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捧物
★幸せなため息



夜華さま/相互記念

犬かご











































初めの頃は目につくもの全てに警戒をしていた彼も、徐々にこちらの世界に慣れてきているようで。


「ただいま」


「おう」


学校から帰ってくると炬燵でTVを見てくつろいでいた。


『幸せなため息』


「おふくろさんなら買い物に行ってるぞ」


「じいちゃんは?」


「近所の会合だとよ」


草太はこの時間ならまだ学校だ。
それにしても、と犬夜叉を見る。帰宅した私の方も見ずにTVの方を向いて話しかける彼。そんなに面白いものでもやっているのかとTVに目を向ければ。


「あんたコレ…昼ドラじゃない」


しかもものすごいドロドロの。私も詳しくは知らないけれど、確か浮気・愛人・三角関係などの言葉が飛び交って一時期話題になったやつだ。

こんなの面白いのかなとも思ったけれど、がっつりと食い入るように見ている彼が珍しくて、私も興味をひかれて炬燵に入った。

が、15の私にはとてもじゃないけれど直視出来るようなものじゃなくて。

私は見ていられなくて、堪らず彼に話しかけた。


「…ねえ、面白い?」


「面白く、はねえけど…」


そこで黙り込んでしまった彼。続きを促そうと口を開けたとき、


[あ、だっ…だめ……んんっ]


「っ!?」


「……」


かなりそういう感じのキスシーン。しかも濃厚な。


とうとう私は床に倒れ込んでしまった。もう見ていられない。しかも好きな人とこんなもの……。ふと彼を盗み見してみれば気まずげにTVから視線を逸らしている。

気まずい沈黙。

と、女の人の甘い声。

それからどのくらい経っただろうか。ウ゛ンッという電化製品特有の音がして部屋が突然静かになった。
更に気まずい。


「……なあ、」


気まずい沈黙を気まずい感じで破ったのは犬夜叉だった。

私はというと、あまりの気恥ずかしさに顔に熱が昇ってしまっていて。こんな顔を見られたくはないと固く目を瞑って、狸寝入りを決め込んだ。


「……かごめ?」


そう尋ねてくる犬夜叉。聴こえないフリをする私。こちらを窺うような気配を感じていると、突然彼を取り巻く空気が動いた気がした。

キシ、と私の耳のすぐ近くで畳が鳴った。同時に瞼の裏に影が射す。どうやら何かに光が遮られたみたいで。
それが何か確認したかったけれど、ここで目を開ければ狸寝入りがバレてしまう。頑なに目を瞑り続けていると。


「…かごめ、」


想像以上に近い距離から聞こえた犬夜叉の低く掠れた声。初めてそんな彼の声を聴いた私の心臓はドキンと跳ね上がった。

この鼓動が、聡い彼の耳に入らないかと不安になりながら、必死に寝顔を繕う。その時、ふと彼の吐息を感じた。

次いで鼻に何かの感触。

そしてすぐに離れていった何か。

思わず、目を開けた。


「なっ……!?」


「え……」


目の前に、本当に至近距離に彼の黄金色の瞳が揺れているのが視界に入った。そして、一拍遅れて真っ赤になっていった彼の顔も見えた。

もしかして。

今、あんた……


「く、くく口付けしようとしてたの…っ!?」


ぐむ、と喉をくぐもらせて呻きながら更に赤くなる犬夜叉。嘘でしょ。あんたが…、奥手すぎて鈍感でムードのむの字も分かってなかったようなあんたが、キスなんて。


「て、てめ…ッ!騙しやがったな!」


寝てたんじゃなかったのかよ、と反論してくる犬夜叉。


「な、なによ!あんたは誰かが目の前で寝てたら口付けしようとするわけ!?」


「バカ、んなわけねえだろ!!」


ムッとお互い相手を睨みつける。けれど、二人とも真っ赤だし、犬夜叉が私を覆うような体勢だし、気まずいしで、口喧嘩はすぐに収まった。


「……その…よ…」


「………なに?」


「…い、……嫌だったか」


そんな顔でなんてことを言うのだ、この人は。

視線が絡むのを避けながらか、やや伏し目がちな甘い蜜色の瞳。普段の態度から掛け離れているほど遠慮がちな口調。更に更に頬を朱色に染めていて。

あまりに破壊力のある色っぽさに、本当にクラリときた。


「そ、……そんなこと……ないけど…」


私も私だ。自分は一体何を言ってるんだろう。

でも、かろうじて残っていた理性も目の前に居る人によってあっさり打ち砕かれた。


「…もう一回、……していいか」


眉根を少し寄せて、請うような声音とは裏腹に彼の瞳は強くて甘い光をたたえていて。


「……ん、………いいよ」


その目を見つめ返せば、ホッとしたように微笑まれた。私の顔の横で再び畳が鳴って、彼の顔が近くなる。


「…目、瞑れ」


脳内に直接流れ込んでくるような甘い声。言われるがままに目を閉じれば、触れてもいないのに彼の熱が伝わるようだった。


そんなことにさえクラクラしていると、唇に柔らかい感触。けれどそれは口の端に触れていて。

離れていくのと同時に目を開けると、渋い顔をした犬夜叉がいた。ちなみに相変わらず頬は赤い。


「…下手くそで悪かったな」


「…私、何も言ってないじゃない」


実際私だって初めてなのだ。呼吸の仕方さえも分からないのに、正しい方法なんて分かるわけないじゃない。


「……分かった、もうしくじらねえ」


「へ…ゎ、」


突然グイ、と身体を起こされ勢い余って犬夜叉の胸に倒れ込んでしまった。


「い、犬夜叉…」


「嫌なら言え」


「そんな…」


ズルい。そんな顔で言われて断れるわけないじゃない。……嬉しいけれど。


「…嫌じゃ、ない……」


そう答えて、俯いた。
とてもじゃないけどこんな顔、見せれるものじゃない。


「…おう」


そんなささやかな抵抗も虚しく、両頬に手を添えられて上を向かせられる。


「…すげえ赤いぞ、お前」


「……あんたのせいよ」


「そうだな」


少し愉快そうに肩を揺らして、スッと目を細めた犬夜叉。それを見て私も目を閉じれば。


「っん…」


思わず、吐息が漏れた。

私の唇の輪郭をなぞるようにゆっくりと指で撫で上げる犬夜叉。息が詰まって、喉の辺りが痛い。


「…鼻で息しろ、鼻で」


ありがたいアドバイスをくれた彼に感謝して、素直にそれに従った。

それでもドクドクと鳴り止まない鼓動は身体をどんどん熱くさせ、息をどんどん上げさせていく。

彼の手の温もりを頬に感じていると、顔が少し傾けられた。

間を置かず、唇に、熱。


───…ゎ、あ……


ぴったりと重なった唇。最初は触れるだけだったキスが、徐々に二人の間の隙間を埋めるような口付けへと変わっていく。

長い。

息の仕方も忘れてしまうほどに。

頭の芯が溶けてしまう錯覚を覚えるくらい、私は彼の口付けに酔ってしまった。

重なっているだけなのに、もうどうしようもなく息苦しくていとおしかった。


───犬、夜叉……


心の中で彼の名前を呟いたとき。


「ただいまー!」


ズザッ


玄関で聴こえた草太の声に、二人して同時に離れて明後日の方向に目をやる。


「あれ、ねーちゃんと犬のにーちゃん……何やってんの?」


「な、んでもないわよ!…さ、勉強してこよっかな!」


「お…俺は蜜柑でも食うかな」


「誰も聞いてないよ、そんなこと…」


変な二人、と訝しげな視線から逃げるように私は居間からそそくさと出た。

自室へと向う階段をあがっていく途中、ふと思い立って自分の唇に触れてみる。

当たり前だけれど、自分の指とは異なる彼の唇の感触を思い出した。

熱くて、想像以上に柔らかくて、ちょっと戸惑いがちな、そんな彼の拙いキス。

最初、鼻同士がぶつかったことを思い出して吹き出してしまった。

なのに先ほどのキスといったら…男の子っていうのはそういうものの習得が速いのかしら、なんて変なことに一人首を傾げる。


───そういえば、ファーストキスだわ……


そんなことを考えて、再び顔に熱を昇らせ、同時に蘇るのは彼の温もり。

しばらくは勉強に集中できそうにない、と私は大きくて幸せな溜め息を吐くのだった。







夜華さまに捧げます。

この度は相互リンクをさせていただきありがとうございました!

手馴れている犬夜叉もいいですけど、鼻がぶつかるような初々しいキス…いいですよね、萌えます笑

犬くんはかごめちゃんといい雰囲気の時は耳も鼻も利かなくなっているだろう、という妄想も織り込ませていただきました!(´`*

少しでもニヤリとして頂ければ光栄です!

それでは、素晴らしい機会を頂きありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いします!(・ω・´*)

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あきゅろす。
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