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三周年記念
4



『祖父と言うことにして、一緒に行って貰いたい所があります』


『祖父……ですか?』


『はい。家族が心配しないのかと聞かれたので……駄目ですか?』


ほんの僅か、毎日見ている小林だから気付る位の変化だが……聖一の顔がこの時初めて不安の色を浮かべた事に、気付いてしまえば断るなんて出来る筈が無いだろう。


何より、犯罪でも犯さぬ限り、主人である少年の命は小林にとって絶対だ。


『良いですよ。一緒に行って、挨拶すれば宜しいですか?』


『貴司さんの心配が解ければ良いので、あとは小林に任せます。よろしくお願いします』


きっと家族に縁がないから、どう言えば良いか彼にも実はあまり分かって無いのだろう。


それについては家庭を持たぬ自分自身も同じだが、長年の経験でどうにでもなる事だ。


当時聖一は、公園で知り合いになった貴司という青年の家に入り浸るようになっていて……小林はいつも近くに車を停めて待機していたのだが、それについても彼の兄逹に報告する気は全くなかった。


流石に相手の大学生の経歴は調べたが、特に問題は無さそうだったし、聖一が初めて他人に興味を示した事の方が、大切だと感じたから。


―――あの時、初めて聖一様が笑う姿を見た。


『弟が出来たみたいで嬉しい』
そんな貴司の言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んだ顔は今でも瞼に焼き付いている。


その時の小林と言えば、驚きの余り上手く表情を隠せなくなってしまったが、幸いな事に疑われずに、貴司は自分を聖一の祖父であると信じ込んだ。



****



それから二人の間には、様々な事が起こったが……主の姿を見守る内、例えそれがどんな事でも従おうと心に決めた。


―――万が一、違う結末を迎えていたら……きっと後悔しただろう。


元々は、同じ部屋へと住んでいたが、高校生になった聖一は別のマンションに住むようになり、彼の行動を把握する事はかなり困難になってしまったが、犯罪に近い行為に手を染めていたのは知っている。


彼に呼ばれ、命令とはいえ手助けをした事もある。


でも……責任感の無い大人だと他人から思われようと、課された使命を守りながらも、聖一を変えた貴司という青年に……心のどこかで期待していた。


溢れる思いを持て余し、悩む主の姿を見ながら、自分に出来る事は何なのかと考え抜き、黙って従う道を選んだ。


―――結果、二人は道を切り開いた。聖一様は今も少しずつ、変わり続けている。


だからもう、彼を見守る役目はここで終るのだ……と、小林は長くなった回想をそこで一旦締め括る。


振り返るなんてらしくもないが、これだけ長い時間を聖一の傍で過ごして来たのだから、今ぐらいは許されるだろう。





「こちらで待つようにとの事です」


ホテルへと到着し、貴司を部屋へと案内してから深々と頭を下げると、困ったような顔をした彼が、「待ってください」と引き留めて来た。


「何でしょう?」


「小林さん、えっと……何かありましたか?」


「いえ、特には」


「そうですか……すいません。なんだかいつもと違う気がして……何でもないならいいんです。ありがとうございました」


「仕事ですのでお気になさらず。では、私はこれで失礼させて頂きます」


再度頭を軽く下げてからスイートルームを後にする。
ドアの閉まる寸前に……貴司が酷く驚いたような顔をしたような気がしたが、きっと何かの間違いだろうと思い小林は歩き出した。



****



「今日は、一体どうしたんだ?」


こんな所に呼び出された理由が全く浮かばないから、聖一が部屋に入るや否や貴司は彼に質問をぶつけた。


「ああ、この部屋?貴司は何だと思う?」


「そんなの……考えても分からないから聞いてるのに、分かるわけ無いだろう?」


逆に質問を返されてしまい貴司は内心酷く焦る。
彼の二十歳の誕生日はこの前祝ったばかりだし、特に今月はこれといって何の記念日も無かった筈だ。



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