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捧物
☆きみに抱く想いは#


華さま

企画☆捧げ物

学パラ犬かご





























新年を迎えた朝、──と言っても太陽は完全に昇っているし、どちらかというと昼に近い時間帯なのだが。

軽く食事を済ませ、身仕度をしてから俺は外に出た。

1月1日である今日は彼女の家が大忙しらしくて。まあ、神社だから当たり前なのだけれども。とにかく近所の人が深夜から夕方にかけてひっきりなしでお詣りに来るらしい。


「…かごめのヤロー……」


それなのに年末、「絶対に来ないでよ」と言われてしまって。地味にショックを受けた俺は、嫌がらせ2割、会いたい気持ち8割を抱えて彼女の実家──日暮神社へと向かうのだった。


『きみに抱く想いは』


というか、だ。「来るな」と言われた意味がいまいち分からない。忙しいからという理由ならそう言ってくれればいいのに。

そして禁止されたことに興味を持ち、それを実行してしまうのは悲しい人間の性なのだ。

一体彼女は何を隠しているのだろうと想像しながら、日暮神社へと続く道を速足で歩く。

時間も暖かい時間なのでたまにすれ違うのは着物姿の女や、カップルばかり。はやる気持ちを抑えつつ、参拝者に混じって長い石段を登っていく。
あともう少しというところで上からさも嫌そうな声が降ってきた。


「げ、」


「?」


聞き覚えのある声に顔をあげるとそこには。


「てめっ…んだその格好は!!」


「チッ…何来てんだよお前はよ」


不機嫌そうに舌打ちをかまして俺を見下す蛮骨が居た。しかもその姿は白衣に黒い羽織といった、まるでどこぞの神社の従業員のような格好。


「かごめに来ンなって言われてねーのかよ」


「ぐっ……」


「約束違反じゃあねえか。オラ、とっとと帰れ」


しっしっ、と俺に向かって手を払った後に鳥居の向こうへ歩いていく蛮骨。そこではたと気付いた。


なんでお前がそれを知っている。


てか、どうしてお前は来ても良くて俺はダメなのだ。


「やいコラ、蛮こ……」


勢いよく残りの石段を駆け登ってみれば。


「な…っ」


参拝者の相手をしている巫女や白衣の男に知りすぎている顔が並んでいた。

いつものメンバーである、弥勒に珊瑚、鋼牙と蛮骨…てか、勢ぞろいじゃねえか。

そして神社の境内の近くでお守りなどを売っている巫女姿のかごめも見つけた。

そちらに向かおうとしたとき、突然袖を後ろから引っ張られる。振り返ればいつの間に来たのか、苦笑い気味の弥勒が居た。


「…これはどういうことでい」


「所謂ボランティアですよ、犬夜叉」


「ほぉー、みんな仲が良くて結構なこったな」


「落ち着け話を聞けそう睨むな、これは…」


「いい。かごめに聞く」


理由を話そうとする弥勒を振り切って、境内へとドカドカ歩いていく。後ろから非難がましい盛大な溜め息がしたが、聴こえなかったことにした。


――


「ありがとうございましたー」


にこっ、と俺の前に居たカップルにピンク色のお守りを笑顔で渡したあと、こちらに顔を向けたかごめは、表情を固まらせた。


「…どのようなお守りをお探しですか?」


形の整った柳眉をぴくつかせながら引きつった笑顔で俺に尋ねる彼女。

あくまで売り子と客という態度を取るらしい。ならこっちだってそう接してやらあ。


「そーだな…巫女さんが好きな色は何ですか」


「? …赤、ですけど」


「じゃあこれで」


俺が差し出したお守りを見て、彼女は一瞬キョトンとし、たちまち顔を真っ赤にした。


「っ、500円になります!」


「あー、あと」


下からこちらを睨み付けてくるかごめの方に身を乗り出して、真っ赤な彼女の耳元に口を寄せる。


「後でお前の時間を俺に寄こせ」


はあ、と諦めたような溜め息が聞こえて内心ニンマリと笑う。

あとでね、と口パクで小さく俺に告げたあと、次の客に向き直るかごめ。そのぎこちない笑顔に少し気が晴れて、俺はその場から離れた。

手ではクルクルと安産祈願のお守りをもてあそびながら。


――


「来ないでって言ったじゃない」


それからかごめが俺の元に来たのはそう時間が経たなかった。


「俺は来ちゃダメで他の奴等なら良いのかよ」


「違うわよ、…もしかしてそれで拗ねてるの?」


「別に拗ねてねえよ」


「拗ねてるじゃない」


ムッとお互いしばし黙り合うが、今度は先に俺が折れた。新年早々かごめに会いに来て怒らせるなんて子供過ぎる。


「…悪かったよ。会いたかっただけだっての」


「え…」


「なのに来てみりゃ俺はハブじゃねえか。ちょっとくれえむくれてもいいだろ」


「…あ、うん……ううん!こっちこそ内緒にしててごめんね」


「内緒?」


顔をあげればがっくりと肩を下げて、申し訳なさそうにポツリポツリとかごめが言葉を紡ぐ。


「本当は今日の夕方に犬夜叉の所に行こうと思ってたの」


「俺の、家に?」


「うん。…でも家の仕事があるから会えないかもって珊瑚ちゃんに話したら、それなら手伝うよって言われて」


なるほど。あとは想像がつく。大方その話を聞いた弥勒も参加したいだとか言って、鋼牙と蛮骨も面白そうだとそれに加わったのだろう。


「俺にも言ってくれりゃ手伝ったのによ…」


「ごめんね、犬夜叉を驚かせたくて」


裏目に出ちゃった、と苦笑するかごめの頭に手を伸ばす。触れればずっと外に居たせいかヒンヤリとしていた。


「ま、結局会えたんだからいいじゃねえか」


「うんっ!…会いに来てくれてありがと」


ふんわり、と微笑まれて不意打ちを喰らった。よく見りゃいつもと違う巫女衣装はどこか彼女を大人っぽくしていて。髪の下の方で緩く縛った髪型とか、清楚な白衣に緋袴という姿とか。唇にはどうやら薄く紅をひいているようで。

今更ながら、そんな彼女が時間差で胸に来た。


「……」


「犬夜叉?」


魅惚れた、と意識して思いがけず胸が高鳴る。彼女の髪を撫でていた手をゆっくりと肩の方へと移した。


「お前……」


──綺麗だ、という言葉は喉の中でくぐもった呻きに変わって外へ出た。何故なら、


「犬っころ、てんめえ!」


「なーに二人でこんな所でイチャイチャしてんだよ!」


突然現れた奴等に後ろから首をがっちりホールドされてしまったからだ。


「鋼牙くん…蛮骨……」


「いやはや、私は止めたんですけどねえ」


「…ごめんねかごめちゃん、あたしだけじゃこのバカどもは抑えきれなくて……」


「弥勒さまに珊瑚ちゃんまで…」


愕然、呆然と彼らを見つめているかごめ。と、歯痒い気持ちで奴等を睨む俺。……コイツらめ、せっかくいい雰囲気だったってのに。


「あ、それでね、かごめちゃんの母さんが休憩していいだってさ」


「本当にっ!」


「ああ。だからその間あたしらが働いてるからかごめちゃんは少し息抜きでもしておいでよ」


「え…でも……」


「いいんですよ、かごめさま。私たちよりそこの可哀想な男を気遣ってやってください」


そう言ってニコリとこちらを向いた弥勒に訝しげな視線をやる。どういう意味だ弥勒コラ。何か言おうと口を開くと、そこから言葉が出る前にかごめがこちらを振り返った。


「じゃあお言葉に甘えて…!」


ニコッと顔に笑みを浮かべるかごめ。こうなりゃ可哀想でも何でも良い。とにかくかごめとの時間を貰えるならラッキーだ。


「はっ…なせテメエら!!」


「ぅわっと!危ねえな!」


「やかましい!とっとと仕事行け!」


やや乱暴に組まれた腕を振りほどき、先ほど蛮骨にやられたように大きく手を払う。嫌な野郎、とか何とかブチブチ言われたがこの際気にしない。


「時間ないから…このままでもいいかな」


そう言っておずおずと俺の前に来たかごめは、見目麗しい巫女姿のままで。


「いいけど…あれ来とけ」


みんなが肩から掛けている黒い羽織を指差す。分かった、と笑顔で頷いて一度実家へと入っていった彼女の後ろ姿がやけに楽しそうに見えて。思わず頬が綻んだのを慌てて手で覆い隠したのだった。




















前編了

→後編

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あきゅろす。
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