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捧物
★そのワケを教えて


雪桜さま/相互記念

夫婦犬かご



























それは、薬草摘みが終わった後の散歩がてらの帰り道。

一人木漏れ陽の中、目を細めながら歩いていると、ふと村の方から気配を感じてその場に立ち止まる。


「かっごめ〜っ!!」


そして聞こえたのは懐かしい声。


「鋼牙くん!久しぶり!」


鋼牙くんに手を振れば、辺りの風を巻き込みながら彼は私の前に立ち止まる。ふわりと初夏の香が漂った。


「っじゃ、また後でな、かごめ!」


くしゃ、と私の髪の毛を撫でたかと思うと再び風を巻き上げて私の前方に広がる草の茂みに消えた。


「かごめーッ!!」


と同時に現れたのは犬夜叉。久しぶりに見るものすごい形相だ。驚きながらも何事かを尋ねると。


「鋼牙の野郎に変なことされなかったか!?」


…だそうだ。


「されないわよ、そんなこと。頭を撫でられたくらい」


くすくす微笑いながら、怒っている彼にそう答えると、くしゃりと髪を掻き撫でられた。


「先に帰ってろ、すぐ戻る」


鋼牙くんが消えた方向に、彼もまた走っていった。

どうやら二人で仲良く追いかけっこをしているようだ。そんな彼らが行った先を眺めてから、私は昼食の支度をしに家へと向かった。



















『そのワケを教えて』




















「あら、おかえりなさい」


ムスッとした犬夜叉と、ニコッと私に笑い掛けた鋼牙くん。二人ともあれからしばらく追いかけっこをしていたみたいだけど、一切呼吸が乱れていない。流石、とも言うべきかな。


「二人とも疲れたでしょ。お昼にしましょ」


「かごめの手作りかっ!食う食う!」


心底嬉しそうな表情をする鋼牙くんに思わず頬を綻ばせていると、不機嫌そうな声が彼の背後からした。


「…お前に食わせるかごめのメシはねえよ」


「犬夜叉、心が狭いこと言わないの」


そう宥めていると、そうだそうだと言わんばかりに鋼牙くんが犬夜叉に挑発を掛ける。


「はっ、犬っころは犬っころらしく大根の尻尾でもかじってな」


「な゛…ッ!」


「鋼牙くんもそういうこと言わないの!」


私の注意さえ無視してギャンギャン言い合いを始めた彼らに眉の端がピクリと動くのを感じた。
私は、すう、とひとつ大きく息を吸う。


「──…二人ともお昼お預けにするわよッ!!!」


組み合っていた状態で制止してこちらを見上げる犬夜叉と鋼牙くん。きょとんとした瞳をしている彼らをキッと見据えると、二人は同時に居心地悪そうに顔を顰めて佇まいを正した。

まったくもう、と口の中で呟いてから私は大きな溜め息をついたのだった。


――


「じゃあ俺はそろそろ帰るぜ」


ご飯を食べ終わってすぐに鋼牙くんがそう言って席を立った。簾を上げて外へ出ていく彼の後を追うと、犬夜叉も悪態をつきながら私の後ろに付いてきて、彼に声を掛ける。


「断り入れる暇があったらとっとと帰りやがれ」


コラ、と犬夜叉をたしなめながら、もう少しゆっくりしていけばいいのに、と言えば苦笑を返された。


「居てえのは山々なんだけどな。っま、群れの頭ってヤツは大変なんだよ」


「そっか…またいつでも来てね」


「ああ、かごめがそう言うんならいつでも来るぜ」


「もう来んな」


「あ?「もう行っちまうのか」じゃねえのかよ、犬っかろ」


「…──ッ!!?」


見る間に険しくなっていく犬夜叉。それを涼しい顔で眺めながら、鋼牙くんはニッと口角をあげた。


「ばーか、またすぐに来っから心配すんなよ」


「誰もんな心配してねえよッ!!二度と来…ん゛なッ……」


「それはそうと、かごめ!」


ドンと私の横にいる犬夜叉を突き飛ばして、鋼牙くんは私の手を握った。
私の斜め上にある彼の顔を見上げながら、ふと三年前より背が伸びたのかしら、なんて思う。
最近、こんな些細なことに時の流れを感じてしまうのだ、私は。


「飯、美味かったぜ。かごめも俺ン所遊びに来いよな」


「うんっ、分かった」


そう言って微笑めば、彼の蒼い相眸が優しげに細まって。


───でも、強気で自信満々なこの目は変わってないなあ…


そんなことを思いながら、彼の目を見つめ返していると僅かに彼の手を握る力が強くなった、気がした。

それを確かめる間もなく離れたのは彼の手の温もり。


「じゃあなっ!今度は何か持ってくっからよ!!」


こういうところも変わっていない。それが何となく嬉しくて。衣の裾が上がって捲れるのも気にせず、私は大きく手を振った。


「ありがとー!ばいばーい、気を付けてねーっ!」


彼が起こした細い風が収まるまで見届けてから、後ろを振り返れば。じとっとした黄金色の瞳が私に向けられていた。

私はそれに気付かないフリをしてそんな彼に笑いかける。


「鋼牙くん、相変わらずよね」


「…鋼牙に甘えお前も相変わらずだよな」


「…一番相変わらずなのはあんたよ」


もう、と苦笑しながら小屋の中に戻る。


「なあに、まさかと思うけどヤキモチ?」


「……別に」


ああ、この口調にこの態度。三年前と同じ、鋼牙くんが去った後の彼のお馴染みのもの。やっぱりこの人は昔から変わっていない。


「犬夜叉、私たち今は夫婦なのよ」


空になった器を片付けながら犬夜叉に話し掛ける。返ってくるのは無言だけれど、先程から忙しなく動いている耳を見て、私は笑いを堪えながら続けた。


「今も、昔も…私が好きなのは犬夜叉だけよ。ずっとそう。これからだってずっと」


そんなに信用ないの、と呟くと彼の耳の動きがピタリと止まった。それを横目で見ながら、水を張っていた盥(たらい)に器を入れていく。


「だからヤキモチ妬く必要なんてどこにもないのに」


クス、と笑みを溢しながら後ろに居るであろう彼に声を掛けていると、突然後ろから引き寄せられた。


「わっ!」


倒れる、と反射的に目を瞑るけれど予想していた感触に反して、慣れた温もりに支えられていることに気付く。


「信用してないわけじゃねえ」


後ろから抱き締められて、ボソリと呟かれたそれほど大きくない声。だけどそれは私の身体に甘く響き渡るには充分で。


「かといって目を瞑ってるわけにもいかねえ」


犬夜叉の腕の力が強まる。ドキドキと鳴る胸が、苦しい。何か言おうと口を開いたけれど、私より先に彼が言葉を紡いだ。


「…ずっと言おうと思ってたんだけどな」


「え…?」


すぅ、と彼が息を吸ったのを耳が聞き取る。一拍置いてから言われたのは、


「俺らが言い合い始めたらお前はすぐ俺には言霊使って鋼牙は何のお咎めも無しに逃がしやがって!!甘い顔し過ぎなんだよ、あの野郎に!!」


凄まじいほどの文句だった。


「大体なあ、お前があの野郎に優しくすっから調子に乗んだよ!!いい加減止めろ、お前は!」


「……ねえ、」


「なんでい!」


犬夜叉の腕の中で身体を半回転させて、彼を見上げて、少しだけ微笑む。


「……ヤキモチ?」


「…だったらどうした」


「私、信用ない?」


不機嫌そうに眉を顰めている彼に再度同じ質問をしてみた。途端に渋い顔をし出す犬夜叉。


「…あのな」


「なあに?」


蜜色の瞳が細まった。それは心底呆れた時の表情。私はそんな犬夜叉の顔をじっと見つめ続ける。

すると突然、まるでごく自然な流れのように彼は私の額に口付けをした。


「へ…っ!?」


たちまち火照る頬。口から出るのは言葉にならない声。そんな私を上から見つめるのは黄金色の甘い瞳。それは、夫婦になって初めて知った彼の表情のひとつ。


「…そーゆー反応も、」


「!」


す、と背中に手を宛がわれたかと思うと私の背中の線に沿って腰までなぞられる。


「このちっせえ身体も、」


「い、いぬやっ…!」


呼び掛けた彼の名は、半ば強引に引き寄せられて緋色の衣へと消えた。


「お前のあったかさもだな、」


彼の腕の力が強くなる。けれど息苦しいのはそのせいなんかじゃなくて。


「…誰にも、知られたくねえ。……触られたくねえんだよ」


「…犬夜叉」


「特に、鋼牙なんぞには」


「…」


「ヤキモチだあ?…妬くに決まってんだろうが。……俺は、──」


途切れた言葉。訪れる沈黙。私が感じるのは、だんだん速くなっていく自分の鼓動と、犬夜叉の鼓動。そんな自分の内側とは対称に、私はそっと目を閉じて、静かな期待を抱き、彼の言葉の続きを待った。


「…………」


「……」


「……あー、…その……」


「……」


「…そ、そういうことだ!」


「ええ!」


思わず、顔をあげてしまった。


「な、なんだよ…」


「なんだよ、じゃないわよ…」


何を言ってくれるのか、ちょっと期待してたのに。


「か、かご」


「ううん、そう、期待した私が悪いの」


「ちょ、待」


「あ、なんでもないからね、犬夜叉」


私はスルリと彼の腕をすり抜けて、もう一度盥の方へと向かった…のだけれど、


「……ちょっと」


またもや洗い物を彼に阻まれてしまった。腰にがっちりと回された逞しい腕が今はちょっと憎たらしい。


「…犬夜叉、私洗い物しなくちゃいけないから。離し──むぐぅ!」


「お前ちょっと黙ってろ」


口に宛てられたのは、彼の大きな手。ムッと後ろにいる彼に視線だけで抗議をすると、それに気付いたのか手は離してくれた。

何か文句を言おうと開いた口。でも私がそこから言葉を発する前に、犬夜叉がボソッと何かを呟いたのを聞き逃さなかった。


「…………き、だ…」


「え?」


「………好き…、なんだよ…」


「!」


「…ったりめえだろ…好きだから……妬くんだろうが」


「いぬや…」


「言っとくがな、…俺はお前が嫌だっつっても妬き続けるからな」


覚悟しとけ、なんて甘く強く囁かれたら。…やだ、嬉しくて仕方ないじゃない。


「犬夜叉……」


「…ん」


「…覚悟、しとくね」


そう言ってお腹の前で交差する彼の腕に、自分の手を重ねた。一拍置いて、強まった犬夜叉の腕。


「上等」


柔らかだけど、何処か強気な彼の声を聴きながら、私は洗い物をすることを諦めて、彼に抱き付いた。そして、そんな私に何も言わず抱き締め返してくれる犬夜叉。

鼓膜を揺らした彼の告白は、私の頭と耳と心からしばらくは消えそうに無かった。























雪桜さまに捧げます。

この度は相互リンクをさせていただきありがとうございました!

鋼牙くんとの三角関係、ヤキモチを妬く犬夜叉、とのリクエストでしたが、おいしかったです!とても!

いつまでも犬夜叉にはヤキモチを妬いていて欲しいなあ、という気持ちも織り込みながら書かせていただきました!

しかしリクエストに沿えてない気がしまして…現在ドキドキしています…

それでは、素晴らしい機会を頂きありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いします!(>_<*

雪桜さまのみ、お持ち帰り可能です。


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あきゅろす。
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