小さな頃から(↑で読めない方用)
20
「何かあった?」
教室に着いた途端、亮はクラスメイトから声を掛けられ廊下へと出て行ってしまい、二人きりになったタイミングで日向が小声で聞いて来た。
「何が?」
「もしかして……亮くんと、喧嘩でもした?」
いつもと同じ笑顔を向ければ困惑したように視線を移動させた彼が、遠慮がちに尋ねて来る。
「え?してないけど、何か変だった?」
逆に尋ねかえすと、フルフルと首を振りながら「ちょっとそう思っただけだから、気にしないで」と、慌てたように言葉を返して来た日向の姿に佑樹は『ゴメン』と心の中で謝った。
初めて出来た亮以外の友人は本当に大切な存在で、出来る事なら嘘なんか付きたく無い……だけどこんな事を話したら、いくら優しい日向だって自分の事を軽蔑するかもしれないし、そもそも誰かに相談出来るような内容じゃ無い。
「もし喧嘩したら日向ちゃんに相談するから、その時は俺の味方になって。」
「うん、僕で良かったら……。」
困ったような表情をこれ以上見たくなくて、殊更明るく佑樹が告げると日向は微笑みを浮かべて答えてくれて……それを見ながら、自分の心が少しだけ浮上するのを佑樹は感じた。
予鈴が鳴り、席へ座ると廊下から戻って来た亮がちらりとこちらを見てから、前の席へと腰を下ろす。
一学期は席が苗字順になっているから、初等部の頃から自分の前が亮になる事が多くて、これまではそれが純粋に嬉しかった。
―――たけど今は……。
好きな人の後ろ姿をずっと見ていられるこの環境が、かなり辛く感じられる。
一度溢れ出してしまった好きという気持ちを、抑える事が出来なくて……。
きっと亮は気持ち悪いと思ってる……男で、親友だと思っていた相手から告白されて、しかもそれが後ろの席にいるなんて嫌じゃ無い訳がない。
『伝えられただけで幸せ』
せめてそう思えたら……思えるような伝え方が出来ていたら……。
そこまで考えた所で、浮上しかけた気持ちがまた沈んでしまい、佑樹は机に突っ伏した。
―――伝えて、幸せになれる方法なんて俺の場合……ありはしない。
亮はノンケで自分とは違うから。
長い長い片思いにはもう決着が付いてしまったけれど、自分の気持ちとの折り合いはそう簡単には付けられそうに無かった。
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