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ぷよぷよフィーバチュー
買い出し
数時間後、午後からの貸し出しラッシュが終わってエストは漸くルークの元、もとい館長室へ戻る事が出来た。
一応退屈しているのではないかと思って早く終わらせたが、そんな心配は無用だった。
彼は館長室にある書物を読み漁っていたのだ。エストが入って来ても気にならないのか自分とは比べ物にならないような速度でページをめくり頭へと消化していく本は既に三分の二を読み終えていた。

「館長、終わりました」
「ま…助かるま……」

それだけ言うと館長は奥へと消えて行った。
ソファーに座り、未だページをめくり続けているルークの向いに座った。
自分にも気付かずページをめくり続けている様はまるで機械のような印象を与えた。

「ルークさん?」
「………」
「ルークさぁん?」
「………」

どうやらクルークと同じで集中しだしたら周りが見えないようだ。ここまで性格が似ていると寧ろ凄いと思えてくる。エストはそれ以上声をかけるのを止めて、自分も館長室にある本を漁りに行った。
エストはふと思いついた。そう言えば、砂漠の民に対して化け物のようなイメージを持たせるような書物もあるのではないのだろうかと敷き詰められて文字が羅列している本の背表紙に指を滑らせながら探してみる。砂やオアシスと言った文字を見つければ良いかと文字を追っていると、もふ、と足に柔らかいモノに当たった。
見下ろしてみると館長が居て、茶色い布袋を頭に乗せて立っていた。

「館長さん?…え〜っと……オレに買い物ですか?」
「ま…そうま……紅茶…」
「あれ?まだ紅茶の葉はありますよ?」

文句を散々付けられた所為で余計に覚えていた。予備は確かに無いが、自分が煎れた時にはまだ半分は残っていた。しかし館長は首をフルフル振って否定する。

「あぁ。私がアールグレイを所望したのだ」

後ろからルークの声がして振り向いた。
どうやらあの短時間で残りを読み終えったらしく、彼はその本を抱きかかえてこちらを見ていた。

「ついでま…ダージリン……買って来るま…」

そう言って無理矢理押しつけられて、エストは袋の中身を確認する。
財布を持っていないのか館長は袋にお金を入れて渡してくる。今回は紅茶二缶買うには多い金額だった。というか多すぎる。

「他に何か買うものあるんですか?」
「お菓子…パイ…ミートパイま…」
「あー…骨屋だけじゃ済まなさそうだな…」

ポツリと誰にも聞こえないように呟いた。
骨屋は実際店の名前では無い。正式名は『エキセントリックグランドおしゃれこうべ』という、最近開店した名前がやたらと長い何でも屋だ。店長は店にも付けられているが『おしゃれこうべ』。その人物…いや、『骸骨』と表現するべきそいつは、ピンクの裏地に青い燕尾服とシルクハットを被っている。店長が骸骨という事で、魔道学校の生徒は大概『骨屋』と呼んでいるのだ。彼は常日頃燕尾服を纏っているのはおしゃれだからだと言う。おしゃれ用語は専門すぎて意味が分からない。骨になって性別は特に分からないが燕尾服を着ていることから男性だとエストは思っている。
彼は声が高く、オカマ口調で常に人を馬鹿にした態度を取る。昔は腹が立ったがこう言う性格なのだと割り切れば何ともない、寧ろおだてれば乗ってくれるので安く上がる。それに、おしゃれこうべは普段人を馬鹿にするような態度は取るが、根っから性質が悪いわけではない。実際、街の人達の憩いの場としても活躍している。悩みを聞いてくれたりもするせいか普段の態度は気にしない。それに、彼はオカマだとか罵声を浴びせても怒鳴るだけで対して気にしていない。身体や内臓は無いが心は広大なのだ。

「じゃあ、行ってきます」
「ま…早くま……」
「はーい」

買い物袋を片手に握って、再び館長室を飛び出した。



ZUX



すぐ近くにある店屋に『骨屋』ことエキセントリックグランドおしゃれこうべにやって来たエストは早速、頼まれた紅茶を買うべくドアを押して開く。ちりんちりんとベルが鳴ったが、いつもならハイテンションで迎えてくれるおしゃれこうべが今日はやってこなかった。いつもなら最低でも『いらっしゃいませ〜ぇ!』とオカマ口調混じりの声が聞こえてくるがそれも聞こえてこない。
レジを覗いてみると、そこにはおしゃれこうべと、ピンクの髪を持った小さな男の子が居た。

「あの子って…」

おしゃれこうべにしがみ付き、何か喋っているようだった。
静かに耳を傾け遠くから聞くことにする。そいつも下手に引っかかったら大変な人間の一人だ。

「何故ないのだ?!此処は店屋であろう?!」
「悪いけど、アタシの店は日用品と言った街の人が生活するのに困らないような商品を置く、ス・テ・キ・なお店なの。そんな明らか高級そうな魔道具は置いてないわぁ?」

オカマ口調に珍しく優しさの籠った声を初めて聞いた。
それから店屋の奥に入っていったお陰で、おしゃれこうべで見えなかった人物が姿を現した。

「あ〜…やっぱり…後でオトモに報告しておくか…」

そこに居たのは一国の王子様。本名はサアルデ・カナール・シェルブリック三世王子。海の向こうからお忍び旅行でプリンプに来たらしいが、オトモ(というか、名前を名乗らないので自分もこう呼んでいる)という連れから逃げ回っているのだ。
小さな王冠を頭に乗せ、胸には大きい星の紋章をぶら下げている。ピンク色をした上に、紅茶のパンツ。白いブーツ。そこまでしっかり確認してエストは間違いないと確信した。

「ごめんなさいねぇ?他の店当たって頂戴?お詫びと言っちゃなんだけど、チョコレートと、キャンディあげるわ。好きかしら?」
「む…むぅ…」

手渡されたキャンディとチョコレートを胸に抱いてぷくりと膨れている。こうやってみると可愛いのだが、誰にでも分け隔てなく偉そうな態度を取りあまつ『僕づくりが』趣味と来た。この前シグが楽しそうに三食昼寝つき、お菓子も付くという特典に喜びながら遊んでいた。

「やはり、星のランタンは無いのか…」

ポツリと呟いた魔道具に、エストは眉を顰める。
星のランタンと言えば昨日クルークが言っていたし、今日読んだ本にも書いてあったから自然と反応してしまったのだ。

「それさえあれば、再び魚の姿に戻れると言うのに…―――これではオトモに見つかってしまう…」

まだお忍び旅行の足りない王子様はそう呟いてチョコレートをぱきりと口にほうばった。

「そう言えばこの前、貴方のオトモが此処に来たわよ?あんたの事、すっごく心配してたわぁ…」

そう言いながら、おしゃれこうべは更に王子の抱えているお菓子にカラフルなゼリーを足していた。

「今にも泣きそうだったわよ?貴方の事を心配し過ぎて体も壊してるみたいだったわ」

さらにお菓子というお菓子を王子に渡していき、椅子まで用意した。王子様と分かってか、おしゃれこうべは上等な椅子を用意してそこに座らせた。

「まだ、旅行し足りないの?」
「………」

おしゃれこうべが問いかけると、王子は顔を俯かせたりおしゃれこうべを見返したりを繰り返した。

「それもあるのだが…他にも、探し物があるのだ…」
「あら。初めて聞いたわね」

話を遠くから聞いていたエストもおしゃれこうべに同感していた。もう一つ言えば、あんなしゅんと委縮した王子を見たのは初めてだった。いつも傲慢な態度を取る王子が大人しい子供に見えるのは、きっとこれが最初で最後の事なんじゃないのかと思う。

「そうねぇ…お姉さんで良ければ、話してみない?」

せめてそこはお兄さんに直して欲しい、と本気で思った。

しばし沈黙した王子はそれからもチョコレートを食べ進め、感触してからおしゃれこうべと向き合った。

「実は…『思い出の貝殻』を探しているのだ…」
「あら…ごめんなさい。私の店にも置いてないわぁ…」
「うむ…知っている…―――」

そう呟いて、二つ目のチョコレートを遠慮なく開けた。どうやら王子はチョコレートがお気に召したようです。

「最低でも、それを見つけれたら帰ろうと思うのだ…」
「あら、そうだったの…」

また、優しい声がごめんなさいね、と返す。
すると王子の目がうるっと緩んで体が震えだした。

「……時間あるなら話して行く?ワタシは良いわよ?何でも聞いてあげるわ。口だって十分堅いの、安心して?」
「……余が…どうしてもそれを見つけたいのは…実は…―――――」

肩を震わせながらどもってしまった王子に、おしゃれこうべは骨だけの手で優しく肩を掴んだ。

「…無理しなくても良いわよ!話したくないなら話したくなった時で良いの!急がないならゆっくりして行って!」

そうやって声を張り上げておしゃれこうべは立ち上がった。そして、王子を店の奥にやるべくローラをゴロゴロ回して押していると、突然ぐりんと『こっちを向いた』。

「エストくぅ〜ん?事情は分かったわねぇえ〜?」
「あ…」

こっちを向いて、嫌みげな笑みを浮かべる。
にたりと吊り上がった笑みはエストの脳内にしっかり事の事情を伝えた。



嵌められた。



「あんた、これから『星のランタン』と『思い出の貝殻』探しなさい」
「うわぁ…何か悪徳商法に引っかかった」

おしゃれこうべはエストに王子を奥にある休憩室においてくる。
そこから微かな嗚咽が聞こえてきたが、おしゃれこうべは気にせず店内へ戻ってきた。

「あら?人の秘密を盗み聞きしておいて良い度胸ねぇ?」
「あんな気まずい空気からだったら、誰も入れませんよ」
「あらぁ?その前はどうだったかしら?」
「…!!」

思い出して、顔を引きつらせた。

「貴方が話していた時は、多分店の商品につての話しだったけはずだけれど、何で入ってこなかったのかしらねぇ?」
「えぇっと…優しい優しいおしゃれこうべ様がお迎えに来てくれなかったからですかね?」

おだてて逃げれないかと少し思案してみるが、さすがに店を経営しているだけあるのか、おしゃれこうべはにっと再び笑った。

「あら、ありがとう!でも、言葉が足りないわねぇ?せめて『美しくてセンスがあって綺麗に輝いている優しい優しいおしゃれこうべ女王様』とまで言ってくれたら考えたわ」
「あー。美しくてセンスがあって綺麗に輝いている優しい優しいおしゃれこうべ女王様のエレガントでビューティフルパーフェクトな『いらっしゃいませ』を聞かないと僕は入店した気にならないんですよ」
「あら、半分許してあげるわ」

更に付けたしてみたがおしゃれこうべは聞く耳を持つ様子は無いようだった。
逆ににたりと笑って来た。

「じゃ、最低でも『思い出の貝殻』探してきなさい。心当たりならあるわ」
「心当たりがあるなら、その格好良い姉御肌のイケてる行動力で捜しませんか?」
「オーッホッホッホッ!残念ねぇ?私はハイパーグレイト格好良い姉御肌のイケてる行動力で行ってあげたいぐらいけど、此処には私を待っている元気で明るくて心優しくて、中には迷える悩みを持ちながらも強く志高く生きようとするス・テ・キ・なお客様が待ってるのよねぇ〜え?そ・れ・に!」

耳を貸すように言って来たおしゃれこうべは寄って来た。勝てはしないと薄々気づいているので渋々耳を傾ける事にする。

「多分、あの子は『思い出』を探してるのよ」
「…思い出」

ポツリとつぶやかれた台詞に、エストも繰り返す。

「『チューの思い出』程じゃないけれど、『思い出の貝殻』にも記憶を探り出す力はあるのよ?無差別に人の記憶を探り出したりできる優れモノだと言っても良いわ」
「………オレは…あんまり興味無いかな…」
「あんらぁ?『知られたくない過去』でもあるのかしら?」
「?!」

突然、飛び出て来た言葉にぞっと身の毛がよだった。背中に氷塊が舐めて落ちていく。

「見れば分かるのよ。何十年も生きてるからね?貴方は『翳り』がありすぎるわ。それはもう普通の人には分からないように巧みに隠してるけど、アタシみたいなのにはバレバレよ?」

にっこり笑って、更にはけらっと笑って来た。



「アタシ、『翳り』のある男に惹かれるから」



とんでもない新事実を目の当たりにしてしまった。
おしゃれこうべは言うだけ言うと、それじゃ!と耳を思いっきり引っ張って骨の口を寄せる。そして『心当たり』について語りだした。
エストはそれを聞いて顔を引きつらせた。

「じゃ、紅茶!安くしておくわねぇ〜♪」

その陽気な声に何も反応する事も出来ず、対策を講じることも出来ず、ただ立ち尽くしていた。自分もよく知っている人物。昨日は殴られそうになり今日はぷよ勝負を吹っかけらそうになった。



「…ラフィーナが持ってるって…?」



弱みを右ったとはいえ、一番会いたくない人間だった。

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あきゅろす。
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