書物
3
文次郎視点
廊下を歩く女子生徒二名をターゲットとし、不自然じゃないように近寄り手を差し出す。
「え?」
「ん」
「あれ?潮江くん?」
どうしたのかという視線を向ける女子はよく見たら隣のクラスのやつだ。名前は、た、た、
「…、それ寄越せ。俺が持っていく」
「え!でも」
「ほら貸せ」
名前が思い出せず、妙な間があいてしまった。Tとしておこう。
なかなか渡さない相手にじれて段ボールを奪い取る。結構な重さだが男には軽いほうだろう。
「どこ持ってくんだ?」
「えと、理科室の奥の理科実験室……」
「わかった」
後ろで二人の困った声が聞こえるけどスルーして歩く。すると任せることにしたのかしばらくしてぱたぱたと小走りで追いかけてきた。
「大丈夫?重くない?」
「これくらい重いに入んねえよ。………着いたぞ」
行儀悪く足でドアをあけ薄暗い中へ入る。どこに置くのか聞くと右端、と返ってきた。
「よし。重いものは誰かに頼んで持ってもらえ、次は」
「そうだね!そうするよ」
「潮江くん!」
「なんだ」
「あ、ありがとう、助かったよ!」
隣のクラスのTが照れたように礼を言い、隣の女子も続けて礼を言った。
そこで先ほどのアイツのセリフを思い出す。
『―――いいか?ありがとうと言われたらな・・・』
「こ、これくらいのことならいつでもしてやるよ」
「本当?」
「潮江くん心強いー!」
あはは、と笑って二人が潮江を見る。
と、笑顔がだんだんと強張り、なんとも言えない顔になっていく。
「あー……潮江くん?」
「な、なんだ」
「あ、ううん!なんでもない……じ、じゃあ、私たち……これで……」
「しつ…れい、しました!」
「?ああ」
そそくさと理科準備室を去る二人を見送る。
なんだ今のよくわからん態度は。
日頃あまり女子と話さないほうだと自負しているから、今結構いい会話が出来ていたと思ったのに。
「なんだ……?」
ぼうとこちらを見ていた男子生徒と目が合うとさっと逸らし早歩きで過ぎていく。その後ろにいた男子はひっと短く悲鳴を上げて走っていった。
なんなんだ?なんか顔についているのか?
さっと顔を触っても何も変化はない。常の顔だ。
よくわからんが、まあ感謝されたし、成功(?なのか?)したことだし早くアイツの所に帰るか。まだ指南してもらわねばならないことがたくさんある。
踵を返し、先ほどまでいた教室へ足を向けた。
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