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しょうせつ
僕VS自然 (トウヒョウ)
「はぁ…」

ちいさくちいさく、吐いたため息は窓から外へ飛び出して、大気と一体になる。これが雲になって、雨が降ればいいのに、とヒョウタは期待を込めてもう一度、今度大きく息を吐いた。

クロガネシティは今日も晴れ。鉱山の山男たちは朝から勇んで作業を始めていた。肉体労働の辛い仕事であるが、この町の人はみな、一人残らず山が好きなのだ。ガタイのいい男達は山に入り、女達は帰りを待つ。そんな繰り返しがすべてだった。
もちろんヒョウタもその一人で、近頃はようやく始めた化石掘りも順調で、少しでも父親の役に立ちたいと考えている。


「もう2日か…」

この2日、父であるトウガンはほとんど家に帰っていなかった。ジムリーダーの仕事もそこそこに、残りの時間を鉱山に篭りっぱなしであった。

「父さん、どうしてるだろう…」


自分も一緒に行きたいと言ったけど、今は危険な作業中だからとやんわりと拒まれた。ショックだったが、邪魔になるよりずっといい、と思う。

鉱山で穴を掘る父さんが好き。けど、一緒にいるときの父さんも好き。
また一つ、はぁとこれみよがしにため息を。
雲が何でできてるなんて、これっぽっちも知らないけれど。
もしも願いや祈りの塊ならば、どうか雨を降らしてください。なるべく大きくて、強い雨を。
父さんが、自分の下へ戻ってくるような、つよいつよい雨を。

会えないことで、山にまで嫉妬する自分。
彼が知ったら、少し驚いて、そして豪快に笑い飛ばしてくれるだろう。
ひゅうと吹く風が乱暴に髪を揺らす。まるで父さんに撫でられたようでくすぐったい気分になった。
多少気持ちが晴れてきて、今度は穏やかに山の方を見つめる。クロガネシティは雲ひとつない晴天。雨は降りそうにないけれど。
数日もすればきっと嵐のように帰ってくるんだ、自分に会いに。

パタンと静かに窓を閉める。まるで何かの儀式のように、できるだけ厳かに、厳粛に。大事な人に早く会えますようにと祈りを込めて。



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