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捧物
☆ねがいごと





































夜はまだ明けない。

小屋の中もすっかり冷えきっていて、火を起こすことにした。火箸でそれを弄っているとかごめが後ろからそれを覗き込んでいるのに気付いた。


「どうしたの」


どうやら小屋に戻ってもだんまりな俺を見かねたようだ。


本当に俺はどうしちまったんだろう。


自分でも分からず、心配そうにこちらを見つめる瞳に苦笑を返した。


「なんでもねーよ」


「嘘。なんでもあるって顔してるわよ」


「…」


「……言いたくないなら無理には聞かないけど」


あまり溜め込まないでね、と。そう言って軽く俺の頭を撫でるかごめ。

昔と変わらないその優しさに、胸を燻(くすぶ)る感情がチリチリと痛み始めた。


「……犬夜叉?」


「…やっぱある」


「…うん」


俺はその場に腰を下ろした彼女にもたれかかる。頬にあたる髪の毛からはふんわりと甘い匂いがした。


「…なんか、よく分かんねえんだけどよ」


「うん」


「……今、お前にすげえ甘えたい」


「………」


流れる沈黙にドキリとした。決して下心があるわけではないのだが誤解された、…か?


「…犬夜叉」


彼女から訝しげな雰囲気を感じる。恐る恐る彼女の様子を窺えば。


「!」


「熱でもあるの?」


額に手を宛てられた。


「ね…っえよ…」


「熱いけど?」


──…な、んてお約束なヤツなんだ!!


内心でやきもきしながら、ムッと彼女を睨む。そんな俺にさえ気付かないんだからコイツは相当鈍感だ。


「……あのな、いいのかダメなのかどっちだよ」


「別にいいけど…あんたが甘えたい、なんて……」


ねえ?とそんな笑顔で言われても困る。


「えっと…とりあえず、はい」


ぽん、と彼女が自身の膝を叩いた。こんな会話の後にこういう展開はかなり気まずいが、自分から言い出したことなので大人しくそこに頭を乗せる。


「……」


「どう?」


「どうって…」


真上に見えるかごめ。正直落ち着いた。でも痛みが無くならない。


「足りない?」


そっと髪を撫でられて、目を閉じる。










柔らかな手。俺の手とは明らかに違う彼女の手。


性別は勿論、髪の色も、瞳の色も、育った環境も、生きてきた時代も。何もかも違う。














当たり前だ。





俺は半妖で、お前は人間なのだから────
































「…思い出した」


「え?」


起き上がって真正面から彼女を抱き締めた。


思い出した。


俺はお前と違うイキモノだから怖いんだ。


初参りへ行く道中、お前が俺のことをどう思っているのか、なんて考えたものだから。

信仰や習慣などはいつもなら引っ掛かることでもないのに、お前の真剣な顔がやけに遠く感じちまったから。


分からない。何もかもお前とは違う俺のことをお前はどう思っている?


今更な疑問が消えなくて、だから痛むんだ。


「……ねえ、犬夜叉」


徐に彼女が言葉を紡ぐものだから俺は思考を中断した。


「私が初詣で何をお祈りしたか教えてあげよっか?」


「……?」


トントン、と背中をあやされるように叩かれ、少しだけ肩の力を抜く。


「ずっと、犬夜叉と生きていけますように」


「!」


彼女のそれほど大きくない声が、ひどく胸に響いた。


「でもね、それって今年いっぱいのお願いじゃなくなるじゃない」


だから色々考えてたら時間掛かっちゃって、と照れ臭そうな声音が俺の鼓膜を震わせる。


「そしたらね、犬夜叉がこっち向いてる気配がして」


ああ、あの時か、と合点がいく。彼女の首もとに鼻先を埋めながら続きを促した。


「両手を合わせてお祈りしてる犬夜叉を見たら、思い付いたの」


聞きたい?とイタズラっぽく問うてくる彼女。もどかしくてすぐに頷く。


「今年は犬夜叉ともっと話せますように、って」


思わず顔をあげてかごめの顔を凝視してしまった。彼女はそんな俺にキョトンとした視線を送っている。


「…そんなことか?」


「ええっ!?結構大切だと思うわよ」


心外だとでも言うように頬を膨らますかごめ。嬉しい、けれども。いいのか、そんなことで。


「ほら、犬夜叉って口で気持ちを伝えるのが苦手じゃない」


「…まあ、……」


「だからね、さっきはすごく嬉しかった!」


早速願い事が叶ったと思ってびっくりした、と微笑う彼女を俺はもう一度抱き締めた。


「……犬夜叉は何てお祈りしたの?」


「俺は…」


























願わくば、ずっと───




























「……手」


「手?」


「…手繋いでたいって……祈った」


「そんなこと?」


「っな…!……そんなことじゃねえよ」


「それ、さっきの私と同じ反応」


「ぐむ…っ」


「そのお願いだったら私が叶えてあげるのに」


彼女に手を取られ、指を絡められる。きゅっと力を込められたと同時に俺の胸もか細く鳴った。




手だけをとったって大きさも爪の形も温もりさえ違う。




俺とは全く異なる他者──人間の存在をこれ程愛しく思ったことはなかった。

胸中のわだかまりが徐々に溶けていくのが分かる。


繋がれたままの手はそのままに、俺はそっと彼女に口付けた。


「……ん」


睫毛の下から覗く瞳にその想いが加速する。そんな感情を気付かれたくなくて、俺は、はあ、とわざとらしく溜め息を吐いてみせた。


「…もっと欲出しゃ良かったな」


「え?」


「手、だけじゃなくてこういうことも去年より出来ますよーに、とかよ」


「やだ、もう…スケベ」


「言っとけ」


そう言って再び唇を重ねる。唇の形が分かるほど彼女は熱を発していて。


「そういや…」


「……?」


少しでも動けばお互いが触れそうになるくらいの距離から彼女の瞳を見つめる。


「俺のこと、どう思ってる」


彼女は首を傾げ、少し間を開けて俺は彼女の柔らかな熱を感じた───頬に。


「…頬にかよ」


「だっ、て…恥ずかしいんだもの」


「……」


「もうっ!止めてよその不満気な目!」


分かったわよ、と言って彼女は俺の頭を抱えた。様々な感触と感情が入り交じって、正直、混乱した。

ヤケクソ気味な彼女の吐息を耳が聞き取って、無意識にピクリと動く。


「好き!好き!…大好きだよ、犬夜叉」


「ッ!?」


心臓が、煩い。さっきまで暗かった気持ちは何処へやら。今は身体が熱を持ったようにただただ熱い。


「えーっと、好き…す」


持て余した熱と共に彼女のその言葉を口ごと塞ぐ。


何だってコイツはこんなにも単純なんだ。


だけど、素直に嬉しいと、熱を押し付けながらふと笑う。


──その単純さに翻弄されている俺もそーとー単純なんだろうけど


お互いの熱を交わしながら、かごめの唇を舐める。強張った彼女に気付かないフリをして唇を割ろうとしたら、


「ッ!!?」


「あ、…ごめん」


舌を噛まれた。


「ッてめ、思い切り噛むことはねえだろッ!!」


「だ、だって、ビックリしちゃって…」


「だってばっかだな、おめーはよ…」


じんわり口の中に広がる血の味を飲み込みながら苦笑する。


「……じゃあ、犬夜叉はどうなのよ」


「え」


「私のこと、どう思ってる?」


「え゛」


私だけ聞けないなんて不公平じゃない、と言われては何も言い返せない。ぐむむ、と少し唸ってから彼女の頭に手を置いた。


「こ、…今年中には……言う」


「……本当?」


「お、…おうっ」


「うん、分かった。楽しみにしてるね」


絶対よ、と小指を差し出すかごめ。



根本的に異なる二人の手が、今は愛しく思えた。





















願わくば、─────

























もうひとつ増えたねがいごとは、ただ静かに己の心の中に沁みて、消えた。

夜が、明けようとしていた。





紗叉さまへ

この度は企画への参加、またリクエストありがとうございました!

初詣夫婦犬かご→甘甘、とのことでしたがいかがだっでしょうか。

途中…というより7割くらいシリアスが混じっていましたが……お題に沿うことが出来ましたでしょうか(..;ビクビク

最後のねがいごと、はご想像にお任せします!私的にはゴニョゴニョ…←

毎日足を運んでくださっているなんて!!(>д<。
更新が遅い管理人で申し訳ないです…m(__)m

今年もきっと相変わらずな感じですが、これからもどうぞよろしくお願いします!(>_<*


それでは紗叉さまにとって良いお年になりますように!!

ありがとうございました!(^O^*

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