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待ちぼうけの独り言


CaptainOさま

企画・捧物
































「犬夜叉。ゴロゴロしとらんで四魂のかけらの情報でも探してこんか」


「るっせえ!腰が痛くて立てねえんだよ!!」


俺だって好きでゴロゴロと床に寝転がっているわけではないのだ。

床で安静にせざるを得ないのも、こんなに不愉快な気分なのも、全てはあいつのせいなのだ。




















『待ちぼうけの独り言』




















かごめはつい先程、俺を言霊連呼で地に沈ませた後、3日はこちらに来るなと言い置いて井戸の向こうへと消えた。

原因は「てすとー」である。

てすとー、とやらがあると、どうにもかごめは凶暴かつ理不尽になる。

俺らは一刻も早く四魂のかけらを集めなきゃなんねえのに。

つーか、そもそもあいつが四魂の玉を砕いちまったのが原因なのに、なんであんなに高飛車なんだ。

そして何より面倒なのが、この念珠の首飾りである。うざったいったらありゃしない。

何が「おすわり」だ。あの野郎、ぜってえ俺を犬扱いしてやがる。


「……犬夜叉よ」


「ああん!?」


いつまでもぶちぶちと文句を垂らす俺を、大きくため息をついた楓が遮った。


「お前が話すのは、さっきからかごめのことばかりではないか」


「なッ!?」


「そんなに気になるなら行ってやればよいだろう」


「ばっ、だっ、誰が!っそ、それに3日は来んなって言われてんだよ!!」


「行かんのか」


「…っ行かねえよ!」


「では四魂のかけらの情報を集めてこい」


「……けっ」


口うるさい楓に舌を打ちつつ、しぶしぶと痛む腰をあげる。


「…何処に行くんだ」


「関係ねえだろ!」


ふん、と鼻を鳴らし簾を荒々しくあげて、俺はとりあえず歩くことにした。ここにいては苛々が募るだけで身体に非常に悪い。


「……素直じゃないのう」


数歩歩いたところで、小屋の中から聞こえたわざとらしい独り言に、更に苛立ち、俺は歩みを速めたのだった。










――










「……」


行く先も決めず、ブラブラと歩き続け、気付けばここに辿り着いていた。

森の奥にあり、開けているその場所は、穏やかな日光を浴びて草木がきらきらと輝いている。

そんな光景とは相反する心情である俺は、その野の真ん中に佇む古井戸を見つめて、顔を歪めていた。


───いい?3日間、ぜっったいに来ないでね!!


ビシリと指を突き立てられ、何か反論をしようと口を開けば容赦なく「おすわり」をさせられた。しかも、数えきれないくらい。

俺はただ、てすとー、を受けなくて済むようにしてやろうと井戸を壊そうとしただけなのに。


「…ほんっと、気に食わねえ」


人間の女のくせに、生意気だし、頑固だし、俺とかその辺の妖怪に動じないし、なんか意外と強えし根性あるし…。


───怒った時の顔なんてまさに鬼だしな


その顔を思い出して、少しだけ笑う。あの迫力は確かにすごい。


───笑ってりゃ、ちったあ可愛げがあんのによ


花が咲くような、そんな柔らかな笑顔。不思議なことに彼女が笑うと、心が和らぐのだ。いつもそういう顔をしていればいいのに。

鬼になったり、花になったり、くるくると変わる表情は見ていて飽きない。それに反応もいいもんだから、ついからかってしまう。


「……はあ、」


風によって揺れる木の葉の擦れる音しかしない。静かだ。

以前は一人の時、どのように過ごしていただろうか。
まったく思い出せないということは、つまり記憶にも残らないような過ごし方だったのだろう。


「…つまんねえ」


つい、零れた言葉にハッと辺りを見渡す。


───さっきからかごめのことばかりではないか


ち、違う!
別にかごめが居ないから暇だとかそういうわけではなくて…からかう相手が居ないから……って、だからそういうわけじゃねえんだって!!

自分自身に弁明しながら、ふと思った。



かごめは俺が居ないと暇になったりするのだろうか。



───…会わなきゃ、別にいいよな


こっそりと様子を見るだけならば、きっと怒られないだろう。
俺は井戸の縁に仁王立ちして、暗い底を睨む。


「…べ、べんきょーをちゃんとしてるか確認するだけなんだからな!」


その呟きが言い終わる頃には、彼の姿は既にこちらの世界には居なかった。










――










埃っぽい祠の扉を開き、青い空を仰ぐ。

草木の緑のにおいが香る向こうとは違い、ここでは様々なにおいが入り交じっている。その中から、彼女の匂いを探そうと目を細めた。


───…居ねえ、のか?


彼女の匂いが薄ければ、気配もしない。もしかしたらがっこーに行っているのかもしれない。

さて、どうしたものかと腕を組んだその時だった。かごめの家の方からこちらに近付いてくる女が見えた。


「あら、犬夜叉くん」


「おー…」


かごめのおふくろだった。
以前、対峙するや否や耳を引っ張られるという事故に遭い、この人には苦手意識が先立つ。


「今日は遊びに来たのかしら?」


「い、いや…」


「それともかごめのお迎えに?」


「そ、そんなんじゃねえ!!」


思わず大きな声を出してしまい、ハッとしたときには遅かった。


「あらあら…」


口元に手を宛て、かごめのおふくろさんは俺を見てくすくすと笑っていた。

ムキになってしまったことと、笑われたことに対してカッと頬が火照り出す。


「ふふ、私は今から買い物に行くの。良かったら家に上がって待っててちょうだい」


ね、と微笑まれて気付けば俺は頷いていた。

なんだか、さすが母子というか、優しさを含んでいる笑顔がとても似ている。


「もうすぐかごめも帰ってくると思うから」


そう言って、鳥居の向こうへと歩いていった彼女の母親を見送って、俺は反対側にある彼女たちの家へと向かったのだった。










――










かごめのおふくろは、一体何を作っているのだろうか。家に入る前から漂っていたおそらく夕餉のにおいに腹が鳴る。嗅ぎ慣れないが、食欲を誘うにおいだ。

台所で、しばらくそんな風に鼻をひくつかせていると、その鼻がある匂いを捉えた。


───……なんだ?


香ってくるあまりにも嗅ぎ慣れた匂いを辿ってみる。
辿って、辿って、ある一室に辿り着いた俺は、そこにある扉をそっと開けてみた。


「…、……」


用途は分からないが、何やら可愛らしい小物が陳列している背の高い燭台。柔らかそうな布団が置いてある寝台。大きな窓。

そして、この部屋には、かごめの匂いが満ちている。台所でこの匂いを嗅ぎ取ったとき、ここにかごめが居るかと思った。


「…かごめの、部屋か」


きっと、彼女は帰ってきたときにここで過ごしているのだろう。この部屋全体に彼女の匂いが染み付いている。

ボスンッ、と荒々しく寝台に腰を降ろす。

もうすぐ、とはどのくらいなのだろう。この部屋の匂いのせいで、外にいる彼女の匂いが分からない。


でも、彼女が隣に居るような…、包まれているような……ああ、くそ、なんかよく分かんなくなってきた…。


そんなことを考えたのを最後に、俺の意識はだんだんと遠くなっていった。










――










「ママー、犬夜叉いつ来たの?」


「そうね…30分くらい前かしら」


「そっかあ…」


「ふふ、犬夜叉くん、かごめの迎えに来たみたいよ」


「え……お、怒ってなかった?」


「あら。喧嘩でもしたの?」


「喧嘩…じゃないけど……犬夜叉が井戸を壊そうとするから…怒ってきちゃった」


「…そうなの」


「ん……ちょっとやり過ぎちゃったかなって…気になってて」


「そうね、…後でちゃんと話すのよ」


「うん……あ、そういえばこの前犬夜叉がね───」










階下でそんな会話が聞こえてきた。まだ霞む思考でぼんやりとそれを耳に流し込む。





───……なんでい。あいつも、俺のことばっか話してんじゃねえか…





そんなことをボンヤリと考えている自分に気付き、急激に頭がはっきりした。

ガバッ、と飛び起きると肩からハラリと薄い掛布団が落ちて、思わず苦い顔をする。きっとかごめがこれを掛けてくれたんだろう。

ということは、彼女は一回この部屋に帰ってきたのだ。

気配はおろか、匂いや音にさえ気付かなかったとは。自身の警戒感の欠如に舌を打つ。

そして、いつの間にか横になって寝ていたとは。寝顔をあいつに見られたなんて、不覚だ。一生の恥だ。


「かごめ、犬夜叉くん起こしてきてくれる?折角だからご飯を一緒に食べましょう」


───んなっ!?


「わかった!起こしてくる!」


その言葉と共に、パタパタという軽快な足音がこちらに近付いてきた。


…マズイ。こういう時、どんな顔してりゃいいんだ?


笑う…は無えな。論外だ。
じゃあ怒るか?何に?寝顔を見たことにか?いや、それは無い。
…あ、おすわり連呼しやがったことにしよう!


よし、と口をギュッと結んだ時、先程まで俺に掛けられていた薄い布団が目に入った。

それに、ふと口許が緩んだと同時に開けられる扉。何を言おうとしていたのか、その瞬間に忘れてしまった。


「あ、犬夜叉起きたの?」


その上、かごめとばっちり目が合って、にこりと笑い掛けられてしまえば、もう何も言えないではないか。


「…犬夜叉?」


ああ、もう、なんでもいいから適当に言ってやれ。


「……帰ってくんの遅えんだよ」


適当、のつもりが、口にしてみれば先程考えていたどの答えよりもこれが一番しっくりときて、内心自分に驚いた。


「遅いも何も…まだ3日経ってないわよ」


「……」


それもそうだ。
あまりの正論に返す言葉もなく、言い澱んでいると、クスリと彼女の顔が綻んだ。


「ご飯、一緒に食べよう」















───……そういやこいつ、結局べんきょーしてねえじゃねえか










そう考えながら、俺の前を歩く彼女をムッと睨む。



上昇していく体温は手を引かれているからではなく、怒りのためだと自身に言い聞かせながら。























初期の犬かごは本当に可愛らしいですよね…。私も犬くんが、かごめちゃん不在に「調子でねえ」らしき発言をしたあのシーンが大好きです!!

CaptainOさま、この度は企画への参加、ありがとうございます!

どちらかというと、犬くんの方が気になって仕方ない感じになってますが、気に入って頂ければ嬉しいです…!

それではCaptainOさま、これからもどうぞよろしくお願いします!

ありがとうございました!^^*


20120327


あきゅろす。
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