書物
ただいま
任務も終わり、母上から言付けも預かったので学園へ向かう。
早く早くと足が学園へと向かいはやる心が止まらない。
なぜこんなに急いでいるんだろうか。
(ああ、土井先生だ)
自分は任務が終わったら彼にあいさつしている気がする。いや、気がするではない。今自分は土井先生の笑顔と言葉を求めているんだ。
どうもあの人の笑顔に弱いようだ。どんな仕事帰りでも、土井先生に「おかえり」って言ってもらえると、「ああ帰ってきた」と感じる。
自分も忙しいはずなのにお茶をいれてねぎらってくれる暖かさがまるで家に帰ってきたかのように感じるのだ。
それに笑うと可愛いのにきちんとついた筋肉が綺麗でなんだかムラムラする。
って待て利吉。ムラムラ?土井先生に?
「ま、さか!そんなこと……!!」
頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
だが一瞬でも土井先生にそんな思いを抱いてしまったのは事実。
「いやそんな馬鹿な……」
私は、土井先生のことが……?
癖の強い髪、確か四年の髪結いの生徒によくボロボロだと言われているらしい。あのねこっけも可愛いと思うが。
って、普通いい歳した男に「可愛い」はないだろう自分!
でも子供たちに向ける笑顔は可愛い。
…………うん、可愛い。
認めます。可愛いです。
それにすらりとした手から放たれるチョークは殺人的な破壊力を持ってることも知ってる。
ちなみに何回か見たことのある女装姿は可愛い。半子さんは美しい。あまり化粧をしていないにもかかわらずまともに女性に見える。
なんだこれは。ベタ惚れじゃないか。
思わず苦笑が漏れてしまう。
「父上に怒られてしまうな……」
まさか私が男、しかも父上の同僚に恋しているなんて。
しかしそうとわかったら早くあの人に会いたい。
思いはまだ伝えることはしないけれども、会ってあの人に「おかえり」と言ってもらいたい。
いつの間にか立ち止まっていた足を動かし山を駆ける。
今度は先程よりもさらに早く。
ああほら、学園が見えてきた。
会いたい貴方はすぐそこに
(父上、ただいま戻りました)
(利吉、帰ったか)
(あの、父上、土井先生は………)
貴方はすぐそこに!
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