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愛が積もる箱
世界

目覚めると、やっぱりベッドの上にいた。
周りを見渡すと誰もいなくて、微量の溜め息が出た。

…いつもいない。

情事後、目を覚ますと必ず彼は消えていて、軽い胸焼けのような痛みが体の中で沸き起こる。そのたびに、痛みを紛らわそうともう一度寝るが、寝付けない。

彼はいつもどこかへ行くのだろう。場所だって告げてはくれないし、行ってくるとも言わない。

まあ、状況的に誘拐されているのだから当たり前なのだが、こうもすぐ消えられては、ちょっと不満がつのる。

恐怖心など跡形もなく消えている今では、誰もいないこの部屋は暇だ。
それに、このお留守番状態のような放置はどことなく寂しいし。

ご主人様の帰りを待つペットのような気持ちになる。

外に出してもらえない俺にとって彼は、唯一触れ合える人間。
彼は、とても優しく、犯罪者の名に相応しくない人物だと思う。

実際、監禁されていると言うよりも世話されてる。何も要求されなければ、暴力もふるわれることもない。ここに来たばかりの時も、凄い抵抗したはずなのに殴られず、優しく丸め込まれた。

そして今に至る。
僕の広かった世界は、この小さな世界に変わり、この世界の中心は彼になった。

彼が帰って来るまで、彼のことを考え、彼が帰って来たら、彼に包まれ、彼に溺れる。

その繰り返し。

中心とゆうか、最早、世界=彼のような状態。

世界が笑うと俺は嬉しくなり、世界が疲れていると僕は心配になる。

鈍くなってゆく感覚は危機感を無くさせていた。


僕は、この場、この状況の現実を忘れかけていたのだ。
たぶんこれからもきっと、忘れ続けるだろう。



あの人が来なければ…



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