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捧物
☆巡り廻る






























夕食は地念児さんたちの所で済ませ、借りた小屋に入ったのは日がとっくに暮れてからだった。

私たちの家より少しだけ小さいけれど、中はキレイだし、気を遣ってくれたのか火も起きていた。

……そこはいいのだけれど。


「…犬夜叉?」


「……」


何やら機嫌が悪そうだ。ムスッとしちゃってもう。


「…折角の二人旅なのに」


そう呟けば、ぴくっと犬耳が動いた。良かった、本気で不機嫌なワケではなさそう。


「ねえ、…犬夜叉」


そう言って衣の裾を引けば、チラリと一瞥される。真っ直ぐにその瞳を見返すと、彼は大きな溜め息を吐いた。


「…分かんねえな」


犬夜叉はその場にドカッと胡座を掻いてひとつ、膝を叩いた。


「何が?」


そう言いながら私は彼の胡座の中に腰を降ろす。見上げれば少し唸りながら彼も私を見下ろしていた。


「お前は、…何でそんなに妖怪に好かれんだろうな」


「へ?」


「気付いてねえし……」


「えーと、鋼牙くんのこと?」


ぽん、と頭に浮かんだ彼の名を口に出すと犬夜叉の眉間に更に深いシワができた。


「そんな奴も居たな」


違えよ、と頭をぐりぐり掻き乱される。私が余程分からないという顔をしていたのだろうか、犬夜叉は二度目の大きな溜め息を吐いた。


「地念児だよ、地念児」


「ええっ!」


「好意を持ってんのは確かだろ」


「気付かなかったわ…」


「…俺でも気付くぞ」


ホント鈍感なんだからよ、と犬夜叉は私を見ながら目を細めた。そんなこと思いもよらなかったし、言われても困る。


「ったく…」


犬夜叉はそう言って天井を仰いでしまった。もしかしなくても妬きもちかな、なんて考えてつい笑みがこぼれた。


「そういえば!」


「んー?」


「おばあちゃんの昔話覚えてる?」


「あー…あの燃えるような恋ーとかいうヤツだろ」


「そうそう!」


おばあちゃんはその人が人間ではないということがすぐ分かった、って言ってた。


「私も犬夜叉が人間じゃないってすぐ分かったよ」


「これだろ、これ」


そう言って犬夜叉は器用に方耳をパタパタ動かす。そういえば初めて見たとき、引っ張った記憶がある。


「私たちの出逢いってどんな感じだったかな?」


一瞬犬夜叉の顔がひきつった。まあ、お互い第一印象は悪いとは思うけれど。


「私はキレイな男の子だな、って思ったよ」


「なっ…」


「封印されてるまではね。それから途中まではすごく嫌いだったけど……あれ、好きになったのはいつからだったかな」


思い出す素振りをしながら彼のことを盗み見ると、これでもかってほど顔が赤くて。そんな表情に頬を綻ばせながら彼の胸に頭を預ける。


「ねえ、今どう思ってるか聞きたい?」


「……」


長い無言が返ってきた。反応を窺おうとした瞬間、フワリと身体が抱き上げられる。


「ゎ、」


「……火、消すぞ」


言い終わる前に小屋の中が真っ暗になる。目が慣れるまで何度か瞬きをして、再び座った彼を見上げる。


「どうしたの?」


「…あのな、そういう話は明るいところでするな」


「どうして?」


「……顔、見られたくねえ」


言うや否や後ろからぎゅう、と抱き締められた。彼の胸に頭を預けると心臓の速い鼓動が聴こえた。
犬夜叉も私にドキドキしてくれてるんだ。嬉しい、なんて思っていると耳元で囁かれた。


「で?今俺のことをどう思ってるか、だったよな」


「え…あ、うん……」


「聞かせろよ」


声が、近い。暗くした途端人が変わったように声が低くなった。心臓が高鳴るのを覚えながら私はひとつ、息を吐いた。


「たまに意地悪だけど…本当はかまって欲しくて、甘えん坊で、…寂しがり屋さん」


「…いいとこねえじゃねえか」


「いいところじゃない」


「他にはねえのかよ」


顔を見なくても分かる。この人、絶対底意地の悪い顔をしてるわ。でも、他に無いわけがない。あなたのいいところならいくらでも言える自信がある。


「優しいところ」


「…おう」


「嘘をつかないところ」


「……」


「傍に居てくれるところ」


あとね、と言いながらお腹で交差する彼の手にそっと手を重ねる。


「抱き締めてくれるところ」


あなたは口で伝えるのが苦手な人だから。だから私の手をとったり、抱き締めたりすることはあなたなりの想いの伝え方。

そのことに気付いてから、あなたが私に触れる度に、想われてるんだな、って嬉しくなったの。


「……ありがとう、犬夜叉」


出逢った時はこうなることなんて想像もつかなかった。それに出逢わなきゃ良かった、って思ったこともあった。

それでも。

今、確かに二人はこうして繋がっている。種族も、時代も、何もかもが違う私たちなのに。

巡り廻る時の中であなたに出逢えたことが、どれだけ、どれだけ幸せなことか。


「私、…幸せだよ」


言葉にした途端、涙が一筋頬を流れた。悲しいわけでもないのに、後から後からこぼれ落ちて止まない雫。


「…泣いてんのか?」


その問いかけに頭を横に振る。違うの、悲しいわけじゃないの。おかしいな…嬉しいのよ、ものすごく。


「………かごめ」


犬夜叉は私の身体を持ち上げて、いつもよりずっと優しく正面から抱き締めてくれた。
いつの間にか泣きじゃくるまでになってしまった私は、それに甘えて彼の胸に顔を押し付ける。


「……俺も、…幸せだ」


あやされるように背中を叩かれ、髪を撫でられ、そう呟いた犬夜叉の声は私の想いに更に拍車を掛けた。


「…柄じゃねえけどな、……お前と出逢えて、良かった」


ああ、幸せだと、ただそれだけをひたすら噛み締める。嗚咽混じりに頷くと、彼の腕の力が強まった。

春と言えども夜はまだ冷え込む。小屋の中に細く吹き込んできた春の宵風は、何故か深く心に沁み渡ったのだった。





CaptainOさまへ


この度は企画への参加、またリクエストありがとうございました!

新婚旅行で幸せを噛み締める二人…いかがだったでしょうか!

場所は何処でも可、ということでしたので地念児さんの所に行ってもらいました!理由は個人的に好きな話だったのでモゴモゴ…

フライング、寧ろ有り難かったです!(*^□^*)
正直果たして需要があるかどうかビクビクしていましたので、本当に嬉しく思いました!

そして多くのお褒めの言葉、恐縮ものです(;-;`)
これからも頑張りますので、どうぞ末永くよろしくお願いします!(^^*

それではCaptainOさまにとってよいお年になりますように!

ありがとうございました!

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あきゅろす。
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