小さな頃から(↑で読めない方用)
17
コクリ……と唾を飲み込んだのは無意識の行動で、急に心臓の音が煩くなる。
こんな風に佑樹を意識するなんて長い付き合いで初めてだった。
空気のように当たり前な存在だった……少なくともあの日迄は。
「本当に大丈夫?……顔、赤いみたいだけど。」
立ち止まったまま動けずにいる亮の顔を覗き込むように見上げた佑樹が心配そうに尋ねて来るけど、顔に熱が集まって彼の顔を直視出来ない。
―――忘れられる筈なんて……。
そう思った亮だけど、だからといってどうすれば良いのかなんて分からなくて……筋違いだとは分かっていても『どうして普通で居られるんだ。』と、佑樹を問い詰めたい衝動に駆られてしまう。
動くことも出来ないまま沈黙を続ける自分を、佑樹はどう思っているのだろう?
「行かないと、遅刻しちゃうよ。」
耳に慣れた声が少しだけいつもと違うように聞こえて、思わず見遣った佑樹の顔に更に鼓動が高鳴った。
「佑樹……。」
無意識に指を伸ばしてその唇に指で触れると佑樹の体がビクリと強張る。
ハッとしてすぐに手を引っ込めた亮だけど、自分が何をしたかったのかも分からなくて……。
「亮、あのさ……。」
バツが悪そうな顔をした佑樹が何かを言いかけて口を開いた、その時……。
「亮くん、佑樹くん、おはよう。」
後ろから聞こえてきたおっとりとした挨拶の声に凍りついたように固まっていたその場の空気が、少しだけ溶け始めた。
「おはよう、日向ちゃん。」
友人の挨拶に先に答えたのは佑樹の方で、その表情からは先程一瞬見せた影は完全に消えている。
「おはよう。」
自分もまた笑顔で告げた亮は、助かった……と、心底日向に感謝した。
佑樹が言いかけた言葉が何なのかが気にならないわけじゃ無いけど、あれ以上二人でいたら自分が何かとんでも無い事をしてしまいそうだったから……。
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