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捧物
★例えばこんな告白法#


ちのさま/相互記念

犬かご

学パラ





































「ねえ、知ってる?朔真くんって好きな子いるんだって!」


「えー、ショック!だれだれ?」


「なんか他校みたいよ」


「あーぁ、失恋ー」


「あたしもー!まあ、朔真くんって格好いいしねー…きっと可愛い子なんだろーなー」


別に聞く気はなかったけれど。同じクラスの女の子達の大きな会話が耳に入ってしまった。




















『例えばこんな告白法』




















身体を熱が駆け巡ったかと思うと、途端に冷たくて重い何かが心につのっていくのを感じる。


「かごめちゃん…大丈夫かい?」


「あ、…うん、平気!」


すぐ隣にいた友達の珊瑚ちゃんにも、その声は聞こえたはず。心配そうに声を掛けてくれた彼女に笑顔で応じた。


───当たって砕けろ、よね…


何故こんな日に限って、そんなことを知ってしまうんだろうか。
いっそ知らないままだった方がまだ良かった。

というのも、私は昨晩に告白を決意して、彼にメールで放課後少し残ってくれるよう頼んだのだった。

今更何があろうと、彼に想いを告げることに変更はない……けれど、やはり悲しいし、辛い。

鳴り始めた鐘が、本日最後の授業の始まりを告げる。珊瑚ちゃんが席に戻って前を向いたのを確認してから、私は机に静かに伏せた。


――


「頑張っておいでよ」


「うん、ありがと珊瑚ちゃん」


授業内容は頭に入らないまま時は翔ぶように過ぎ、すぐに放課後になってしまった。足取り重く指定していた旧校舎の4階──誰も来ない私の取って置きのスポット──に向かう。


───……………あ、


もう既に彼は着いていて。壁に背を預けて、携帯を片手で弄っていた。


もう、やるしかない。


それに伝えることは恥ずかしいことじゃないし、胸に閉まっておくには想いが大きくなり過ぎてしまった。


「さ、朔真くん!」


階段を登りながら彼に声を掛ける。平常心、平常心、と心の中で呟く。にも関わらず、声は少し震えてしまって。けれど彼には気付かれていないようだった。


「あ?……おう」


「ごめんね、待たせちゃった?」


「や、構わねえけど」


沈黙……。

身体中の血が逆流するような感覚を覚えながら両手を軽く握った。汗ばむ手が、私の鼓動の速さを裏付けている。


ひとつ、長く息を吐いて目の前にいる人を見上げた。

彼――朔真くんは驚くほど真っ直ぐ、真剣な瞳をしていて。


「…………好き、でした」


想いは意外とすんなり口から出た。過去形になってしまったのは、きっと昼間の女の子達の会話のせい。


「あ、あの……朔真くんの恋、応援するから…」


「……」


「相談とか乗るし、えと…頑張って!」


じゃあ、と後ろを向いて階段を駆け降りようとすると。


「……待てよ」


掠れたような低い声に引き留められた。背は向けたままで立ち止まる。そうだよね、ちゃんと返事聞かなきゃだよね、と言い聞かせて小さく「なあに」と呟いた。


「でした、ってどういうことだ」


ズキリと胸が痛んだ。まさか勇気がなくなりました、だなんて言えない。


「現在進行形じゃ…ねえってことか」


背を向けていても、彼の視線を痛いほど感じる。私はふと先ほどの瞳を思い出して………あ、泣きそう。


「…………うん」


だから、嘘をついた。このまま引きずったらきっと彼が困る。


「そうか…分かった」


再び訪れた静寂。それを破ったのは彼の小さな独り言。


「別にな、今まで頑張ってなかったわけじゃねえんだけどよ…、」


「え?」


この静けさでは小さな声でもよく響く。つい聞き返してしまうと、背中越しから彼の困ったような笑みが見えた気がした。


「相談とか乗ってくれんだろ?」


もしかしてそれって、恋の相談のこと?

乗るとは言ったけれど…まさか今ここでなんて…。ちょっとデリカシーの有無を疑う。だんまりを決め込んでいると、しばし間を置いて、今度ははっきりと彼が声を出した。


「日暮かごめってヤツが好きなんだけど、俺」


「…え」


「ずっと、前から」


あまりにも予想外の展開にしばし思考回路が動きを止める。
どういうことなのかさっぱり分からない。答えられず、困惑をそのまま顔に出して振り返ると、そこには口角を微かに上げて、イタズラっぽく笑いこちらを見つめる彼がいた。


「俺と付き合ってくれ、日暮」


涙腺が決壊した。

涙が、溢れて止まない。

けれど。


「…で、も……」


「ん?」


そう、朔真くんには他校に好きな女の子がいて。すごくすごく可愛い子で。きっときっと私なんか比べ物にならないくらいで…でも私のことも好きで……?え、でも他校に…あれ?なんだか分からなくなってきた…


「日暮…?」


「わっ…か……っなぃ……よ、…っ…」


「…落ち着け。何言ってるのか分かんねえから」


ポン、と頭に手を置かれて思わず顔をあげれば。
そこにはとても優しげで、教室では見たことのないような穏やかな表情を浮かべる彼が居て。

ああ、こんな人に好かれる子は幸せだろうなあ、なんて思っていたら、ますます泣けてきてしまった。


「〜〜……っ…」


「…だあ〜……ったく」


彼はそう小さく呻いたかと思うと、次の瞬間には、私の目の前は真っ暗になってしまった。溢れていた涙が目の前の黒に染みては吸収されていく。


「…何がそんなに悲しいんだよ」


彼の声が頭の上から降ってきて。きゅっと心地よい圧迫感を覚えて。はじめて抱き締められているということを知った。


「……だっ、て…ッ」


嗚咽混じりの涙声でそう訴えれば、背中に回る彼の腕が強まった。


「いい。泣き止んでから喋れ」


それまでこうしといてやるから、と言う彼の優しさにまた泣ける。
私はしばらくその言葉に甘えて彼の胸に額を押し付けていたのだった。


――


「……落ち着いたか?」


「…うん」


どのくらいそうしていたのだろうか。詳しい時間は分からなかったけれど、彼の背後にある窓から射し込む夕陽が弱くなっているから、結構長い間彼の胸に居たらしい。


「…もう、大丈夫」


「…そうか」


今更気恥ずかしくなってきて、彼と目を合わせないように俯きながら離れる。


「…日暮」


低くて、よく耳に響くテナーが私の心を震わせる。それが悲しみでなのか、恥ずかしさでなのかは分からないけど。


「……」


私は何も言えず、ただ黙って彼の影に覆われた自分の爪先を見ていた。ジワリと心に沁みてくる痛み。気を緩めてしまえば瞳から想いが零れ落ちそうで。それを唇を噛み締めることで、何とか堪える。


「…現在進行形じゃない、っつってたな」


沈黙を静かに破ったのは彼だった。いきなりモヤモヤの核心を衝かれて、私は更に下を向く。


「ってことは、…」


再度頭に置かれた手。その温もりはポンポンと二回私の頭の上で跳ねて、止まった。


「俺はフラれたってことか」


「ちがっ……!」


違う。そんな筈がない。私は反射的に、顔を、あげてしまった。


「…なんつー顔してんだよ」


彼の苦笑いが滲む。零れそうな涙は、かろうじて堪えた。でも言葉を発せばそれが止まらなくなりそうで、私は再び俯いた。
そんな私を気遣ってくれたのか、彼はもう一度頭を撫でながら、微笑った。


「突然悪かったな。…返事は今すぐに、とも無理に、とも言わねえから」


「……朔真くん」


「だから泣くな。なんかあんのなら言ってくれ」


色素の薄い、灰がかった瞳に見つめられて、私は大きく息を吐いてから口を開いた。


「……好きな人がいるんでしょ?」


「…は?」


「他校の…可愛い女の子…」


「ああ、その話か」


途端にクスクスと笑い出す朔真くん。何が可笑しいのだろうか。私は細められた灰色の瞳から目を逸らさぬよう、真っ直ぐ彼を見据えた。


「嘘だぞ、それ」


「……え」


「あー…前にやたらまとわりつくしつけー女が居てよ。面倒くせえから、はったりかましただけだ」


「え…そう、なの……」


「バカ、俺はこんなことで嘘なんか吐かねえよ。…つか、んな噂気にしてたのか」


バカだな、と笑う彼につられて私も初めて、少しだけ笑えた。もう一度頭に置かれた手が優しくて。私は目を細める。


「ホント、バカだな…」


「え? ゎ……」


一瞬で間を詰められたかと思うと、黒い学ランで身体全体が包まれる。先ほどは感じなかった彼の匂いが、胸を締め付けた。


「好きだ、日暮」


「……っ」


「……好きだ。不安なら何度でも言ってやらあ」


息苦しくなっていくのは、彼の腕の力が強くなっていくせいだけではないのだろう。


「……私も…好き」


「…ああ」


少し身体を離されて、二人、見つめ合う形になる。沈みゆく夕陽を背負って穏やかに笑む彼は格好いい、というより綺麗だった。

その瞳に、吸い込まれゆく錯覚さえ覚える。ぼおっとしばし灰色の瞳を見つめていると、彼の端正な顔が近付いてきた。


───え、…これって……キ…す……!?


長い睫毛の下に隠された灰色の瞳、いつの間にか頬に宛がわれた角ばった手、傾けられた顔、私の煩い心臓。


「ぁ……や…っ!」


「!」


ドン、と両手に感じた手応えと、開けた視界。ハッとなって前を向くと、呆然としたような朔真くんが佇んでいた。


「あっ、ち、違うの!これは…えと……い、嫌なんじゃなくてっ!」


「……」


慌てて弁明するも、好きだと言ってくれた想い人を突き飛ばしてしまった自分がひどく滑稽で情けなくて。というか、あんまりだ。


「…日暮、おま」


「っ違うの!本当に嫌なんじゃなくてっ!…びっくりしたというか…ここ心の準備が出来てなかったっていうか…っ」


「…や、可愛いな」


「だから嫌いにならな……へ?」


ニヤリ、と悪そうな笑みを浮かべている朔真くんがそこにいた。


「思ってた以上に純情だな、お前」


「ばっ、バカにしないで!」


「してねえよ。…ふーん、そうか」


黒い笑みはそのままに、私の前に立ちはだかった彼に思わず身を竦める。


「しねえから安心しろよ。……まあ、」


「わっ」


小突かれた額。
非難がましく彼を見上げると、なんだかとても楽しそうな顔をしていた。


「いずれお前からしたくなるようにしてやるさ」


「な…ッ!?」


たちまち、かあっと全身に巡った熱。そんな硬直してしまった私の手を握って、軽く引く彼。


「さ、帰るぞ、日暮」


優しかったり、黒かったり、格好良かったり、意地悪だったり…

どうやら、私は、とんでもない人を好きになってしまったようです。


「日暮。…早く来ねえと口付けすんぞ」


「いっ、今行くから!」


それでも、私はこの人をもっと好きになってしまう、…そんな気がした。























ちのさまに捧げます。

この度は相互リンクをさせていただきありがとうございました!

『例えばこんな告白法』は以前ブログの方に載せた思い付きネタだったのですが…続きが読みたい、とのリクエスト!!もう、とても嬉しかったですっ!(>_<*

ブログに載せた方にも少々手を加えまして、そして犬くんを黒っぽくさせていただきました!気に入って頂ければ光栄です(*^□^*)

それでは、素晴らしい機会を頂きありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いします!!(>v<*

ちのさまのみ、お持ち帰り可能です。

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あきゅろす。
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