[携帯モード] [URL送信]
世界の終末には


華さま

企画・捧物



























この世界には、現在に至るまでにいくつもの予言が存在する。

人類や世界の滅亡日の宣言。

毎年更新されるそれを、どこまで信じればよいかは解らないが。


「もし、明日世界が終わるとしたら何をします?」


リアリストの代表者ともいえるこの法師から、そんな言葉を聞くとは思わなかった。


「はあ?んだよ、法師」


「そりゃ、禅問答か?」


「いえいえ、ただの疑問ですよ」


鋼牙と蛮骨が怪訝そうな顔で弥勒を窺う。俺だって、きっとそんな顔で彼を見遣っているのだろう。


「昨夜そのような本を読みましてね」


皆さんならどうするかと思いまして、とにっこりと笑む弥勒。



明日、世界が終わるなら。














『世界の終末には』














「俺は仲間とバカ騒ぎすっかなあ」


そう答えたのは蛮骨だった。


「どうせならパアーッとよ!普段出来ねえことやりてえよな」


「例えばなんです?」


「盗んだバイクで走り出したりとか、楽しそうじゃね!」


「てめえ15の夜じゃねえんだからよ!」


すかさずツッコミを入れる鋼牙に笑いながら、蛮骨の話の続きを聞く。


「まあ、今のは冗談だけどよー。しんみりするよりかは賑やかに迎えたいよなー」


そりゃそうだ。
決まっちまったもんはしょうがねえし、どうせ最期なら明るく過ごしたい。


「なるほど…鋼牙はどうです?」


「俺かあ?…そーさな、今まで会った奴等に会いに行くかな」


「今までって…大分いるんじゃねーの?」


「おお。けどよ、全部終わっちまう前に礼の一言でも言いてえじゃねえか」


一人でも多くの奴に、と笑いながら鋼牙がそっと目を伏せた。

鋼牙に親はいない。

事情はよく知らないが、長い間施設で育ったらしい。
コイツはそこで過ごした奴等のことを家族のように慕っている。きっと、今言った「礼」を言いたい相手とは、その人等のことなのだろう。


「あとお前らとバカやりてえってのもあるな!」


「だよな!校舎にペンキぶちかましたりよー!」


「おおお、それ楽しそうじゃねえか!」


ワイワイと悪事について話し出した二人に苦笑する。そういえば弥勒はどうなのだろうと視線を移せば、ヤツは俺の方を見てにこりと笑んだ。


「私ですか?」


なんで伝わったんだよ。
以心伝心なんて気味の悪い言葉を浮かばせた自身の思考を打ち消して、ひとつだけ頷き、その先を促した。


「私は、いつも通りの生活を送りたいですね」


「はあ?」


「いつも通りでいいのかよ!」


先程までやいのやいのやっていた鋼牙と蛮骨が、弥勒の言葉に直ぐにツッコミを入れた。
一歩出遅れた俺は、心の中でそのツッコミを復唱する。


「ええ。起床し、学校へ行き、友と話し、帰宅し、平和であった日々を思い返して眠りに就くことができればそれで良いです」


「な、んか……」


「悟ってんなあ…」


あまりにも男子高生らしからぬ発言に一同ポカンである。
普通は、鋼牙や蛮骨のように日常ではできないことをやろうと思い立つものではなかろうか。


「ああ、そうですね。ひとつだけ贅沢を言わせてもらうとしたら、」


「お、なんだよ」


「二人だけの時間を作りたいですね」


誰との、なんて言わずもがなである。


「っぶ…ダハハッ!やっぱしお前も男だったんだな!!」


「はは、なんだと思ってたんです?」


「聖人面してよー!実はお前、一番スケベだよな!!」


「二人だけでなにやんだよ!!」


「ナニをするんでしょうな」


「おわーっ!その笑顔きめえ!」


「あー…笑った笑った……ところでよ、」


そして弥勒がそんなことを言ったばっかりに、


「お前はどうなんだよ、犬夜叉」


「そういや、さっきから黙ってばっかだな」


俺に振られてしまったではないか。

俺らは言ったんだお前もなんか言え、つーか茶化してやりたいから早く言え、みたいな邪悪な好奇心剥き出しでこちらをニマニマ見てくる三人に、俺は大きくため息を吐いた。


明日、世界が終わるなら、


「…俺は──────」










――










「あれ、犬夜叉?」


「お、…おう、買い物か」


帰宅の途中の道で声を掛けられ、振り返ってみれば、そこには買い物袋を提げたかごめがいた。


「うん!今帰りなの?遅いわね」


「まあな、色々あってよ」


小走りで駆け寄ってくる彼女を待ち、足が揃ったところで、二人でゆっくりと歩き出す。

あの後も他愛のない話をいくつかした。帰り支度を始めたのはそれからしばらくしてからのことである。


「ふふ、また4人で話してたんでしょ」


「おお。よく分かったな」


「いつものことだもん。本当に仲良しよね」


そう言って笑うかごめ。
その言葉に先程の会話が不意に思い出された。


「…なあ、」


「ん?なあに?」


「もし、明日、世界が終わるとしたら…お前、どうする?」


そんな俺の質問に、彼女がふと足を止めた。


「そういう話をしてたの?」


それに倣って足を止めた俺を見上げながら彼女はクスリと微笑む。


「…弥勒がそういう本を読んだんだと。そっから、そういう話になった」


「なんだか、意外な話題ね」


そうね、と空を仰いだかごめの視線を追いかけた。
天気予報が一日中曇りだっただけに、そこに広がるのは明度を落とした灰色である。


「…私は、学校に行って友達と過ごして、最期は家族と一緒に居たいかな」


「…弥勒と、似てるな」


「本当!あ、弥勒さま達はなんて言ってたの?」


教室でのやりとりを思い出しながらゆっくりと歩を進めた。アイツらの答えに、彼女は「らしいわね」と笑って、俺より小さな歩幅で隣を歩く。


「そういえば、犬夜叉は?」


その問いに、再度足が止まった。


「……犬夜叉?」


「…俺は、……」










俺は、
何も思い付かなかったんだ。



俺は、家族と、友達と、大切な人と過ごす時間を想像できなかったんだ。



家族と、なんて。
両親は居ない。親戚とも言える血縁者には疎まれている。そんな関係なんだ、お互いに、最期は円満に、共に迎えようなんて微塵も思っちゃいないだろう。

少なくとも俺はそうだ。



確かに友と、アイツらと過ごしたら、楽しいかもしれない。でも、アイツらにはアイツらなりの迎えたい最期の形があるのだ。きっと、共に過ごしたい人だっている。



それを、俺が阻む権利なんて果たしてあるのだろうか。



そう思い至ると、俺が見た世界が終わる瞬間の俺は、独り、部屋でボンヤリとしている姿だった。


「……、…俺は…」


「…」


かごめには何と答えようか。まさか「独りで過ごします」なんて、言えない。

何かないかと言い澱む俺は、灰色の空にたゆたう自身の息を眺める。


「…なんか、お前らみたいに上手く想像できなかった」


ああ、我ながら良い答え方ではなかろうか。

そんなことを心の中で呟いたそのとき。


「…!」


かごめが、手に触れた。


「……付け足しても、いい?」


手の甲どうしが微かに触れ合っている。それでも、彼女の手がひんやりと冷たいのが分かった。


「…おう」


そっと手を離し、手の甲が重なり合うだけだった距離を、掌を握り締めることで縮めた。

もどかしいくらいにじんわりと伝わる人肌の温もりが、ひどく愛しい。


「学校で友達に会って、たくさん話して、…最期は家族と……、」


繋いだままの手を、彼女はゆっくりと持ち上げて自身の頬に宛がった。

手の甲に感じる柔らかな頬も、やはり冷たい。

そのまま俯きながら目を伏せた彼女を斜め上から見詰める。彼女の次の言葉に、静かな期待を持っている自分を心の何処かで感じた。


「…できたら、犬夜叉と。……犬夜叉と、居たいな」


ずっと寒風に晒されていたせいで色素の薄かった彼女の顔色に、ほんの少しだけ、色が灯る。


「…居てくれる?」


彼女の冷たくなっていたその頬から、火照りを感じる。


「…ああ…、……居てくれ」


人目なんて、気にしていられなかった。

商店街を抜けて、そこから続いているこの住宅街の道は、もともとそんなに人通りが多いわけではない。

それでも、いつどこで誰が見ているかも分からない外で、こんな風にかごめに口付けをするなんて、いつもの俺なら絶対に有り得ない。


「…かごめ」


とは言うが、掠め盗るようなそんな刹那の重なり。
さすがに、行為の限度をわきまえるだけの理性は保てている。


「…うん」


「……ありがとな」


「……ん」


抱き締めても、いいだろうか。いや、やはりマズいだろうか。


「…行くか」


「…うん」


彼女の頬から離れた手。
温もりが冷めていく感覚が切なくて、彼女の細い指に指を絡める。そっと握り返された分だけ、俺も力を込めた。


なんだって彼女はこんなにも、こんなにも他人の気持ちの動きに聡いのだろう。普段はあんなに鈍感なのに。


そう思ったら、少し笑えた。


かごめがそう言ってくれるのなら、世界が終末を迎えるのも悪くはないかもしれない。
…ああ、でも、俺はそれまでに彼女に貰った優しくて、暖かいものを返さなければいけないのか。


「……間に合いそうにねえな」


「え?何が?」


「ん?……数学の課題」


「嘘ばっかり!数学は得意なくせに…あ、嫌味?」


「さあ。どうだろうな」


「もー!」


いつ終末が訪れるかは分からないが、いつ訪れても良いように、彼女に貰った喜びを返していこう。

できたら、それに俺の想いも上乗せして。





明日、弥勒に答えをちゃんと返してやろう。アイツは何て言うだろうか。全てお見通しだ、という微笑みを浮かべながら「そうですか」なんて言いそうだ。


灰色の空の下、寄り添いながら歩く二人の歩みは、いつもより少しだけ遅いものであった。























シリアスちっくになってしまいましたが…華さまに捧げます!

この度は企画への参加、ありがとうございます!

下ネタに走ったりしていますが、私もあの四人の学パラは書いてて本当に楽しいです笑
そして、未だに鋼牙くんと蛮骨の発言の見分けがつかないという←

それでは華さま、これからもどうぞよろしくお願いします!

ありがとうございました!^^*


20120322


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!