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小説
はちみつ9


部屋が散らかっていたから
夜通し片付けをしていた


明日も仕事だというのに


忙しくて
家事がおろそかになってきて
散らかった部屋では
いい曲も思い浮かばなくて
余計追い詰められて


イライラしすぎていやになって
部屋の掃除を始めてしまったのだ


こういう時に防音ルームはいい
深夜でもピアノを弾けるし

掃除機だってかけられる


部屋がきたない
頭がごちゃごちゃする

もういっそ全部捨ててしまおうか


本も
服も
鏡も

テレビも

家具も



ピアノだけ残して
全部捨てたらスッキリして
作曲も捗るかな


まぁ現実的に考えてそんなの無理なのだけど

こんなばかな事を考えるあたり相当追い詰められているのかもしれない


シャワーを浴びて
お気に入りのボディスクラブをしても気分はスッキリしなくて

もうダメだ、と外の空気を吸いにいくことにした


すっぴんだからとマスクをして
財布と携帯、あと家の鍵だけ持って家を出た

まぁこんな時間に行くあてなんてないから

コンビニとかちょっと寄ってくるだけだけど

マスク越しではあるけど
外の空気

部屋の空気より冷たくて
酸素が多い気がする

なんとなく
頭の中がスッキリした


でも、帰ったら仕事の続きやらなきゃな


まだ帰りたくないと
TSUTAYAに寄り道していくことにした


仕事が終わったらなんかスッキリするの見よう


このTSUTAYAにきたのは
この前の風斗くんと閉じ込められた以来だった


何みようかな
日本のやつかな、気分的に

泣けるコーナーをとりあえず順番に見ていく

泣けるアニメ、というところで
この前出会った声優さん、朝日奈椿さんが出ている作品を見つけて思わず手に取った

すごい、これ結構有名なやつじゃん
見たこと無いけど
そんなの出てるんだ


と、ふと視線を横にずらすと

サングラスをかけた
知った顔を見つけて目を逸らす


なんでいるんだろ

いや、彼常連か、ここの


ばれないように、と

そのまま背中を向けて去る

しかし

「 なんで僕の姿見つけて逃げんの」

ばれていた、と足を止めた


『 いや、あの 』


だってすっぴんですし
服も適当だから怒られる、と


『すっぴんだから』


「 あっそ。それ借りるの? 」


『あ、いえ、見てただけです』


言われて気づいた

とっさに椿さんのDVDを持ってきていた
しかもカバーごと


返さなきゃ、とパッケージを置くと

横から手が伸びてきてそれを持った


「僕アニメとか見ないんだよね」


『 そうなんですか 』


「 あんたは? 」


『まぁたまに』


「僕はこれすきじゃないけど」


『 なんでですか? 』


「 べつに。 」

アニメ見ないって言ってるのに好き嫌いはあるんだ


『見たことあるんですか?』


「なんとなくならね。家で見てる人がいたから」


弟くんとかが見てたのかな


『じゃあオススメはありますか?』


「 どんなのが見たいわけ?てゆうか僕あんたに選ぶためにここにいるわけじゃないんだけど 」


『 いいじゃないですか、オススメ教えてくれたら自分で探します。スッキリするのがみたいです』



「 泣けるやつとか? 」


『はい』


「邦画?」


『あー、邦画すきです』


「じゃあこれ」

とこれ、と何本か自分が持っているやつから私の手においた


『あれ?借りるんじゃないんですか?』



「 それは何回か見たやつだからあんたに譲ってやってんの 」


『あ、ありがとう』

なんだろ、この映画


「 2本でいい?帰るよ 」


とレジにむかう風斗くん

あれ、一緒にかえるのかな


まぁいいか、2本で
仕事が待ってるからあんまり長居もできない


お会計を済ませて
エレベーターに2人で乗るとこの前の事を思い出してすこし不安になったけど

すんなり降りていったエレベーター


「 あんたこんな夜中にいつもうろついてるの? 」


『いえ。なんか家にいるの息苦しくなっちゃって』


「なんで?自分の家でしょ?」


『仕事が進まなくて、ちょっとスッキリしたくなっちゃいました』


「ふーん。家でも仕事やってんだ」



『 はい、忙しいときは。風斗くんは仕事帰りですか?』



「そうだけど」


『 いつも遅いんですね 』


「別にこれぐらい普通だし」


風斗くんと会うなんて
理由がなければ無いと思っていた


『家近いんですか?』


アイドルの朝倉風斗くんと偶然会うなんて滅多にないから

けど、よく会うから


「 じゃなきゃこの時間にわざわざここにいるわけないでしょ?なに?あんたにDVD選んであげるためにここにいたとでもおもうの? 」


『 いや、さすがにそこまでは思わないです 』


「 だったらそんなどうでもいいこと聞かないで 」


『ごめんなさい』



「 あんたすぐ謝るよね 」


ごめんなさい、とまたいいそうになって
黙り込んだ



だって風斗くんがすぐ怒るから



「 あんたずっと元気ないよね。普段からそんなんなの? 」



『 こんなんですよ 』


「 また先輩?くだらな。いい加減他に好きな人でも作ればいいのに。女子なんてそういうもんでしょ? 」


『風斗くんは女の子は嫌いですか?』


「 そんなわけないでしょ?ファンのみんなは大切にしなきゃいけないし、感謝してるよ 」


そういう意味じゃなかったのにな


『すきな子はいないんですか?』


「あんたに関係ないでしょ。アイドルの僕がそんなこと言うわけないじゃん」


『…風斗くん今日機嫌悪いですか?』


「僕はいつでもテレビの中と同じじゃなきゃいけないわけ?」


『いえ、私は目の前にテレビの中の朝倉風斗くんがいたことないですよ』


私の前にいるのは
いつもなにか機嫌の悪いような
周りに気なんかつかわない
いいたいことはなんでも言う
強気な朝日奈風斗くんだった



「 なにそれ?僕のことわかってるつもり? 」


『 そんなことないですけど 』


あー、だめだ。
この人と今日は話せないかもしれない

だってお互いイライラしているから


『疲れましたね』


「 …本当だよ。お腹空いたし 」

この人はいつもお腹空いているな

イライラさせちゃうから、と
並んで歩いてたけど
横に2歩ずれて距離をあける


「なに?」


『 べつに 』

この時間
人通りもほとんどなくて

広がって歩いても迷惑にならない


「ふーん。あんたさー」


『なんですか』


「 先輩の連絡先しってんの? 」


『知ってますけど』


「 じゃあ今電話しなよ 」


『何でですか』



「告白してさっさとすっきりさせれば?」



『 いや、そんな、む、無理ですよ!だ、だいたい先輩のこと!べつにもうすきじゃないですし』



「はぁ、そんな反応されたら先輩好きですって言ってるようなもんじゃん。わかりやすすぎ」


『い、い、いや!そんなことないですよ』


「あんたどっかのバカに似てるね」


『なんですか、そのどっかのバカって』



「 あんたの先輩と同じ誕生日のバカだよ 」



『誰ですか。もう』


「ねえ、電話しないの?」


『しないです』


「 先輩の事好きなんでしょ? 」


『 だって先輩は他に好きな人がいますから 』


「なのにさっさと諦めないんでしょ?馬鹿だね」


『 言われなくても、わかってます』


「 他に好きな人でもできたら諦められる?」


『まぁ、そうなんじゃないですかね』


「じゃあ僕があんたのスキな人になってあげる」


『 …は?』


「なに、その反応」


『いや、意味わからないです。好きな人になるって』


「だーかーらー、あんたほっといても好きな人できなそうだから僕があんたのスキな人になってあげるって言ってんの。あんたの好きな先輩よりイケメンでしょ?」



『いや、そういう問題じゃなくて』


「 だって、アイドルの朝倉風斗だよ?スキな人になってあげるって言ってるんだよ、喜びなよ 」


『 いや、先輩は優しいです 』


「なに?僕に優しくしてほしいわけ?」


『…そうじゃないですけど』


「じゃあ決定。あんたのスキな人は僕。それに僕もちょうどスキな人欲しかったんだよね。役作りで」


『役作り?』


この人、何いってるんだろうと思ったけど
機嫌悪いの
少し治ってる


「そ。僕あんまり片思いとかしたこと無いから片思いの気持ちわかんなくてさー。だからあんたの事も僕のスキな人にしてあげるよ」


『私の好きな人が風斗くんで風斗くんの好きな人が私なら両想いじゃないですか』



「ちがう。お互い片思いなの。だって僕付き合うとかめんどくさいしアイドルだよ?恋愛とか無理無理」


『 じゃあ、片思いごっこですか?』


「 そ。僕のスキな人はあんただよ。瞳 」


と、初めて名前を呼ばれた


わ、びっくりした

驚いて
心臓が少しうるさくなった


「 だからあんたも、先輩じゃなくて僕をスキになりなよ 」


そんな、急に好きになるなんて無理だった


でも、好きなことにするだけなら
できるかもしれない



だって、
お互い遊びだから




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あきゅろす。
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