書物 1 「こんにちはー」 目を開けたら目の前に自分が立っていた。………誰? 「ふふふ、誰だって顔してる。わかんないかなぁ?」 「………五年の鉢屋三郎くん?」 「ぶっぶー。はずれ。自分の顔も忘れちゃったの?」 にこにこ笑う顔は確かに自分のものだし、口調も体も自分のものだ。だが何か違う。 無意識に目の前の自分と同じように笑っていた目を細める。 「ほら、それ。わからないの?僕はわかるよ、自分だもん。君が誰で僕が誰か」 邪気のない笑顔が咲く。 だが瞬間笑顔が威圧的な笑顔に変わる。 「僕みんなのこと大好きなんだ。だからそのみんなを傷つけて楽しんでる僕を許せない」 その言葉に笑いが広がる。 「でも俺はみんなが大好きだから、みんなを愛してあげてるんだよ?」 「君のそれは愛じゃないと思うけど」 「それはそっちの俺の考えでしょ?これは俺の愛だよ」 「………ほんと、」 同じ僕とは思えない、と本気で嘆く俺。ああこいつは優しいんだなぁ いや、優しいとかじゃなくて、知らないんだ。闇を。生きてきた環境が違うんだろう 自分とは根本から違う。 「俺と君は同じだけど、全くの別人だよ」 俺は笑った。 目の前の俺も笑った。 「そうだね。でもだからこそわかることもある」 今度はまた同じ顔に笑みを浮かべて 「君の好きにはさせないよ?」 「ふふ、やってみたら?別次元の俺になにが出来るのさ」 挑戦的な俺の言葉に楽しそうな声が被った。 「僕と君は違うんでしょ?君が思いつきもしないことやってあげる!」 「タカ丸さん!」 「……………滝ちゃん?」 「もう!さっきから何度呼びかけても起きないんですから……朝ご飯の時間ですよ」 「あ!ごめんごめん!今行くねー」 入り口で若干怒っている滝ちゃんを見つけ、ああ夢か、とため息。 「変な夢見ちゃった……」 もう一人の自分なんて。 手で顔を覆う。にやけた顔は隠しきれない。 「みんな平等に思ってるから『愛して』あげてるのにねぇ」 なんで怒られなきゃいけないのさ? 「タカ丸さーん!置いていきますよ!」 「あ!待って待ってー」 ほら、いつも通りの毎日が始まる。 … [次へ#] |