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捧物
宵醒まし

リリィさま/100枚












ぱちぱち、と火の粉が跳ねる音が小屋の中で響く。

それに混じって、四人分の寝息も聴こえる。


静かで穏やかなこの時間は、嫌いじゃない。


『宵醒まし』


ふと空を見やる。昼間は灰色だった空も、今は雲が僅かにたなびく程度しか残っていない。


黒く細い雲の間から明るい星が瞬くのが見えた。


ぱちり、と火が大きく跳ね、今度はそちらに視線を移す。そこには安らかに眠る仲間の顔。


ふっと自嘲が漏れた。


居心地が良いなど、もうそんな感情持たない筈だったのに、と。


「……犬夜叉?」


急にかかった声に内心びくりとする。


「起きてたのか」


そんな気配は全くしなかった。否、気付かなかった。

こっちを見つめるその瞳に炎が反射して揺らいで見える。


あるわけがないのに、心の声が漏れたのかとドキリとした。


「どうした?」


「ううん、なんか眠れなくて」


「そうか…」


「ねえ、隣に座ってもいい?」


「…ああ」


短く返事をするとありがとう、と微笑まれる。

かごめが俺の横に座ると優しい匂いが強まった。


落ち着く。


しかし、と思う。



誰かを愛するなど、もうそんな感情信じない筈だったのに。


ぱちっ


火の粉の欠片が手に飛んできた。

特に熱い、とも痛い、とも感じない。


「だ、大丈夫!?」


ふわりと心配性な彼女に手を持ち上げられた。小さくて華奢な手が俺の右手を包む。


「火傷はしてない?」


「するかよ」


「本当に?」


「お前らと一緒にするんじゃねえっての」


「…そうだったわね」


その言葉と一緒に手が離される。温もりが消えた。


手を伸ばしかけて、止める。その手を握る資格なんて俺には、ない。


かごめの手は綺麗すぎて。それに触れるには俺の手は汚れすぎた。



人を殺めたこともある。



この手にはかごめと同じ、人間の血がこびりついているのだ。



知られたくない暗黒過去。



こんな汚れた手で、かごめに触れてはいけない。汚してはいけない。



手を伸ばせば、簡単に届く距離なのだが。










かごめが無言であったことに甘えて、俺はいつの間にか、ひとり思いにふけっていた。


しばらく自分の手を眺めていたらしい。


顔をあげると壁に自分の手の残像がぼやあと映った。


目がちかちかする。


瞬きをしていると白い手がヒラリと目の前を通り過ぎる。


「起きてる?」


「…まあな。つかお前まだ寝れないのかよ」


「なんか目が冴えちゃった」


「明日眠くなっても知らねえぞ」


「犬夜叉におぶってもらうからいいもん」


「誰がおぶうかっての」


「もう」


ふっと抑え気味に笑いあう。想い合っている、と錯覚さえ覚えそうだ。


「…かごめ」


「なあに?」


「…いや、なんでもねえ」


「…あんた、なんか変よ?」


かごめの怪訝な顔。普段は超鈍感なくせに、こういう時には勘が鋭い。内心おののきながらも黙って彼女を見つめる。


「あ、わかった!」


「な、なんでい」


「やっぱり火傷したんでしょ!」


前言撤回だ。やっぱり鈍感は鈍感だった。



すると、見せてみなさい、と急に手を引っ張られる。





…俺はお前に触れてはいけない、と今しがた思い至ったところなのに。










俺が引いた線を、お前は何故容易く飛び越えてくる。









優しい手は、泣きたくなるほど温かい。


「…そんな顔しないでよ」


痛いの?と眉間をつん、とつつかれて眉をしかめていたことに気付く。


困ったように微笑まれることさえ、嬉しい。

こんな気持ちなど、知らない。


「あのよ…」


「ん?」


近付きすぎてはいけなくて。かと言って遠ざかられるのは苦しくて。




「傍に…いてくれ」




手が届かないなら切り捨ててしまえば楽なのに。

もうそれが叶わないほど俺はかごめに依存している。


「当たり前じゃない」


顔を覗き込まれる。


「私たちは仲間なのよ?」


目の前でふわりと笑われる。


「みんな、犬夜叉の傍から居なくなったりしないわ」


もちろん、と言いながらかごめは俺の手を自分の頬にあてた。


「私もね」


手から伝わるかごめの体温が愛しい。


「だから…大丈夫よ、犬夜叉」


かごめの伏せられた眼が、彼女の長い睫毛を強調させる。


「ずっと、傍にいるから」


ずっと、ずっと、と繰り返すかごめは気付けば泣いていた。

もしかしたら、こいつは本当に人の心の声が聴こえるのかもしれない。

かごめは、俺の代わりに泣いてくれているようだった。




だけどお前みたいに「ありがとう」なんざ素直に言えないから。


ただ右手を包んでくれている手を強く握り返す。


ぱたぱたと落ちるかごめの涙が俺の手に落ちてくる。

まるで、俺にこびりついた汚れを流し去っていくかのように。



お前がずっと傍に居てくれると言うのなら


この汚れた手を握り締めてくれると言うのなら





俺は、この手をお前を守るためだけに使おう。












――なあ、独りよがりなんかじゃねえって自惚れてもいいか?












炎の灯かりは、小さくなっていた。







遅くなってすみません!


手の動きが個人的に好きなんです笑

というより手が好きなんです!←

頂いたお題にミックスさせてみました!


お題、ちゃんとクリアしてますかね…(°°;ビクビク




リリィさま、リクエストありがとうございました!m(__)m

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あきゅろす。
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