三周年記念
3
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『停めてください』
小学校高学年……最初の転機が訪れた。
学校では優等生で、友達と呼べる相手はいないが誰もが彼を特別視し、いじめに遭ってた訳でもない。
だけど……興味が無いのか彼は週に数日しか登校せず、その日も欲しい本があるから書店に連れて行くように言われ、向かっている所だった。
『どうかしましたか?』
車の中での会話は殆ど無い中での一言に、慌てて車を路肩へと止め、伺うように背後を見ると、
『少し待っていてください』
とだけ告げた聖一が、自ら車を降りようとする。
『分かりました』
外へ回ってドアを開け、小さく会釈で返事はしたが、何かあっては大変だから待っている事は出来なかった。
聖一の世話の内容には、警備も勿論含まれているし、彼は本妻の子では無いけれど、阿由葉の子息である事には違いない。
こっそりと後を尾け、入って行った小さな公園の外から見た光景は……それまでの彼を知る者にとって思いも因らないものだった。
―――あの時はただ、ブランコに乗りたかったのだと思ったが……。
「すみません。迎えに来させてしまって……」
聖一を会合のあるホテルに送ったその足で、貴司の会社に行った小林は二時間程待つ事となった。
「平気ですよ。これが私の仕事ですから」
助手席に乗って来た青年は、礼儀正しく頭を下げるが、後部座席を何度勧めても頑なに前へ乗って来る。
「セイ……聖一は、どこにいるんでしょうか?」
「ハイアットホテルです。先に行って待っていて下さいと聖一様が仰っておりました」
いつものように至って事務的な口調でそう返事をすると、
「そうですか」
と、呟きながらもどうしてなのかが気になるようで、首を傾げる動作をする。
この一見地味にも見える青年は、男だけれど主である聖一の恋人だ。
それについては色々あったが、聖一と彼が付き合う事に異論などは勿論無いし、むしろ末永く続いて欲しいと心の奥では願っている。
―――彼のおかげで、聖一様は変わられた。
しかも、多分良い方向に。
昔から……貴司については地味で平凡という印象だが、控え目ながらもとても整った顔立ちなのだと気付いたのは、彼の住んでいたアパートへと立ち寄った時の事だった。
『小林、頼みがあります』
凜とした声。
日常生活以外の用事で呼ばれた事が無かったから……内心酷く驚いたけれど、いつものように感情を押し込め主人の前へ歩み寄る。
『何でしょう?』
薄く笑みを唇に浮かべ、主人の言葉を聞き逃さぬよう少し腰を屈めて訊くと、思いもよらない事を言うから流石に目を丸くした。
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