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ぷよぷよフィーバチュー
本の虫
この物語は、何時にあって、何時か分からない、もしかしたら今かもしれないような時代。
謎のグミ状生物、『ぷよ』と呼ばれる生命体がいくつもの魔法を介して奇跡を巻き起こしてきた世界。

ここは『プリンプ』と呼ばれる街で北をミル海岸、南をビット砂丘に挟まれている。
その所為で街と街との交流が少なかったが、豊かな自然に囲まれて特に不自由なく生活を送っていた。



ZUX



「やぁ、君だね?『本の虫』は」

学校の授業も終わり、学校が閉鎖されるギリギリまで読んで居ようとしていた矢先だった。
見下したような声が聞こえてきてエストは顔を上げた。
周りからやってくるヒソヒソ声を受けながらエストは今読んでいた本にしおりを挟んだ。

「えっと、何?」

顔をあげれば、所々に白と黄色のラインが入っているが、全体は紫を基調としたベストとパンツを纏った少年がいた。ワイシャツはありとあらゆるボタンをぴっちり止め、裾も出さない。
被っている防止にも黄色のラインが入っていて、秀才帽を被っていた。そこにプリンプ魔道学校の校章である白い片翼のバッチがつけられている。
服の説明だけでも伝わる優等生像は服装だけに留まらず、丸い眼鏡に額を艶やかに光らせながら七三分けの髪。水色の蝶ネクタイで結ばれた首元から赤ピンクの時計がきっちり時を刻んでいた。

「噂は聞いてるよ?君、プリサイス博物館の図書を全部読み切ったんだって?本当に本の虫なんだな」
「う〜……ん?」

続け様に吐き出された毒塗りの言葉に悩みながらエストは腕を組んだ。
本は好きだ。しかし、本の虫とは本好きを蔑んだような呼び名だ。
そこまで考えて、エストは、まぁいっか、と頷いた。それに気になるのはその前だ。

「僕、そんなに読んだ覚えはないなぁ…」

少年にそう呟いてエストは記憶を掘り漁る。
確かに、プリサイス博物館によく出入りをしている。それは単に歴史や古文書の本があるし、他にも理由がある。寧ろ、そっちの方が自分には重大だ。
本はエストが読みたくて読むわけだが、歴史以外のジャンルは興味が沸かないと開かなかった。
雑誌や詩の類は一切合切手を出していない。

ということは、とエストは目の前の少年に顔を向けた。

「君って、噂好きなの?」
「・・・は?」

眼鏡を真っ白にして首を傾げた。
エストは本を机に片付けてもう一度向き直った。

「ほら、そう言うのって事実じゃないかぎり誰かの想像や思い込みじゃない?僕はプリサイス博物館の書庫によく出入りしているけど、全部読んでないよ?」
「当たり前だろう?そんなの」

しかし、少年はにやりと笑って指を差してきた。

「君が本を完全読破しているなんて噂は有り得ない!何故だか分かるかい?」
「…僕にはさっきの話と噛み合ってない気がするんだけど……」
「何故なら!その一冊は僕が持ち歩き続けているからだ!」

少年の眼鏡が誇らしげにきらん、と煌めいた。
そして、話何ぞ聞かずして勝手な結論を述べた。
どうやら、どなたかがでっち上げた噂を否定するための一冊らしく、文字通り目の前に突き出していた。目から近すぎて何が映っているのかさっぱりわからず、紅い表紙に映りこんだ黄色いものに焦点を合わせた。
どうやら黄ぷよのイラストらしく、突き出されたままでは目が痛いので数歩下がっておいた。
見た目に合わず間抜けな所があるらしい少年はさらにフフンと鼻で笑った。

「つまり、君は嘘吐きなわけだ!嘘っぱちの噂を流して、僕より頭が良いと思わせるためにそんな噂をでっち上げたんだろう!」

そうだ、そうに決まっている!と手を広げ、陶酔し始めたような少年。
更に彼の勝手な推論が展開されていく中、エストは「あの〜」と、少年に何度も言葉を投げ掛けた。しかし、何も聞いてないらしくまだまだ推論が続きそうだった。
エストは試しに机の中身を片付け始めるが、少年はまだ気にしていないようだった。

「この本はね。僕がずっと延長貸し出しを続けていた、ダークな本…────」

エストがショルダーバッグに荷物を詰め終わって肩にかけてもまだ語っていて、何を思ったのか背中を向けた。

「そして、僕は学者としての研究心に耐え切れず実験を試み…───」

エストがついさっき読んでいた本を開きながらその場を去っても少年は己に酔い続けていた。

「そしてその時!実験が成功したんだ!僕は間違って…────」



エストは逃走を選んだ。



「そしたらアミティが…───」

さっきまで読んでいた本をエストはしおりを挟んだページから読み進めながら帰っていく生徒達の人込みに紛れていった。




ZUX



名前はエスト。
プリンプ魔道学校に通ってる学生だ。
他の人は魔道士を志しているが、エストは純粋に歴史が好きな少年だった。
誰もが魔道士を目指している中、彼は他の人と違って歴史学者になりたいって思っている。

ついこの前、学年が上がってクラスが変わり、また個性が強すぎるキャラクターが集まった面白いクラスだった。
さっきの見かけ倒しな優等生とは多分同じクラスなのだろうが名前は覚えていない。
対人関係に疎い節のあるエストは、魔力がそこそこ有って運動もそこそこできる。
基本的に何でもそつなくこなせるので、周りからは普通の学生としてみられるはずだ。

この前ミル海岸までランニングがあった時、学年でもスポーツに関して常にトップを走るラフィーナに次いで海岸に着いた。

目的は一つ。
皆が来るまでは自由なので本を読むためだ。

待っている間に辞書みたいに厚さがあった本を完全に読み切った挙げ句、暇になったぐらいだ。
余談だが、貝を拾っているラフィーナを観察していると声をかけられた。ラフィーナは綺麗なうえに格好良いよね、などと他愛無い話をしていたはずだったのに、急に熱が出て顔を赤くしたラフィーナを心配すると逆にぷよ勝負を吹っかけられそうになった。
それはラフィーナと止めに入ってきたアコール先生の間で秘密とされた。

魔道力は試験の時にしか使わない。そして、大体は戦闘から離脱するが、どうしても受けた勝負には常に勝利を収めていた。
ただ目立たず、本ばかり読んでいるように見られている所為であまり人が寄ってこないのが現実だ。
それによって他人から一目置かれるのはそういう行事がある時だけだ。
しかし、本人は特に気にしていなかった。ただ本を読み、歴史に触れてさえいられれば、それで良いと思っていた。

それがエストだった。

「ねぇねぇ!エスト!!」
「おぅ?!」

学校の帰り道、プリサイス博物館に向かうため歩いていたら突然後ろから声をかけられてエストは振り返った。ハートのデザインが施されたカラフルなTシャツに、ベルト、黄色地の短パン。右腕手首には黄緑のブレスレッド。
魂が抜けたような眼をした赤いぷよを模した帽子に両翼の如く交渉が二つも取りつけられていて、そこから金色の髪がはみ出ている。この帽子で誰も見間違える人間は居ないだろう。

「アミティ?」

アミティはにっこりと無邪気な笑顔を浮かべると、前に回り込んできた。流石に無視する事も出来ず読んでいた本を閉じるとアミティはさらに元気よく声を張り上げて来た。

「ほら、明日から五連休でしょ?帰りの会で宿題に読書感想文を出されちゃったじゃない?」
「あぁ…そう言えば……」

前々から知っていたので特に聞いていなかったが、二、三日は忙しくなりそうだと客観的に頭の中で思い描いていた。

「だから、プリサイス博物館の図書室で本を選ぼうと思うんだけど…難し過ぎるのだと眠くなっちゃうから、短くて楽しい本無いかな?」
「あー…」

『本の虫』という噂が広がり切っていると改めて思い知らされた瞬間だった。しかし、どんなあだ名が付こうが自分には関係ないか、と自己納得した。

「そうだな…絵本とかは?」
「絵本かぁ〜!」

「うん。将来の夢は魔道士…なのは当たり前だな。魔道学校生活の話なら良いんじゃない?魔法が下手すぎて自分がカエルになったりするんだけど…結構面白いよ?」
「へぇ?!その子、変身魔法使えるんだ?!」
「違う違う。魔法に失敗したと思ったら変身魔法だったんだよ。しかも解く方法が分からないから、友達と一緒に解く魔法を探すんだ。絵本だとね?」

文庫だと、その間、先生がやたらと主人公をひっ捕まえようとする姿が凄く面白いのだが、とりあえずそこは伏せておく。

「実際文庫ものなんだけど、子供にも見やすいように絵本化されてる奴なんだ。絵本が面白いと思ったら文庫も読めばいいよ」
「うんうん!それにする!!それって図書室の何処にあるの?」
「あ〜…詳しくは覚えてないなぁ…」
「へぇ。本の虫って呼ばれてても、分からない事ってあるんだね!」

その顔、素敵に笑顔。
明らかに悪意を込められたあだ名が胸に沁み込む程度に刺さる。しかし、アミティはそうとは露知らずに褒め言葉として使ってきた。いや、それに気付いていないかもしれない。それでも確実に悪く言っている訳ではないということに気付いてしまった所為で、エストは何も言えずに失笑した。

「それなら、一緒に行こうか?」
「あ!それなら、鞄を家に置いて来てからでも良いかな?授業道具が重くって」
「わかった。それなら、ついでに探しておくよ」
「本当?ありがとう!!」

アミティはまたにっこり笑って駆けだした。そして、こちらを向きながら手を振った。

「ばいばーい!また後でね〜♪」

分かれと今日中に再会する挨拶を言い残して、アミティは石畳を軽快に走っていく。
エストもその後ろ姿をにこやかな笑顔で見送りながら手を振った。
しばらくしてから、はぁ、と大きな溜め息を吐いた。

「本の虫かぁ…そんなにオタクなつもりはなかったのに…」

それぞれ違う人間から『本の虫』と言われ、気分が暗くなる。
石畳の真ん中でしゃがみ込み、気を取り直すまではもう少しかかりそうだった。

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あきゅろす。
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