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捧物
☆きみに抱く想いは#
































「……なあ、あの巫女さん」


「やべぇ、超可愛いじゃんっ」


……ムカつく。

何がって、俺ら…というかかごめを見ては耳打ちをし合う奴等の視線がムカつく。そんな目でコイツを見るなコイツについて話すな。イライラする。ムッと一瞥くれてやると何事もなかったように目を逸らされた。


「犬夜叉、どこに行こうか」


唐突に斜め下からにこっと笑顔でこちらを見上げられては不機嫌を隠さざるを得ない。コイツとは恋人である俺もこの笑顔には勝てないのだから他人なんてイチコロなのだろう。妙に、納得した。


「そーだな…行きたいところとかあるか?」


「特には…かな」


「じゃあ俺ン家、来ねえか?」


これ以上、お前を俺以外の男の前に晒したくない、なんて。


「犬夜叉の家?いいの?」


無邪気にそう聞き返してくるかごめ。なんとなく、自分の醜さが浮き彫りになるように思える。けれど、


「一人暮らしだから良いも悪いもねえよ。それに元々来るつもりだったんだろ」


それでも、胸の奥から突き上げてくるジリジリと焼けそうな焦燥感にも似たような感情。行きどころを無くしたそれは胸に鬱陶しいほど燻り続けて。改めて自分の独占欲の深さを知った。


「じゃあ行こうかな」


ありがと、と言われた言葉を聞き終わる前に俺はかごめの手を取った。ただ、今は触れたかった。
それは先ほどの髪の毛同様冷たくなっていて。
驚いている彼女のことは気にしないフリをして、その手を握ったまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。


「あったけーだろ」


「…うん」


彼女の頬や耳が赤いのは、外気に晒されているからなのか、それとも。急に大人しくなってしまった彼女に含み笑いをしながら、二人で寒い路を歩いた。


――


「わ、意外とキレイ」


「意外とは余計だろーが」


年末年始することがなくて一応掃除をしていたのだ。まあ、彼女が過ごしやすいと言ってくれているからでもあるのだが。ソファーに座ってくつろいでいる彼女に台所から声を掛ける。


「なんか飲むか?」


「ううん、口紅してるから遠慮しとく」


「ああ、そうだったな…」


妙に落ち着かないのはそのせいだった。いつもとは違う少し大人びたかごめ。よくよく考えてみれば俺の家と提案したのも、


「ねえねえ、似合ってる?」


人懐こそうに寄せてくる笑顔を誰にも見せたくないからだなんて。なんだか今更だけどすっげえ幼稚な独占欲。


「巫女姿か?」


「…やっぱり変かな」


途端にしょんぼりするかごめ。おいおい、誰もおかしいなど言っていないだろが。たまに変な方向にネガティブになるのだから、と苦笑した。


「その姿、なんつーか…すっげえ自然体」


「自然体?」


「ん、…似合ってる」


柄じゃない言葉が思いがけずすんなりと出てきて。ハッとそれに気付いた瞬間、顔に熱が昇るのを感じた。と同時にかごめも頬を紅潮させていくのが見えて。


「…自分で言った癖に照れてんのか」


「だ、だって…犬夜叉がそんなこと言うと思わなくて…」


彼女は自分が履いている緋袴と同じくらい顔を真っ赤にして、俯きながらゴニョゴニョと口籠る。

そんな姿さえも俺の独占欲の火種になるんだ、と頭の片隅で思いながら彼女をそっと抱き寄せた。


「…褒めてくれてありがと」


「……こんなの褒めた内に入んねえよ」


「……それ、口説き文句?」


「さあな」


彼女の耳元で少しだけ微笑って腕の力を強めた。俺の胸に顔を埋める気配がして愛しさが増す。

ホントは口付けのひとつでもしたいのだが、それで紅が取れてしまえば目敏い弥勒あたりが気付いてしまうだろう。


「…はぁ」


「犬夜叉?」


「や、なんでも…」


そんな俺を訝しげに思ったのか、顔をあげて俺を見上げたかごめを見た瞬間、言葉が途切れた。


「…お前ってヤツは」


「え、なに?なになに、どうしたの?」


あまりのタイミングの悪さ…いやタイミングの良さに思わず溜め息が出た。自分のインナーの胸元を見てみれば案の定。紅い跡が掠れて付着していて。


「お前、…俺の胸に顔押し付けたろ」


「へっ…」


ボッと耳まで真っ赤になってしまった彼女に苦笑いを落とす。きっとその時に唇が俺の服に掠ったのだろう。そのせいで彼女が付けていた口紅が半分剥がれてしまっていた。


「…忘れてたわ」


「……あのな」


「ご、ごめんね…それって洗ったら落ちるのかな」


そっちの心配かよ。まあ、こういうことに疎い彼女らしいっちゃらしいのだが。
慌てる彼女の髪の毛を撫でながら俺は神社に残っている野郎共にからかわれることを覚悟した。


「残ってるやつも取るか?」


「え…うん」


それを了承の言葉と受け取り、静かに唇を合わせた。少し苦い口紅特有のにおいが鼻を掠める。

しばしそのにおいと唇の感触を感じて、重ねた時と同様に静かにかごめから離れた。彼女の口元に少しだけ残っている紅は親指で拭い取る。


「…犬夜叉、唇紅い」


「あ?そうか?」


ぺろっと自分の唇を舌で舐める。口紅の味がした。


「……なんだか、…犬夜叉色っぽい…」


「は?」


これでもか、という程顔を赤らめてそう呟いたかごめに理性の糸が揺らいだ。お前は俺に襲われたいのか、っていやいやいや…
心の中で首を横に振って自分を律する。


「今のお前に言われても説得力ねえよ」


「…なんか発言も弥勒さまじみてるし……」


「…すんげえ嫌だ、それ」


思いっきり顔を顰めるとようやく彼女がいつものように笑った。


「…そろそろ行くか」


本音を言うと、まだ二人で居たいし行きたくないのだけれど。彼女の家の事情だ。時間は守らなければ。


「…ん」


そう言って黒い羽織を肩に掛けたかごめを見ながら俺もコートを着る。


「あ、そうだ!」


ねえねえ、と玄関で袖を引かれて靴を履きながら振り返れば、そこにはとびっきりの笑顔があって。


「今年もよろしくね、犬夜叉!」


ああ、やっぱりコイツをこのまま人目が着くところに連れていきたくない、なんてバカなことを考えながら、俺はもう一度彼女を抱き締めた。


――


日暮れが近い。

午後の陽射しはいつの間にか夜の色を含んでいた。そんな中、二人で神社に向かって歩いていく。


「寒くねえか」


「ちょっとだけ」


「早く言えよ…ほら、手ェ貸せ」


来るときと同じようにポケットに彼女の手を誘えば、嬉しそうに手を重ねてくれる。空いているもう片方のポケットに手を突っ込んだとき、ふと手に何かが触れた。


「あ、」


「なあに?」


思い出した。確かあのままポケットに入れたままだった。


「なあ、手出してみろ」


「? はい」


握っている手とは逆の方を差し伸ばされて、俺はそれを彼女の手に置いた。


「これ、やるよ」


「!!…〜っい、要らないわよバカ!」


「そう言うなって、ホラ」


「だって…っ私が持ってたら変じゃない!!」


「バカ、俺が持ってたらますます変だろーが」


嫌がる───と言っても顔を真っ赤にしているけれど、───彼女に無理矢理それを握らせて、文句の嵐から逃れるべく俺は足を速めた。



後日、かごめがそれを机の引き出しに厳重に保管していることを知った俺は盛大に吹いたのだった。



鍵つきの机の引き出しの奥の奥。彼女が大事そうにしまっていたのは、赤色の可愛らしいお守り。







華さまへ

この度は企画への参加、またリクエストありがとうございます!!

もう「年末年始」とは言えない時期になってしまったことをお詫びします…m(__)m


パロディでも可とのことでしたのでそちらの方に致しました!
以前、華さまに捧げたものより甘めにしようと奔走していたのでしたが、いかがだったでしょうか?(^^*

犬くんは独占欲が強いだろうなあとおいしいリクエストにニヤニヤしつつ書かせて頂きました!笑

あと、なんだかイケイケどんどーん!雰囲気が漂う犬くんになりましたが、気に入って頂けると光栄です!

それでは最後に、華さまにとってよいお年になりますように!
(*^□^*)

ありがとうございました!*

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