークとはまた違った嫌みがあるが、そこまで酷くは無い所もエストの中でポイントが高かった。クルークよりは、正直親しみやすそうだった。



「一人では無いんだと…思えてくるからな…―――」



ルークが、ポツリと呟いた。

「え…?」
「時に、お前は本を読むか?」
「あ、はい。歴史書が好きですけど…」

話を切り返されてエストは直ぐに答えた。
ジャンルをいきなり問うてくるあたり、本好きな印象が一層強まった。相当好きなようで、今も本を抱えていた。

黄ぷよのイラストが描かれた紅い本を。

「あれ…?」

エストが立ち止ると、ルークも同様に立ち止る。こちらを振り向いて、少し首を傾けた。

「どうした?」
「あ、いえ。その本って、クルークがずっと延滞貸出を続けてる本だと思いまして…」
「あぁ、この本か?」

ルークはその本を見下ろして、くすりと笑った。

「また延滞貸し出しを希望しているのだ。研究を続けたいとか言ってなぁ…まずは読書感想文を仕上げたいから私に本を託していったのだ。本当に、あいつは研究馬鹿だよ」

嘲笑するように本を見せつける。クルークらし過ぎる発言にエストは苦笑いを浮かべて納得する。

「じゃあ、その本って…読ませて貰えるんですか?」
「何だ?この本には興味ないんじゃないのか?」
「あぁ、実験の方はですよ。クルークが『偉大な力』を手に入れる事が出来るって言うから、どんな力なのか詳しく書いてあるんじゃないのかと思って…」
「ほぉう…」

そう呟いて、ルークは眼鏡を静かに光らせた。
そして、見せびらかしていた本をエストに差し出してきた。

「興味があるのなら読んでみると良い。ノンフィクションらしいからな」
「え?ノンフィクション?」
「あぁ、読んでみると良い。お前が思っているような事は一切書かれていないからな」
「えぇ?!じゃあ、何で薦めるんですか?!」

ルークは自分でも驚いたように目を瞬かせると、再びくすりと笑った。

「私の気分だ」

それだけ言うと、無理矢理本を押しつけてきた。
プリサイス博物館前。ルークはかつんかつんと優雅に階段を登っていく後ろを再び慌てて追いかけた。
きぃ、とルークが博物館の扉を開いて、今日も本の虫の読書生活とバイトが始まった。

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