小説
タバコ
歓迎会の日以来
彼とは必要最低限しか話していない
帰り道だって同じ方面だけど
わざと時間をずらす
今日は長時間だったから30分休憩に入った時に上がりのパートさんが帰る間際にタバコを吸っていた
私は本数はあまり多くないけど
人が吸っていると吸いたくなる
しかも30分休憩って意外にやることがない
パートさんと雑談をしながらタバコを吸うことにした
「お先です」
『 おつかれさまです』
タバコを灰皿に捨てて先に上がるパートさん
休憩は後半分くらい
話し合いてがいなくなってしまい暇を持て余した為に2本目のタバコに火を付ける
「おはようございます」
『 … 』
聞きたくない声が聞こえてきて顔を上げると
私服の及川くんが出勤してきた
『おはようございます』
まずい煙を吐いてから挨拶をする
「あれ?瞳ちゃんってタバコ吸うっけ?」
『 うん、少し 』
「 知らなかったー、モテないよ? 」
私の前に腰を下ろしてタバコに火を付ける及川くん
『別にいい』
彼と2人で話すのはあの日以来だ
「 何吸ってんの? 」
無言でタバコの箱を彼に見せる
「 女の子のやつだー!ひとくち 」
タバコを1本取り出して渡そうとするが
「 ひとくちでいいって 」
『 ちょっと 』
彼は私の吸いかけのタバコを取り上げて吸う
「 メンソール強いね 」
そういってタバコを返されたが
そのまま灰皿につっこんだ
「 なんか今のひどい 」
『いいでしょ、べつに』
「 俺のもひとくちいる? 」
『 いらない 』
「 なんで?間接ちゅーだから? 」
『ちがう』
もう戻ろう
タイマーを止めて身体中にファブリーズをして仕事に戻る準備をはじめる
「まぁキスした事あるもんねー、今更間接ちゅーくらい気にしないか」
『 それ、 』
「 思い出した? 」
『やだ、しらない』
「えー、思い出してよー」
及川くんもタバコを灰皿に入れて
立ち上がった
やっぱり身長たかい
戻ろうとする私の前にとおせんぼみたいに立つから
あの時の事を思い出しそうになる
『 なんで?』
「 なんでって、覚えててほしいじゃん。俺と瞳ちゃんの初めての甘い記憶」
甘い記憶
『 そんな記憶、ない』
キスしたこと知らないっていうのは嘘だけど
甘い記憶なんてないっていうのは本当
知らない、そんな記憶
私が知っているのは甘いのじゃなくて血の味だ
「 ひどいなー、思い出すようにもう一回キスしてみる?」
そういって、私の頬に手を添えてきた彼の行動に鳥肌がたった
血の味がする
『やだ』
彼と目を合わせたらダメだ
身体中に一生懸命命令をだして
固まりかけている体を動かして彼の手をはらった
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